其の5 木漏れ日の中
シーンB
「木の実、取れないんだ…」
 トエルには甘酸っぱい木の実がなり、山中で見かける事は珍しい。まして、秋も過ぎようとする季節外れのこの時期に。その木の実は、大木の地上高い所に数個だけ生っていた。
 マーハはその木を揺するが、木の幹は彼女の広げた腕の幅よりも十分に大きい。
「そんなでっけえ木、びくともしねえだろ」
「そうだよねぇ」
「トエルか。デザートには最高だよな」
「でも、こんなに高い木。登れないよ」
 最初の枝にも届きそうにない。と思った矢先、グリンが軽く跳ねたと同時にその枝を両腕で掴んだ。そしてクルリと体を回転させて、登ってしまったではないか。
「わあ!」
「ざっと、こんなもんよ」
「凄い!」

 マーハが素直に驚いているのに、グリンは上機嫌になって得意気にポーズをとった。この枝さえ登ってしまえば、後は実に届く高さまで素人でも十分に登れる。周囲の木々に比べ、一段と大きいこの木の枝は2人乗るにも十分な太さだろう。足場を確かめて、グリンはマーハに向かい手を伸ばす。
「マーハ、マントを放おってみろよ」
「え?」
 最初はグリンの意図が分からなかったマーハは、自分のマントを外してその片方をグリンに投げた。
「しっかり掴まってろよ」
「え!」
 ふわりと彼女の体が浮いて、次にはその腕をグリンがしっかりと握っていた。そして枝の上まで引き上げられる。同じ枝の上に立つまでに、数秒と時間も要らなかった。
「な、オレ様に任せとけって言っただろ」
「……」

 喜ぶだろう、そんな反応を期待していたグリンは予想外のマーハの瞳に驚いた。自分を見ているようで、どこか遠くを見ている。
 こんな時は、大概自分と『ナギ』という亡き少年の姿を重ねていることが多い。
 (ちぇっ…)
 本当は少し面白くないが、そんな顔を表に出さずグリンは笑った。
「さてと、もうちょっと登れば実も取れるぜ」

「グリンは優しいね」

「あ?」
 マーハの唇から発せられた意外な言葉に、グリンは静止した。