其の4 ミス・レオハルト
シーンD
 満月がレオハルトを照らし出す。静かな夜だった。別に覗きが趣味ではないけれど、時間が合ってしまうらしい。眼下の展望台に、タケルとマーハの姿がある。何を話しているかは分からないが、自然とペンは止まり、カタリムはその2人の姿に魅入っていた。人と神であるこの2人の想い、これから起こり得る結末をどれだけの人間が予測出来るだろう。
「またこんな所に居るのか?」
「……」
 ジェナードはそれ以上語らず、黙ってカタリムの隣に腰掛けた。
「これを返そうと思ってな」
 彼の手には昼間失った、スケッチがあった。
「あ、ありがとうございます」
「昼間はすまなかった」
「へ?」
 突如その口から出た謝罪の言葉に、カタリムは驚いた。
「『宝物』の価値なんぞ、人それぞれだからな。正直お前が羨ましいよ。あれから考えてみたんだが、俺には『宝』と呼べるものは何もなかった」
 間違いなく、それはジェナードの正直な心なんだろう。
「絵は…」
 受け取ったスケッチを抱きしめて、カタリムは小さく呟く。
「紙とペンがあれば、形になる。わたしが生んだ、わたし自身です。わたしには、わたしが居る。だから寂しくなんかない、寂しくなんか…」
 初めて見せた、子供らしいカタリムの仕草だった。10の歳で独り戦い、レオハルトに乗ると心に決めたその経緯をジェナードは知らない。想像も出来るはずがないが、あえて聞こうともしなかった。その代わり、ジェナードはカタリムの頭を優しく撫でた。

「コンテストなんだがな。実は、お前に入れてみた」

「え?」



 ジェナードはニヤリと笑うと、背を向けてその場を後にした。
 心地よい宵風が、火照ったカタリムの頬を掠めて行く。



 遅い夕食。食の進まないシルクレストは、金属製の皿に丁寧に除けられたピーム豆をフォークで転がしながら、眉を寄せていた。メニューの副品、ハンバーグ。そのデミグラスソースの中にピーム豆が3個あった。
「一口で全部食べちゃうのよ!」
「ちぇ…」
「鼻をつまんで食べちゃえば、味なんてしないんだから!」
 器を挟んで、向かい側には頬杖をついたクルエがこちらを睨んでいる。
「分かったよ、分かったよ!」
 シルクレストは渋々、ピーム豆3個を次々とフォークで串刺し鼻をつまんで口に入れた。その直後、青い顔をしてコップの水を飲み干した。
「ぷっは〜〜〜〜!」
「やったじゃない、シルクレスト!」
 無邪気にクルエは笑う。天人のような黄金色の髪が、さらさらと揺れた。
(結構いい線いってるのになぁ〜)
 そんな風にシルクレストは微笑むクルエを、横目で見る。



(黙ってりゃ…)
「相変わらず仲イイじゃねえか〜!」
 食堂へ入ってきたのはイーグルチームの他2人。ジュウジュとペンソだった。とっくに夕食を済ませている2人。夜食のつもりでここに入ってきたらしい。とにかくグリーン・ウッドのメンバーである2人は良く食べるのだ。
「誰がコイツなんかと」
「仲イイわけないじゃない!」
 シルクレストとクルエの2人は揃って弁明した。しかし、タイミングに一寸の狂いなし。
「明日はフライト前のミーティングはないよ。メカニックは4人揃って独房だから」
 ペンソはやれやれと溜息をついた。
「そういやさ、シルクレスト。コンテストの結果見てきたか?」
 事の顛末をジュウジュから聞いたシルクレストとクルエは、苦笑した。昼間あんな事があった手前、結果を見に入っていない。しかし、自分に一票入っていると聞いてクルエは少々驚いた。どこまで信憑性があるか分からないけれども。
「0票じゃなかっただけましかな〜」
「……」
 ちょっと嬉しいらしい。クルエのそんな気持ちは、手に取るように分かる。伊達に長く付き合っているわけでないから。シルクレストはそんな幼馴染の喜ぶ様子を、微笑ましく眺めていた。
「あ、そうそう、あんたはサンドラに入れたんでしょ」

「…ん〜、俺が今更一票入れたところで何が変わるわけじゃないだろ?」

「え?」
 口笛を吹きながら、食器を片付けるシルクレストの顔はどこか照れくさげであった。

To be continued…
LEGEND