其の5 木漏れ日の中
シーンC
「最近、今までの事を思い返すんだ。そうして気付いた。わたしとタケルは、あの村でみんなを失って悲しくて仕方なかった。その時、グリンに逢ってからだよ…」
「……」
「『木漏れ日』ってさ。森の中にすうっと光が射すじゃない?…あんな感じ」
「あんな感じ?」
「そ、グリンの事」
「な…」
「みんなを明るくする。わたしとタケル。タケルなんて口喧嘩出来る位に元気になったんだから。グリンのおかげなんだよ」
「ど、そ、に…」

(どうしてそんなの、口に出していえるんだ〜〜〜〜!)

 微笑むマーハを前に、グリンは舌も回らず体温も上がる一方。2人は木の実の方へ、さらに上へ登る。そういえば、タケルにも『案外いい奴』なんて言われたことがあったが。

「『木漏れ日』だなんて言われたのは初めてだな」
「だから、グリンはどうなんだろうって思った」
「どうって?」
「ダイス…グリンは全然辛さを見せないし、無理してないかなって」
 ダイスとは『星のロッド』を手に入れる際に命を落とした、グリンの弟分の事だ。
 グリンが身近な人間を亡くしたのは、それが初めてではなかった。レインである彼は物心ついた頃から、自分が組織の命の上に成り立っている事を知っていた。魔王に狙われ、住む場所を転々とし、顔見知りのメンバーは何人も失われている。それを、他人に気にかけられたのは実の所初めてだった。
「……」
 自分の為に犠牲となる人間が居る事を当然と思っていた。感覚が麻痺していた。少なくともあの時までは。



 母以外の人間で、打たれた言葉を投掛けられたあの時。
「人を一人救えないようで、世界を救うなんて出来る訳ない!」
 自分の為に犠牲となる誰かが居る、ならば自分も誰かの為に戦えばいい。その事に気付いた。亡くした人間と、そして彼女と。



「わたしとタケルは、グリンに助けてもらってる…」
(そこまで大層な事をしてるつもりはないんだけどな)
 2人を助けているという自覚はなかった。ただ、気になってはいた。マーハとタケルには互いしか残されていない。その重く圧し掛かる喪失感に。
「オレには『グリーン・ウッド』の仲間が居たからな。幸せモンなんだよ」
 そう言って、グリンは木の実を手に取った。
「木漏れ日よかさ、森の外はきっともっと明るい。森を出ちまえばいいんだ。違うか?」
 木の実の一つをマーハの手に乗せる。マーハはそれを、受け取る。





 森の中の彼女。マーハには現在迷いがあった。

(わたしは使命を終えたらどうすればいいんだろう)

 タケルとグリンには力がある。オーフェとミッフィー、ヨシュア、マホメトには魔法がある。この旅の中で、彼女は失われた命と自分の不甲斐無さを何度も悔やんだ。このままでは、みんなの足を引っ張るだけ。
(グリン、それにみんなは強い)
 森を出てしまえば、晴れやかな気持ちになるのだろうか。
「グリンは森を出たの?」
「ああ、月明かりが眩しいんだ」
「それって、夜じゃないか」
 マーハはクスクスと笑った。彼女は気付いてはいないのだ。彼女こそが、レインの心を救い、繋いでいるという事実を。
(月の明かりは…)
 眩しくマーハを見て、グリンはそう言い掛け、止めた。楽しそうに笑う月の髪の乙女・マーハ、もうそれだけで十分だったのだ。『昔の事を思い起こす』と彼女は言った。それが、先程感じた直感と関係するんだろう。

 旅の終わり…、そして別れ。




 その光景を、樫の杖に乗ったマホメトは静かに眺めていた。
 残るレインは後1人だ。その後、彼女はどうするのか。月の明かりを失えばそれは、新月の夜。それを想定したくはない。レインとルラが断たれた時の、レインへ迫る闇。
(ただし、レインではないマホメトにとって彼とマーハの関係は別の意味で深いものであるけれども)
 レインの要、ルラ。いずれ、マーハは異世界に戻る。

To be continued…
LEGEND