第11話 命賭す者
シーンB
○ エディンバラの街・宿屋
早朝。
籠を持ってこっそり宿を出ようとするマーハ。
マーハ 「あ!」
出口にはタケルを始めとするレイン達が待ちうけている。
マーハ 「…みんな…」
タケル 「ヨシュアから聞いた…街の外で、魔族と会ってたらしいな?」
マーハ 「(驚いた顔をしてヨシュアを見る)見ていたの?」
タケル 「お前、あいつらに何されたか忘れたのか!あいつら魔族の指揮する魔将が俺の村にした事を!!」
マーハ 「覚えてるよ、忘れたりなんかしない!」
タケル 「だったら、よくそんな真似が出来るな!」
グリン 「よせよ、言いすぎだ!」
タケル 「お前だって仲間を殺られたんだろ?」
グリン 「……」
タケル 「俺やグリンだけじゃない。ミッフィーやヨシュアだってあいつらにどんな仕打ちを受けたか…お前は見てきたはずだ!」
マーハは苦しそうにタケルから顔を背ける。
マーハ 「(ヨシュアに)あなたは…サーカスの舞台で覗いたんでしょう…私の…心の中を…」
ヨシュア 「そうですね、魔将に操られ不本意ながらですが…」
オーフェ 「マーハさんの心?」
ミッフィー 「……」
ヨシュア 「彼女は銀の髪を疎まれ、両親の愛情を受けずに育ちました。他人に心を説きながら、本当は自分の心が欠けていたのですよ」
マーハ 「……」
タケル、グリン、オーフェに驚きの表情。
ミッフィー 「よすんや!ヨシュア!!」
マホメト 「……」
マーハの表情は凍り付き、体が小さく震えている。
ヨシュア 「そうして、信じていた両親に血の繋がりが無い事を知った。あなたは逃げてきた…。この世界に」
マーハ 「!」
マホメト 「異世界から来たのじゃな?」
ヨシュアを除くレイン達に驚愕。
ヨシュア 「そうですよ、師匠…どのような方法かは知りませんが。『導きの星』ルラも只の家出少女に過ぎないわけです」
一瞬の沈黙。
マホメト 「(マーハに)そういうことなのか?」
マーハ 「家出少女か…フフフフ…」
突然笑い出すマーハにギョッ…とするレイン達。
マーハ 「本当の事を知ればみんな軽蔑すると思った…わたしは…」
意を決し顔を上げるマーハ。
マーハ 「高層ビルの屋上から…飛び降りたの…」
タケル 「…飛び降りた?」
ヨシュア 「!」
ヨシュアを含めたレイン達に驚愕。
マーハ 「ルラだなんて言うけれど、ヨシュアの言う通り。わたしも只の人間だもの…こんなわたしなんて、死んでしまえばと思った。でも死ねなかった…」
手元にあるロッドのホワイトストーンに目を移すマーハ。
マーハ 「ホワイトストーンが私を守ってくれたの」
マホメト 「……」
同じ様にホワイトストーンに目を移すマホメト。
マーハ 「そして、この世界に来た…。わたしは…(タケルを見て)『私なんかの為に命をかけてくれた人達が居る。だから今は死ねない』って言った事あったよね?」
タケル 「ああ…」
マーハ 「わたしはあの村の人々に救われた。だから、今度は自分が同じ様に苦しんでいる人を救いたい…。そうする事で、自分も救われる…そんな気がするんだ」
タケル 「……」
マーハ 「…ごめんね、みんな」
動かないレイン達の横を通り抜けて行くマーハ。
オーフェ 「行ってしまいましたが、ど、…どうしましょう?」
タケル 「……」
マホメト 「ヨシュアよ…、少し出過ぎたのう?」
ヨシュア 「……」
ヨシュアその表情。
ヨシュア 「……」
ヨシュアもまた宿から出て行く。
グリン 「おいッ!」
マホメト 「いや、マーハの事はヨシュアに任せてはくれんかの?」
グリン 「でもよ…」
マホメト 「あれは母を捜し、旅をしておった…。今から5年ほど昔の話じゃ。探しておった母親が既にこの世に居らぬ事を知った」
ミッフィー 「母親が?」
マホメト 「うむ。それからあれはワシの前から姿を消した…」
オーフェ 「ヨシュアさんにしてみれば、生存している御両親を恨むと言う事を許せなかったのかもしれませんね…」
ミッフィー 「親か…」
タケル 「……」
レイン達その表情。
主人 「レイン…」
突然生気の無い声でうわ言の様に呟きながら現れる、宿の主人。
グリン 「何だ?」
ミッフィー 「様子が変やで!」
オーフェ 「み、皆さん!外に!!」
タケル 「何!!」
宿の外を取り囲むように、同じ様な生気の無い街中の住人。
手には斧やら、包丁やら、箒やら、ロープやらを持っている。
住人(ガヤ) 「レイン…」
住人(ガヤ) 「レイン…」
住人(ガヤ) 「レイン…」
住人(ガヤ) 「レインを捕らえよ…」
住人(ガヤ) 「レインを捕らえよ…」
住人(ガヤ) 「捕らえよ…」
既に宿は包囲されている。
ミッフィー 「な、何やの!?」
タケル 「魔将の仕業か?」
マホメト 「何と、街全ての人間をこうも操るとは…」
グリン 「ど、どうするんだよ!!」
住人(ガヤ) 「レイン…」
住人(ガヤ) 「レインを捕らえよ…」
ガタン!!…扉を開け進入してくる住人達。
宿の中に住人が雪崩込んで来る。
オーフェ 「う、うわあああっ!」
人が溢れ、身動きすら出来ない。
グリン 「くっそお、ジジイ。魔法でどうにかならねえのか?」
マホメト 「この住人達は操られておるだけじゃ!むやみに殺すわけにもいかん!」
住人(ガヤ) 「レイン…」
住人(ガヤ) 「レインを捕らえよ…」
ミッフィー 「オーフェはどうなん?」
オーフェ 「無理です、この人数では!1人1人正気に戻すにも…」
ミッフィー 「フニャアアアアッ!」
担ぎ上げられ悲鳴を上げるミッフィー。
タケル 「ミッフィー!」

○街の城壁の外・山中
岩陰で体を休めているダルス。
マーハはダルスの肩に新しい包帯を巻いている。
ダルス 「それがお前の心の傷か…」
マーハ 「うん…」
ダルス 「俺とお前は似ているのかもしれない」
マーハ 「わたしとあなたが?」
ダルス 「俺の父はデストニアでレジスタンスとして魔王軍の支配に抗った。その最後の戦いの前日、俺と弟は父に捨てられたのだ」
マーハ 「……」
ダルス 「残されたのは魔王軍の支配下での『裏切り者の子』としての汚名。物心ついた時からその話を聞かされ、父を憎み、自分を憎み心を閉ざした…。自分以外の者と言葉を交わす事すら殆ど無くなった」
マーハ 「……」
ダルス 「お前は不思議な娘だ。昨日初めて会ったばかりだというのに、こうも自分の心を打ち明けている…」
マーハ 「似ているから?」
ダルス 「かもしれん…」
肩の包帯を巻き終わり、額の古い包帯に手をかけようとするマーハ。
ダルスはそのマーハの手をおもむろに掴む。

ダルスその表情。
ダルス 「マーハ、俺と共に来い。魔王の手も、神の手すらも届かない世界の果てへ、俺と共に行かないか?」
マーハ 「……」
マーハのその表情が一瞬悲しみに曇り、顔を伏せる。
ダルスは掴んでいたマーハの手をゆっくりと離す。
ダルス 「無理を言ったな…」
マーハ 「…ごめん」
ダルス 「お前には…できやしない…。分かっていた…」
マーハ 「……」
ダルス 行くがいい…。お前の仲間は我等の手に落ちた」
マーハ 「!」
ダルス 「次に遭う時は…お互い敵同士だ」
立ちあがるマーハ。
マーハ 「ごめんなさい、ダルス…」
その場を走り去るマーハ。
ダルス 「……」
ダルスその表情。
が、間を置いて立ち上がり木の一本を見上げる。
木の枝の上にヨシュア。
ヨシュア 「見つかってしまいましたか…」
ダルス 「レインか…」
ヨシュア 「あなたは最初から彼女がルラだと知っていた。上手く騙し誘き出したものです。やり方が卑猥ですね…」
ダルス 「……」
ヨシュア 「ここで逃し、捕らえたレインの目前で殺すのも又一興ですか?」
ダルス 「……」
ヨシュア 「だが、彼女がこの罠に乗りますかね?懸命なルラであれば、この危険を回避する。レインには死んでも代わりはいますから…」
ダルス 「……」
ヨシュア 「確かに彼女は懸命ではない。死に直面している命を救う事を彼女は正義としていますからね。御立派な事です」
ダルス 「貴様は何も分かってはいない」
ヨシュア 「……」
ダルス 「只の女であれば苦しまずに済んだ。だが、あの娘はルラとして生きる事を選択したのだ」
その場を立ち去るガルス。
その様子をじっと見送るヨシュア。
ヨシュア 「あなたに彼女が討てますか?」
ダルス 「……」
姿を消すダルス。
ヨシュア 「(呟)そして彼女にあの男が討てるのか…」

○ 領主の館・屋上
夜。
鋼鉄の柱に縛り上げられたタケル、グリン、オーフェ、ミッフィー、マホメト。
その横に鉄仮面の男(ダルシアン)とバアル。
バアル 「ヒヒヒヒッ、これでレインもルラも一掃出来るというものじゃ」
縛り上げられたレイン達を満足げに見上げるバアル。
グリン 「くっそおッ!卑怯だぞ、放しやがれッ!!」
暴れるグリン。
ミッフィー 「きっと、マーハが助けてくれる!」
オーフェ 「駄目です!ここに来た所で袋の鼠ですよ!!あ〜、でも…そうしたら僕達は…」
ミッフィー 「マーハはいつだって、ピンチの時もどうにかしてくれたやないの!」
タケル 「(小声)マホメト!」
マホメト 「む!」
タケル 「(小声)ヨシュアはどうしてるんだ?」
マホメト 「(小声)わからん…」
タケル 「(小声)わからんじゃないだろ!」
マホメト 「(小声)全く連絡が取れんのじゃ…」
タケル 「…くっそお…。これは罠だ…このままじゃマーハは…」
その様子を一行に気にせず、ダルシアンは虚空を見つめている。
ダルシアン 「……」
駆け上がって来る足音が、静かな夜空に木霊する。
タケル 「マーハ!」
バアル 「来たな!」
ダルシアン 「……」
マーハ 「ハアハア…」
息を切らして屋上へ走りこんできたマーハ。
マーハ 「みんなを返してもらう…」
ダルシアン 「……」
バアル 「ヒヒヒヒッ、愚かなルラめ。まんまと誘われおったわ!」
印を組もうとするバアルの前に立つダルシアン。
バアル 「何?」
その鉄仮面を脱ぐ。
ダルスの表情。
ダルシアン 「我は魔王四天王の1人『ダルシアン』。相手願おう…」
鞘から自分の大剣を抜き、その切っ先をマーハへと向ける。
ダルシアン 「『導きの星』ルラ=マーハ!」
一瞬流れる沈黙。
マーハ 「こうするしかないの?」
ダルシアン 「……」
マーハ 「その前にみんなを放して」
ダルシアン 「…いいだろう」
その言葉と共にレインたちを縛っていた金具が解ける。
バアル 「馬鹿な!」
怒りに満ちたバアル、ダルシアンに向き直り。
バアル 「話が違うぞ!レインを人質にルラを…」
ダルシアン 「!」
言いかけた所で、ダルシアンはバアルに大きく剣を振りかぶる!
バアル 「グアアアアァァァァッ!」
その大剣の衝撃波で大きく飛ばされるバアル。
壁に体を打ち付け、そのまま動かなくなる。
マーハ 「!」
その威力に目を見張るマーハとレイン達。
グリン 「よし、マーハ。助太刀するぜ!」
マーハ 「みんな、来ないで!」
マーハのその意外な言葉に言葉を失い動けなくなるレイン達。
タケル 「何バカな事言ってるんだ!」
マーハはレイン達の言葉が耳に入っていない。
マホメト 「よすんじゃ、タケル!」
タケル 「何言ってるんだ、マホメトまで…」
マホメト 「信じよ、マーハを!」
他レイ 「……」
剣を構え、マーハに向き直るダルシアン。
一方、マーハはロッドを構えようともしない。
ダルシアン 「武器を取れ、マーハ…」
マーハ 「私には出来ない」
ダルシアン 「後には引き返せない、これは決着だ。お互いの…ルラであるお前と、四天王である俺との…」
マーハ 「そんなの関係無い」
ダルシアン 「だが、お前は選んだはずだ…ルラとしての己を」
マーハ 「わたしは…」
ダルシアン 「これは運命だ…マーハ」
マーハ 「……」
マーハはロッドを手に取る。
マーハ 「わたしはレインを助けに来た…」
身構えるダルシアン。
ダルシアン 「!」
マーハは手にしたロッドを地に落とす。
カラララ…と乾いた音を立て床に転がるロッド。
タケル 「なッ!」
顔を上げるマーハに寂しそうな微笑。
マーハ 「だからもう、いいよ。ダルスの好きにしていい…」
タケル 「マーハ…」
ダルシアン 「……」
目を閉じるマーハ。
ダルシアンは構えを解き、ゆっくりとマーハに近付いて行く。
マーハ 「……」
ダルシアン 「マーハ…」
その時壁から物音。
バアル 「おのれ、裏切り者めぇ〜!」
手から放たれる黒い雷球。
ダルシアン 「!」
マーハ 「!」

スローモーション
マーハの前に覆い塞がり、庇う様に立つダルシアン。
ダルシアン 「ぐああああッ!」
ダルシアンの体が仰け反る。

フラッシュバック
エディンバラの街・城壁の外の山中
マーハに傷の手当てを受けるダルシアン。

ダルシアン(M) 「マーハ…お前の為に死ねるのなら」

フラッシュバック
語り合うマーハ、ダルシアンの表情。

ダルシアン(M) 「本望だ…」

ダルシアンの体はマーハの方へと倒れる。
マーハ 「ダルス!」
ヨシュア 「『ファイアーボール』!」
レイン達の背後からヨシュアの火球がバアルに襲いかかる。
バアル 「ギャアアアアッ!」
燃え上がり完全に息絶えるバアル。
レイン達 「ヨシュア(さん)!」
ヨシュア 「早く傷の手当てを」
マーハの膝には傷だらけのダルシアン。
マーハ 「何故…どうして…」
いやいやと信じたくないような、目を潤ませたマーハ。
オーフェ 「!」
血がこびり付き、火傷の酷い手でレインを制する。
ダルシアン 「俺は死ぬ…ど…のみち…助からん…」
マーハ 「大丈夫だよ、すぐに、すぐに楽になるから…。そんなこと言わないで…」
ダルシアン 「マ…ーハ…これを…」
ダルシアンは胸元からロケットをマーハに渡す。
その血まみれの手を両手で握るマーハ。
マーハ 「……」
ダルシアン 「俺の…弟に…弟…ガル…シアンは…ガルスは…パープルストーンの…レイン」
一行 「!」
ダルシアン 「救ってくれ…弟を…」
涙で潤むダルシアンの瞳。
マーハ 「約束する、だから…もう喋らないで…」
血まみれの手を胸に抱くマーハ。
ダルシアン 「……」
力なく微笑むダルシアン。
やや後ろにいるヨシュアに目を合わす。

ダルシアン 「…俺も…レインで…あった…なら…」

ヨシュア 「……」
そのまま静かに目を閉じるダルシアン。
一筋流れる涙。
マーハ 「ダルス…?」
涙声のマーハはダルシアンの顔を見る。
ダルシアンの死を悟るマーハ。
マーハ 「いやああああぁぁぁぁッ!」
夜空に響くマーハの悲鳴。