其の1 お金がない
シーンC
 3人組はその店に入った。仲間の1人の兄がここに勤めているという。その彼を頼ってこの街にやって来たのだ。以前、シャヌーン最大の街『メンフィス』で、レインとして崇められた3人。ダジリン・セイロン・アッサムの3人。その嘘はすっかりばれ、それまでし放題だった彼らは、街から袋叩きに合い、こうして放浪の旅を続けている。
「この間の村でもバレてもうたな〜、もう限界とちゃうか?」
 疲れた顔でアッサムはぼやいた。
 そう、3人は気づいていないのだが彼らの旅路は寸分違わず、タケル達一行の後を追っているのだ。タケル達の通り過ぎた町で、自然と噂は流れるのだから。見破られて当然。
「うるせえ、今度こそだ。この街で一花咲かすぜ。まずはこの店で、かわいこちゃんをいっぱい侍らせて…ムフフ〜」
「既に死語ね、それ」
 セイロンは呆れて、ダジリンを見た。セイロン…彼もまたオカマ。セイロンは悪戯っぽく微笑む。
「お兄様がいっぱ〜い、可愛い子紹介してくれるわよ」
 ウインクして見せた。どこかで見たウインクだ、恐い。

「あ〜〜〜〜ん、セイロ〜〜〜〜ン!」
「あ、お兄様〜〜〜〜!」

 バタバタと忙しない足音とガチャガチャとなる貴金属。そして3人の頭上に落ちる黒い影。
 ダジリンとアッサムの顔は凍りついた。



 店にはどこもかしこも彼らが溢れていて、正直吐き気さえ覚えた。その時だ、店に現れた一際目に留まる一輪の花。
「うひょ〜〜〜〜、あの子だ、あの子に決めた!!」
 ダジリンは興奮して、その唯一の彼女を指差した。

(あ〜〜〜〜!)

 マーハもまたダジリン達3人に気づいた。

(あの人達…メンフィスの偽レイン!)

「きゃ〜、カワイイ〜〜〜〜!」
「お、めんこいやないか!」
 一方の偽レイン達はマーハだと気付いていないらしい。(人質にとり殴りもしたと言うのに!)あの時の状況と今の状況が、違うとはいえ、鈍すぎないか?
 マーハは心配になってオーフェを見るが、オーフェはというと既に違う客に酒を注いでいるようだった。幸い、客に迫られるとかそういった事はないようだが、こちらにも気付いていないらしい。
「この子ね、今日だけの新入りよ。『マーハ』ちゃんっていうの、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします…」
 苦笑いしながら、ぺこりとお辞儀をした。どこからどう見ても姿形で、マーハ1人女である事は見れば分かる。その白いドレスが、胸元が、華奢で柔らかそうな体を露にしてしまう。
「馴染みの客なの。一杯だけ付き合ってあげてね」
「ほんまに、オカマなんか?」
「あったりまえでしょ、このあたしがこ〜んな綺麗な子間違えるわけないじゃない」
 本気なのか?本気で気づいていないのか??

(ひょっとして間違えたかも…わたし…)

 男の中に場違いな異性がいる。突き刺さる様な視線が、周囲からある。それは明らかに彼女に向けられている。恐る恐る周りを見ると、店の男客全員がこちらを見ていた。
(失敗した…)
 マーハは恐る恐るダジリンとアッサムの間に座った。目の前には小さなグラスがあり、黄金色の酒があった。
(もう、なるようになれ〜〜〜〜!)



バタン!

 大きな音がして店の扉が開いた。店が一瞬にして静かになる。入り口には、血相を変えたタケルとグリン。そしていつの間にかその傍らにいるドレス姿のオーフェときょとんとしたミッフィー。
「……」
 タケルは無言でドカドカと大きな足音を立てマーハに近づいてくる。怒髪天とはこの事だ。癖のある髪が逆立って見えるほど、怒っているのがわかった。その気迫。
「このガキ…あの時の…」
 あのメンフィスでの悪夢を思い出したのであろう…ダジリンを初めとする3人の顔が見る見るうちに白くなった。
「ヒィィィィ〜〜〜〜!!!!」
 腰を抜かしてその場を何とか離れる、偽レイン達。ただマーハとウーロンだけが取り残され、周囲の客は面白そうにそ傍観している。
「……」
 マーハもまた無言でタケルを見上げた。罪悪感を覚えない、惚けた様な顔で。

「!」

 タケルはマーハの腕をつかみ、立たせた。
「ちょっと待ってよ、坊や…御代は…」

ドシャッ。

 ウーロンが言いかけたその時、タケルは持っていた金袋を机の上に投げ下ろした。その音からするとよほどの大金だろう。たちまち表情は穏やかになり、タケルの目の前に鍵を一本差し出した。
「まいど」
 その意味を知ってか知らずか、タケルは鍵を奪うように受け取るとマーハの腕を引っ張って2階へと上がる。
「ヒュ〜ヒュ〜」
「すてき〜〜〜〜!」
「しっかりやれよ、坊主!」
 周囲の客の野次が飛んで、ハッとグリンは我に帰った。
「ちょ、ちょっと待てい〜〜〜タケル〜〜〜〜!」
「タケルさん、グリンさん!」
「スト〜〜〜〜ップ!」
 その後を追いかけようとした2人の前に立ちはだかったのは、大きなオカマ・ウーロン。
「御代は?」
 怖いウインクをしてやはり骨太の右手を、グリンの前に出した。グリンもあわてて金貨を懐から出す。
「じゃ、オーフェちゃん。御相手してあげなさい」
「は、はい」
「違うだろ〜〜〜〜、おい!」