第16話 新世界
シーンC




○ ヤスリブの町・ベドゥインの家
大きな食卓を囲むレイン達とシュスフィーナの一行。
そこへ食事を持ってくる魔族の男、ベドゥイン。
ベドゥイン 「またここに来るとは思わなかった、ガルス」
ガルシアン 「俺も…こんな形で再会するとは…」
ベドゥイン 「魔王・四天王としてこの町を平定に来て以来だな」
ガルシアン 「……」
ベドゥイン 「この小さな町だけは変わらない。確かに、魔界軍に若者は駆り出されているようだが、大半の魔族は平和を願っている。お前たちを売り渡すようなことはしないだろうが、逆に町ごと魔界軍に攻め滅ぼされる事も考えられる…。すまないが…」
ガルシアン 「用が済み次第、出て行こう…」
微笑みかけるベドゥインと、複雑な表情のガルシアン。
タケル(M) 「結局、俺達はフィーナを連れ再びデストニアに渡った。ここガルシアンの故郷『ヤスリブ』の町でパープルストーンのオウルを探すために…」
ベドゥイン 「30年程前、ルシアンが乳飲み子だったお前と幼いダルシアンを、どこぞやに預けたと言う話は聞いていたが…苦労をかけたな」
ガルシアン 「ベドゥインには関係の無い事だ」
ベドゥイン 「大いに関係のある事だ。当時のレジスタンスを興したのはルシアンと、このわしだからな」
小さな声でタケルに尋ねるシュスフィーナ。
シュスフィーナ 「『ルシアン』って誰の事?」
タケル 「多分、ガルシアンの父親の事だと思う」
ベドゥイン 「だがもう、わしも年老いた…」
話を続ける、ベドゥインとガルシアン。
神妙な面持ちで聞入る、一行。
ベドゥイン 「わしだけが、このように生き長らえている…」
ガルシアン 「その話はもういい。ベドゥインには仕方の無い事だったのだ。それよりも、あなたに聞きたいことがある」
ベドゥイン 「わしで役に立てる事ならば…」
ガルシアン 「パープルストーンの原石『オウル』について聞いたことはあるか?」
ベドゥイン 「最近、魔王の配下が騒いでいるあれか…」
ガルシアン 「知っているのか…」
ベドゥイン 「町の地下道に『カタコンベ』があるのを知っているだろう?」
ガルシアン 「ああ…地下墓地か…」
ベドゥイン 「あそこにはルシアンも眠っているが…あの地には『風』が吹く。ヴァティスが復活した時からだ…」
ガルシアン 「『風』か…」
タケル 「パープルストーンの力だな」
ガルシアン 「その可能性は高い」
ベドゥイン 「わしの娘…イヴンに案内させよう…」
扉の奥より現れる魔族の女性。
イヴン 「こんちは、ガルス」
ガルシアン 「?」
微笑むイヴン。
イヴン 「憶えてる訳ないか。赤ん坊だったもんね。あなたの兄さんとはよく遊んだんだけど…」
クスクスと笑うイヴン。
ヨシュア 「……」
そのイヴンを見るヨシュアの表情。

○ 地下道
地下道の中を歩く、ガルシアン、ヨシュア、シュスフィーナ、イヴン。
シュスフィーナ 「ううっ、暗くてやな感じ…」
イヴン 「レジスタンスの者は、公に葬られる事すら許されなかったからね。頭領だったルシアンは、デビルダスに処刑された後に、父さんが難とか遺体を盗み出したんだ」
ガルシアン 「俺は、父親の事は殆ど憶えていない」
イヴン 「いい人だったよ。よくあたしや、ダルスと遊んでくれた」

イヴンの回想。
乳飲み子のガルシアンを抱える幼いダルシアン、イヴン。
側にベドゥインとルシアン。
ルシアンのその顔はガルシアンによく似ている。
ガルシアンの頭をなでるルシアン。
ルシアン 「この生き方を選んでしまった俺を怨んでしまうんだろうな」
ベドゥイン 「ここデストニアの魔族は、魔界を監視する定めを持つ者。その魔族が魔道に落ちてはならない。古の時代ラシューヌ神により、授かった使命は全うしなければならない。俺達が…示さなければ…魔族なる者の未来を…」
ルシアン 「(ダルシアンに)ダルシアン…お前の弟はその未来を変える。兄として弟を守ってやりなさい…」
ダルシアン 「帰って…帰ってくるよね…父さん?」
イヴン 「ダルス…」
回想終了。

○同
歩き続ける4人。
イヴン 「ダルスの最後は…どうだったの?」
ガルシアン 「俺は…魔王軍を裏切ったとしか聞いていない…」
ヨシュア 「ルラを…マーハを庇って亡くなりました。立派な最後でしたよ」
イヴン 「そう…」
ガルシアン 「……」
立ち止まるイヴン。
イヴン(M) 「結局ダルスは、ルシアンの言いつけ通りにガルスとルラを守った。言葉を失っていたのも…そう見せかけて弟を守るためだったのかも…」
再び歩き出すイヴン。カタコンベの入り口。

○カタコンベ
地下の空洞に連なる多くの墓。
イヴン 「ここが、カタコンベよ…」
一同、その寂しげな光景に見入る。
ヨシュア 「シュスフィーナ、なにか感じますか?」
シュスフィーナ 「風…、ちょっと待って…」
シュスフィーナは何かに導かれるように、1つの墓の前に歩み寄る。
その彼女について行く一同。
シュスフィーナ 「呼んでるわ、この人が…」
イヴン 「ふうん、すると(シュスフィーナに)あなたがイリスなのかもしれないわね…」
そのイヴンの声に振り返るガルシアン、ヨシュア、シュスフィーナ。
ガルシアン 「イリス…?」
イヴン 「そ、あたし達が殺して、ヴァティス様に捧げなくてはならない…」
ガルシアン&ヨシュア 「!」
ヨシュアはシュスフィーナを庇い、ガルシアンはヨシュアを庇う。
イヴン 「ここがルシアンの墓、そしてあなた達の墓場になるのよ!」
宙に浮くイヴンの体。
イヴンの両手からピアノ線のような糸が、網目のように伸びる。
その糸に操られ、墓石がガルシアン達に襲い掛かる。
シュスフィーナ 「きゃあ!」
ヨシュア 「ちッ!」
ヨシュアはシュスフィーナを抱えて避ける。
ガルシアンも避けながら。
ガルシアン 「何故だ、お前達は『レジスタンス』ではなかったのか!?」
イヴン 「そんなの、ずぅ〜っと前の話よ。魔界に最も近く、その力を受ける魔族はどのようにして生き長らえたと思う?」
今度は、地面の岩が飛びガルシアンを襲う。
イヴン 「あたし達魔族は、こうしなければならないの!」
ガルシアン 「クッ!」
ハルバードで岩を一刀両断。
ガルシアン 「裏切るのか、お前も…」
イヴン 「これが現実よ、ガルス」
ガルシアン 「お前の父もそうか?」
イヴン 「その父を生かすためよ」
ガルシアン 「!」
その言葉に一瞬気を許すガルシアン。
ガルシアン 「ぐはッ!」
墓石に飛ばされるガルシアンの体。
ヨシュア 「ガルシアン!」
シュスフィーナ 「ガルシアンさん!」
ガルシアン 「クッ…」
体を何とか起こすガルシアン。
ガルシアン 「ベドゥインは何も知らない。自分の身を売ったのか?」
イヴン 「人聞きの悪い事は言わないでちょうだい。所詮、只の魔族が魔界神に反する事は出来なかったと言う事よ。そうして優れた魔操士であるあたしが選ばれたってわけ!」
ガルシアン 「クッ…」
シュスフィーナ 「きゃあ!」
ヨシュア 「ちッ!」
ピアノ線が3人を縛り上げ、体が宙に浮く。
イヴン 「魔王にね…」
ガルシアン 「ウグッ…」
シュスフィーナ 「あああっ…」
ヨシュア 「うううッ…」
イヴン 「ここに他のレインが居なかったのは残念だけど…」
イヴン(M) 「ごめんね、ガルス、ダルス…」
ルシアンの声 「ガルス…」
ガルシアン 「!(驚)」
?(スティック) 「べらんめぇ、愚痴愚痴うるせえ喧嘩しやがって!」
イヴン 「何!」
壁から現れる大きな黒い犬、背には蝙蝠の羽に腰布。
イヴン 「忌み子のスティックか!」
スティック 「ここは俺様の縄張りだ、墓荒らしは許さねえぜ!」
イヴン 「荒らしてんのはあんたじゃないの!」
ルシアンの声 「ガルス…」
未だ首を締められ苦しそうな表情の3人。
ガルシアン(M) 「誰だ…」
ルシアンの声 「『風』の力をお前に託す…」
イヴン 「この声は…ルシアン!」
スティック 「やべえ、パープルオウルが!」
ルシアンの墓石が砕け散る。
光り輝きそこには、紫色の石の結晶。
ガルシアン 「父上…」
目を閉じるガルシアン。
ガルシアン 「aito imi rabeto niraka yu sotzne Purple Wind」
ヨシュア 「ガルシアン!」
突如周囲に起こる竜巻!
パープルオウルは反応し砕け散る。
スティック 「どわあ!」
イヴン 「きゃああああっ!」
カマイタチの風によりピアノ線は次々と切れる。
風により飛ばされるイヴンの体。
糸が切れ、3人の身体は地に落ちる。
ガルシアン 「クッ…」
シュスフィーナ 「きゃあ!」
ヨシュア 「!」
ヨシュアは着地を取れないシュスフィーナの身体を抱える。
シュスフィーナ 「あ、ありがと。ヨシュアさん」
ヨシュア 「……」
スティック 「てやんでぇい、パープルオウルの力を解放しやがった!」
ヨシュア 「…(イヴンに)なぜフィーナの命を狙う?」
イヴン 「クッ、よくも、よくも!」
ヨシュア 「あなた方が命を狙う『イリス』とは…誰です?」
シュスフィーナ 「……」
シュスフィーナ、複雑な表情。
イヴン 「…そう簡単に言えるもんですか!あなた達の仲間は、今頃どうしてると思う?」
ヨシュア 「他のレインを残してきたのは、あなた1人には私達2人で十分だと思ったからです。そして貴方が放つであろう他のレインに対する魔将の数も、ベドゥインが側に居る限り、たかが知れている」
シュスフィーナ 「ちょっと、わたしが入っていないじゃない!」
イヴン 「なるほど、あなたは最初から分かっていたのね」
ヨシュア 「最も、ガルスは私の言葉を信じませんでしたが…」
ガルシアン 「…兄者の幼馴染だった、お前を疑いたくは無かった」
ガルシアン、その表情。
イヴン 「…ラシューヌ神イリス…あたし達魔族が探しているのはその生まれ変わり…」
ガルシアン 「イヴン…」
イヴン 「あたしが言えるのはここまでだからね。今度会うときもまた敵同士だよ…」
ガルシアン 「変わる気は無いのだな…」
イヴン 「あたしには魔族の未来がかかってる…」
スティックを横目で見るイヴン。
イヴン 「今回は邪魔が入ったようだから引くけれど、次はないわ」
手元から、魔晶石を出し、石は砕け姿を消すイヴン。
ガルシアン 「……」
スティック 「テメエ勝手だな…」
その声に振り返るガルシアン、ヨシュア&シュスフィーナ。
スティック 「魔族っつうのは、そこまで落ちぶれたもんなのか?」
ガルシアン 「お前は何者だ?」
スティック 「言っただろ〜が。俺様はここの墓守。『スティック』ってんだ」
巨大な黒い犬の姿が歪み、魔族の少年の姿となる。
腰布1枚。
背に蝙蝠の羽。
スティック 「まあ、実言うといろいろ事情があってさぁ。こんなトコに隠れ住んでんだけどよ。どうだ、驚いたか?」
シュスフィーナ 「おかげで助かったわ、有難う、スティック!」
スティック 「おうよ、かわい子ちゃんに言われると照れるなあ…、んであんた等がレインってわけだな?」
ガルシアン 「ああ…パープルストーンのレインだ」
スティック 「成る程な、ダルシアンの弟か!」
ガルシアン 「兄者を知っているのか?」
スティック 「俺の父ちゃんは魔族、母ちゃんは獣人で、異種族結婚でな。周りにゃ除け者にされたりしたわけよ。父ちゃんはレジスタンスに加わってたんで処刑されちまったし、母ちゃんはそれで塞ぎ込んで、病気になって死んじまった」
シュスフィーナ 「そっか、見かけによらず苦労してるんだ」
スティック 「『見かけ』は余計だぜ。んまあ、俺が一人途方にくれてた時にダルシアンに世話になったんだ。ここを任してくれたのも、ダルシアンだったしな」
シュスフィーナ 「へ〜」
感慨深げにガルシアンの顔を覗き込むシュスフィーナ。
シュスフィーナ 「いいお兄さんだったんじゃない?」
ガルシアン 「……」
シュスフィーナ 「わたしには、兄弟なんて居ないから羨ましいな…」
ヨシュア 「……」
ガルシアン、ヨシュア、その表情。
シュスフィーナは只寂しげに顔を伏せる。

○ ヤスリブの町
スティックの背に乗り旅立つ一行。
タケル 「とにかく、町の被害も少なくてよかったな」
グリン 「ったく、ロクデナシの言うとおり、まさかこうも早く追っ手が来るとはなぁ」
ガルシアンの横顔を見るヨシュア。
ヨシュア 「良いのですか?ベドゥインに真実を告げないで…」
ガルシアン 「イヴンは彼女の方法で、魔族を守っている。俺にはまだその力はない。彼女の邪魔はできない…」
ガルシアン、その表情。
ガルシアン 「裏切られてばかりだな、俺は…」

ガルシアンの回想。
カタコンベ。
ルシアンの墓碑の前に佇むガルシアンとヨシュア。
シュスフィーナはスティックと楽しそうに戦いの後で荒れた墓地を直している。
視線を変えずにガルシアンとヨシュアの会話。
ガルシアン 「ヨシュア、兄者の最期はどうだった?」
ヨシュア 「ダルシアンとマーハはお互いに惹かれあっていました」
ガルシアン 「!」
驚き、ヨシュアを見る。
ヨシュア 「しかし、2人はそれぞれ、四天王またはルラとして生きることを選んだ。はずだった…」
ガルシアン 「兄者は最期にルラに命を賭した」
ヨシュア 「貴方も、マーハを愛していたのですか?」
ガルシアン 「分からない、俺は人を愛するとか、信ずる事が未だに出来ているのか危うい」
ヨシュア 「……」
ガルシアン 「漠然と只、その運命の波に流されてレインとしてこの場に居るような気がする」
ヨシュア 「『俺もレインであったなら』。これが貴方の兄の、最期の言葉です」
ガルシアン 「レインであったなら…」
ヨシュア 「ダルシアンは何を言おうとしていたのでしょう…」
ガルシアン 「お前は分かっているのだろう?」
ヨシュア 「私は…彼にレインたるものの心を、教えて頂きました」
回想終了。

○ スティックの背の上・大空
夕日を燦然と浴びて飛ぶスティック。
雲の彼方に沈む夕日を眺めるガルシアン。

ガルシアン(M) 「愛する者と信ずる仲間が、俺には居る」

○ 魔界城・ヴァティスの間
巨大な玉座に座るヴァティス。
その右側に立つベナレス。
反対側にルシファー。
ルシファー 「イヴンがしくじったようです。どうされますか?」
ヴァティス 「……」
ルシファー 「レインはファンジームに向かっております」
デデム 「ならば、ワシ等の出番かのう?」
奥よりゴブリンに似た小さな白衣の老人、魔王・デデムが現れる。
ベナレスに視線を送るデデム。
ベナレス 「……」

To be continued…
LEGEND