其の1 お金がない
シーンA
「お金がない」

 困った状況になった。本当にグリンが言っていたけれど、世界を救うレイン一行がこんな所帯染みた状況に悩まされるなんて。マーハは大きく溜息をつく。
 その溜息には別の思いも含まれていた。

「お前はここで待っていろ」

 タケルのその言葉だ。



 今から数時間前の話である。
 稼がなくてはならなくなった。取り敢えずは雨風を凌げる厩を借りたが、いつまでもここに居るわけには行かない。タケル、マーハ、グリン、オーフェ、ミッフィーの5人。寝るだけならば、どこでだって出来る自信はあった。しかし食べるのには困る。それまでは盗賊ギルド「緑の森(グリーン・ウッド)」の地方支部に顔を出しては、グリンの名を出して金を貰っていたが、不幸な事にこの街は、グリーン・ウッドの管轄外であった。
 そうして最も生活力があるであろう、グリンが一つの提案を出したのだ。

「バイトをしよう」
 タケルには耳慣れない。
「ばいと?」
「働くんだよ。力仕事はテメエの仕事だな」
「な゛!?」
 グリンはオーフェをビシッと指差す。
「テメエは接客業」
「ええっ?」
「仕事を探すんだ。こうなったらナリフリ構ってられねえ!」
「それは、その通りですが…」
「お前はどうするんだよ」
「オレ様はなぁ、…シーフな訳だし…」
「物騒な事考えてるんじゃないだろうな?」
「そりゃ偏見だぜ、チビ!」
「盗賊なんだろ、三白眼!」
 またいつも通りの喧嘩が始まった。
「わたしもオーフェと一緒に探してこようかな」
 と呟いたその時であった。タケルのあの言葉である。



 街の大通りをとぼとぼと歩いていた。タケルはいつもそうだ。自分に気を使ってくれる。そして、アルカード城でのあの事件以来、グリンもオーフェも自分の身を案じる。彼女は『導きの星・ルラ』であり、絶対無二の存在であるのだから護られて当然なのかもしれないが、それが我慢ならなかった。
 もっともそれ以外の感情が3人に含まれている事など、その方向に些か疎い彼女は気づく筈がない。
「はぁ…」
「フニャン?」
 無意識のうちに再びついた溜息に、ミッフィーが心配げな顔で見上げた。
「ごめん、ミッフィーなんでもないから」
「フニュ〜」
 マーハがミッフィーの頭をそっと撫でた時、通りの向こうからやはりとぼとぼと歩いてくる人影があった。オーフェである。
「あれ、オーフェ?」
「あ、マーハさん…。どうしましょう…仕事が見つかりません」
「そうか…」
 もう夕も暮れ、途方にも暮れ…3人の影が大通りに長く伸びていた。
「仕方ないよ、タケルとグリンに任せよう。はぁ…」

「何か困り事かしら、坊や達?」

 その言い回しに反して、低音の声が響いた。
「お金に困ってるの?」
 たぶん男、いや間違いなく男なのだ。異様に背が高く骨太で体つきはがっしりとしているのに、絵の具を撒き散らしたかのようにカラーリングされた豪奢な髪と、地の色が分からないほどの肌への化粧、口紅、そしてトレーニングでもしているのかと思うような、重いアクセサリーの数々。

 第一印象は…派手なオカマ…であった。
 「もしよかったら、ウチに来ない?一食、ベッド・お風呂付きでいい仕事紹介してあげる。あたしはウーロン、宜しくね!」
 そのウインクがやや恐ろしくもあった。