其の1 お金がない
シーンD
 案内された一室で、タケルはようやくマーハの手を離した。そして堰を切ったかのように、怒鳴りつけた。

「お前何やってるのかわかってるのか!待ってろって言っただろ、金は俺達が稼いでくるって!!もうすぐでお前…」

 そこまで言いかけたところで、言葉に詰まった。この状況に、気づいてしまった。危ういデザインのドレス。マーハの白い肌が桜色に染まっていて、潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。
(よく考えたら、2人きりでどうしてこんな部屋にいるんだ)
 タケルは有らぬ事を想像して、真っ赤になってしまった。自分のすぐ傍にある一人で寝るには大きめのベッドがその妄想を助長させる。
「…と…とにかくだな…ここを出て…」

「タケル…」

「!」
世界が回転した。マーハの体重が一気にタケルの上に覆いかぶさって、普段の彼ならばこんな重さなど耐えられるだろうに不意打ちだ。気が付くと柔らかなベッドの上で押し倒されており、信じられない事に目の前にはマーハの顔があった。酒臭い。
「お、お前…酒!」
「タケル、だ〜い好き!」
「!」
そのままギュッと抱きしめられる。
「ば、馬鹿!よ…よせって!!」
好きという言葉にも、抱きしめられている体温にも、耳元を掠る吐息にも全身の力が抜けてしまい、彼女を引き剥がすことが出来ない。その時、ガチャっと部屋の扉が鳴った。
「マーハ…」
「マーハ…さん…」





そこには呆然と立ち尽くすしかない、グリンとオーフェの姿があった。彼らにしてみれば、予想出来ない光景であった。いや、予想したとしても逆の立場とか、タケルの性格からすればそんな事はありえない。でも、眼前にはタケルに襲い掛かっているマーハが居る。
「あ!」
だが、そんな失意のグリンとオーフェを他所に、マーハは顔を輝かせて体を起こした。
「グリ〜ン!」
「……」
マーハは今度グリンの元へ走る。これから起こる事に、幸せ一杯に陶酔しきった顔で、グリンは両腕を広げた。
「マ〜ハ!」
が、間一髪。痛そうな音が2階に響いた。タケルがマーハのドレスの裾を引っ張って、結果マーハは派手に転んだのだ。グリンの両手は空しく宙を掴んでいた。
「マーハ…ってタケル…テメエばっかりイイ思いしやがって〜〜〜〜!」
「そういう問題じゃないだろ!!」
「マーハさん…」
半ば泣きそうになってオーフェは、マーハを覗き込む。彼女はごろんと仰向けになった。満面の笑み。
「グリンもオーフェもミッフィーも…みんなだ〜い好き!」
そう4人に呼びかけて、スヤスヤと寝入ってしまった。その台詞にタケルの腰が僅かに砕けたのは言うまでもない。
「たちの悪い抱きつき魔だ…こいつは…」