其の3 その花の名は
シーンB
 山道を進む中も、時折小さな地鳴りがする。瞳の赴くまま、ミッフィーは山頂を目指す。
(この気配!)
 誰か居る!
 すぐ手前の崖。そこから見下ろす一人の影。

「覆面男!」

「……」
 その人影は微動だにしない。そして、構える仕草すら見せず、殺気を感じなかった。
「あんさん一体…」
 そう言いかけた刹那、一陣の風が吹き、異様な臭いが鼻を突く。
「くっさ〜〜〜〜〜!」
 ミッフィーは慌てて鼻を抓んだ。
「……」
 一方、その男は崖から飛び、静かにミッフィーに背を向けて立つ。異臭源はこの覆面男ではないようだ。

<何故ここに?>

 音の無い言葉が、直接頭に響いてくる。それはミッフィーにとって、初めての感覚だった。
「だんやど?」
 この状況でも、鼻を抓むミッフィーの言葉は聞き取りにくい。
<……>
 男はマントの中から、布をミッフィーに差し出した。それは、彼の下顔面を覆う布と同じ生地。これを使えというのか?
(けっこうエエ奴やん)
 彼の雰囲気に呑まれ、その布で口と鼻を覆う。
「おおきに、覆面男」
<マルス…>
「それ、名前なんやね?」
<……>
 覆面男・マルスはこくりと頷いた。ミッフィーの中で『エエ奴』に分類された、彼は最早敵ではないらしい。
「そおそお、うちはな、大地の精霊『ベヒモス』を探しに来たんや。そいで、なしてマルスはこないなトコに居るん?」
<村の長が、病に倒れたと聞いた。その難病に効く、薬草を取りに>
「はあ?」
 村の長…フレシアはピンピンしていたじゃないか?
「なあ、マルス。それって…」
 言いかけた時。


ズシン!

 大きく地が揺れる。それに伴い、布越しでも感じる異臭。

ズシン!
ズシン!!


 どこかで嗅いだ臭いではないか?
「フニャッ!」
<そう…>

 山道の向こうから現れたのは、精霊『ベヒモス』。但し、その背には…。





<薬草とはそれは芳しい香りのする、美しい赤い花らしい>
「絶・対・嘘・や!!」

 ベヒモスの背に、ドでかい花が咲いている。あの、残飯と雑巾をごちゃ混ぜにした腐敗臭。紅の花。

「ここで死ね、オレンジストーンのレイン。復活の血族!」

 ベヒモスに憑依したその、花の魔将は2人に襲い掛かって来たのだ。
<騙された>
「気付くの遅いて!」
<ミッフィーもだろ?>
「フニュ〜」
 痛いところを突かれ、苦々しく笑う。2人は素早く、最初の攻撃を避けながら構えた。
<見事な花だね、ラ『フレシア』>
「冗談ゆうてる場合やないて!」
 再びベヒモスが岩飛礫を繰り出す。
「Starry Field」
 マルスは岩飛礫に対し、右手を翳すと、手首から白く輝く血が流れた。
 血は光となり、防御膜を作る。
「やるやないか!」

「小癪な〜〜〜〜!」
 ラフレシアは怒り狂い、ベヒモスが前足を踏み鳴らすと、山が揺れる程の地震が起こる。満足に立っていられない。
<わたしがラフレシアの動きを止める。その隙にベヒモスを>
「ええで、その話、乗ったる!」
 同時、ミッフィーはベヒモスに向かい駆け出していった。マルスは再び、右手を翳す。
「Starry Sleepiness」
 マルスの周囲に広がる空気の波紋。
「この精霊『ベヒモス』にそんな魔法を!」
<精霊に物理攻撃は効かない。常識だ。分裂でもされては困る>
「何!」
 ベヒモスの動きが明らかに鈍い。
「聖獣『ミッフィー』の名に於いて命ずる…出でよ『エフリート』!」
 第三の瞳から炎の巨人が現れ、ベヒモスの前に仁王立ちとなる。エフリートは、ベヒモスのその背からラフレシアを毟り取った。

「ギャアアアアアアアア〜〜〜〜!」

 最後の悲鳴と共に、ラフレシアはエフリートの手の中で燃え尽きる。ベヒモスはその場で大きな音を立てて、崩れ落ちた。
 眠ってしまったのだ。
「勝負あったな」
<……>