「……」
「ハアハアハアハア…」
自分にかかる熱く荒い吐息に気付き、見上げるとそこにタケルの顔がある。星明りの逆光でその表情は分からない。
「クッ!」
「!」
マーハの頬に一雫の水滴が零れ落ちた。
(汗…?…!!)
瞳が光った…そんな気がした。
(涙…)
「すまない…」
タケルは剣を抜いて立ち上がり、そしてマーハに背を向けた。肩で大きく息をし、手にある太刀を確認後、天を見上げる。
「今日はここまでだ。明日から素振り100回…それから教えてやる」
「タケル…」
「俺はもう休む。横になるだけでも違うだろうしな」
身体を起こしたマーハは彼の心を悟った。
彼もまた、あの日から見続けているのだろう。惨劇の悪夢。タケルはマーハの横を静かに通り過ぎる。
「タケル!」
「……」
タケルはこちらを向かず歩みを止めた。
「わたしの…わたしのせいだ…」
「お前が居なければ…そう思った事もあった。でも、それは違う」
「……」
「俺も同じだ。俺の為でもあるんだ。自分がレインである事で…それが分からない」
「……」
「どうしたらいいか分からない。何も分からないんだ。十何年も、あの村で生きていて…、自分が特別だった事にすら気付いていなかった。俺は…」
タケルは噛締めて、両拳を握り締めた。その手が小さく震えている。
それに気付いたマーハは自分に言い聞かせるかのように口を開いた。
「みんなの夢を叶える事。世界を救う事。まずはその為にレインを集める事。出来る事から始めよう。もうグリンが見付かったんだ。少しずつだけど、前に進んでるじゃない」
「……」
「早く身体を休めて。明日もまた進まなくちゃいけないから」
「明日も…」
夜の度、あの悪夢は繰り返される。いつか解放されるその時まで戦い続けるしかない。自分に出来る事はそれしかないから。
合せ鏡の様に、互いの姿を映しあう。一人出なくて良かった。互いが居る事が、在りし日が確かに在った事の証となる。
タケルは剣を鞘に収めて、マーハへと振り返った。
「ありがとう」
彼はそう呟いて、微笑む。マーハはその意味が深く分からなかったが、笑みを取り戻したタケルに安堵を覚えた。
「おやすみ」
彼女もまた微笑み返す。
迷ってはいられない。まだ、旅は始まったばかりなのだから。
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