イーグルチームの朝は早い。食堂で1番の朝食をとり次第、ジュウジュ、ペンソ、シルクレストの3人はデッキへと向かう。時間は午前6時。まずは1時間かけて、それぞれのメカニックと綿密なメインテナンスを行なった後に、7時よりテストフライト。その轟音が、レオハルトクルーの朝を告げる。
3時間ほどのフライト終了後、メカニックは母艦の整備につく為、メインエンジンルームへと移動。実は、ダジリン達3人。結構忙しい。
それに対して、イーグルチームの3人は昼食まで、自室休憩。なぜなら、イーグル…すなわちシステムFは、エルフであるパイロットの魔力と同調している為に、その魔力を消費するからだ。精神的疲労が蓄積し、長時間のフライトは精神崩壊を来たしかねないのである。
とは言え、そんな危惧もどこ吹く風。すっかり日常と化した、朝のフライトを終え、チームの3人は母艦へと帰艦した。
その3人へ、ヘパイストスは例のチラシを手渡した。
遅い昼食。食の進まないシルクレストは、金属製の皿に丁寧に除けられたピーム豆をフォークで転がしながら、眉を寄せていた。メニューの主品、ニーハン。米にピーム豆、トウモロコシ、ニンジンを加え塩、ラヨモメと言った調味料で炒めた米飯。そのピーム豆は、シルクレストが苦手とするものである。
「一口でいいから、ちゃんと食べるのよ!」
「ちぇ…」
「世の中には飢えに苦しんでる人だって居るんだから!」
器を挟んで、向かい側には頬杖をついたクルエがこちらを睨んでいる。
「子供じゃねえんだから、あ〜〜〜〜、やめた、やめた!!」
ついに我慢の限界に来たシルクレストは、イスから立ち上がった。その時だ。彼のポケットから例のチラシが、運悪い事にクルエの足元にひらりと落ちてきたのである。
「何よこれ」
「あ…」
「……」
見る見るうちに、クルエの顔が赤くなってきた。
「何よ、何よ、何よこれ〜〜〜〜!」
大きく机を叩くと、皿がひっくり返り、のっていたピーム豆はコロコロと床に転がった。昼も遅い為か、食堂に残る人間は数少なく、その怒声は大きく響く。
「何って、見ての通りだろ。ミスコンだよ、ミスコン」
「信じられない、こんな時に何考えてるのよ!」
「俺に言うなよ、もうみんな知ってるぜ」
「じゃあ、どう、あんた誰に投票するの?」
「そりゃあ…」
自分を睨むクルエの視線から逃れ、シルクレストは遠方を見た。視線は定まらないが、その先には舞い踊る美しき副船長。それにクルエは感づいてしまった。
「!」
パコ〜ン!
「いっつ〜〜〜〜!」
「おバカ!」
皿はシルクレストの頭の形にへこんでいた。クルエは真っ赤になって食堂をズカズカと後にする。
「…飢えに苦しむ人が居るんじゃなかったのか…?」
シルクレストは床に散ったピーム豆をみて小さく呟いた。
「それで、怒って来ちゃったわけね」
事の顛末を聞いたリップは、クスクスと笑った。次なる目的地・ライアス到着までまだ時間がある。幸い魔界軍の攻撃も無い。午後のテストフライト。大空を優雅に舞うイーグル3機が、ブリッジのウィンドウから見えた。
敵の察知・ソナーを続けながらも、オペレーター3人娘の大好きなミント・ティーを飲む時間もある。
「コンテストの話、リップとサルサは知ってたの?」
「ええ、大分騒いでいたし」
と、リップ。
「マーハ様も御公認なんでしょう」
と、サルサ。
「そ、そうなの?」
「でも、マーハ様とミッフィー様、ヨシュア様は参加されないのよね」
ずるい…とは口に出せないクルエは頬を膨らました。
「リップさんは安心ですね、ペンソさんがいらっしゃるし…」
サルサのその言葉に、リップはポンッと赤くなった。
「や、何言ってるのよ!…そ、そういうサルサだって結構、クルーから人気があるって知ってた?」
「いいえ、私はお一人の方にお仕え出来ればいいんです」
「そういうものなの?」
「そうです」
クルエは苦笑して、ミント・ティーに口をつけた。
「2人ともいいわね、気楽で」
どうしてこんなに腹が立つのだろう。幼い頃から、いつだって傍に居たシルクレスト。その彼が、サンドラの舞を目にした時、そして彼女の元から離れそうになった時、それまでの生活を捨ててまで彼の傍に居ようとした。傍に居る事は当たり前の事だと思っていたし、シルクレストが居ないと調子が狂う。それに、彼はいつもどこか抜けているし、自分が居ないとダメなのだ。そう思っていた。でも、心のどこかで、
(追いかけないと遠くに行ってしまう)
そんな焦りが、クルエにあった。だから、サンドラから真剣に舞を教わった。そうしなければ、距離が広がってしまう。夢を追いかけるシルクレストと、ただ漠然と傍に居る自分。
「気付いてないのね〜、クルエったら」
「そうですね」
リップとサルサは悪戯っぽく笑った。静かな昼下がり、イーグルのエンジン音が遠くで響いている。
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