其の6 合せ鏡
シーンB
ザクッ!

 砂の音。
 恐る恐る目を開くと、すぐ横に砂に深々と突き刺さるタケルの剣があった。





「……」

「ハアハアハアハア…」

 自分にかかる熱く荒い吐息に気付き、見上げるとそこにタケルの顔がある。星明りの逆光でその表情は分からない。
「クッ!」
「!」
 マーハの頬に一雫の水滴が零れ落ちた。
(汗…?…!!)
 瞳が光った…そんな気がした。

(涙…)

「すまない…」
 タケルは剣を抜いて立ち上がり、そしてマーハに背を向けた。肩で大きく息をし、手にある太刀を確認後、天を見上げる。
「今日はここまでだ。明日から素振り100回…それから教えてやる」
「タケル…」
「俺はもう休む。横になるだけでも違うだろうしな」
 身体を起こしたマーハは彼の心を悟った。
 彼もまた、あの日から見続けているのだろう。惨劇の悪夢。タケルはマーハの横を静かに通り過ぎる。

「タケル!」

「……」
 タケルはこちらを向かず歩みを止めた。
「わたしの…わたしのせいだ…」
「お前が居なければ…そう思った事もあった。でも、それは違う」
「……」
「俺も同じだ。俺の為でもあるんだ。自分がレインである事で…それが分からない」
「……」
「どうしたらいいか分からない。何も分からないんだ。十何年も、あの村で生きていて…、自分が特別だった事にすら気付いていなかった。俺は…」
 タケルは噛締めて、両拳を握り締めた。その手が小さく震えている。
 それに気付いたマーハは自分に言い聞かせるかのように口を開いた。
「みんなの夢を叶える事。世界を救う事。まずはその為にレインを集める事。出来る事から始めよう。もうグリンが見付かったんだ。少しずつだけど、前に進んでるじゃない」
「……」
「早く身体を休めて。明日もまた進まなくちゃいけないから」
「明日も…」
 夜の度、あの悪夢は繰り返される。いつか解放されるその時まで戦い続けるしかない。自分に出来る事はそれしかないから。

 
合せ鏡の様に、互いの姿を映しあう。一人出なくて良かった。互いが居る事が、在りし日が確かに在った事の証となる。

 タケルは剣を鞘に収めて、マーハへと振り返った。
「ありがとう」
 彼はそう呟いて、微笑む。マーハはその意味が深く分からなかったが、笑みを取り戻したタケルに安堵を覚えた。
「おやすみ」
 彼女もまた微笑み返す。
 迷ってはいられない。まだ、旅は始まったばかりなのだから。


To be continued…
LEGEND