其の7 結婚しよう
シーンB
「で、何が言いたいのです。フィーナ?」

 ヨシュアは眉を顰めた。シュスフィーナのこれから提案しようとする『作戦』とやらに、一抹の不安を覚えたからである。夕食の席で、よく焼けた新鮮な海魚を頬張りながらシュスフィーナは事情の一切を一行に話した。話はこうだ。



 結婚を決めたその日に、村に嵐が吹き荒れた。漁船は転覆し、その日海に出たものは帰らず、甚大な被害を被った。後に『海の魔女』と名乗る魔将から、明日村で最も幸せな女を生贄として差し出せと、近くの岩礁を指定してきたのである。さもなくば、魔将は仲間を率いて村を滅ぼすと言うのだ。
 そして、明日結婚式を迎えるレオナが生贄と決められた。



「これが、許せるの、みんな!」

 一瞬静まる、夕食の席。マルスは静かにコクリと頷いた。そして、ミッフィーは荒々しくテーブルを叩き立ち上がる。
「同じ女として、そりゃ〜許せんわな。それこそ醜い嫉妬やんか。そないな魔将、ウチ等が懲らしめなあかん!」
「でしょ、でしょ。マルスさんとミッフィーさんは話が分かるわ!」
 何やら盛り上がる2人にやや引けをとる、他一行。
「それでね、わたしに『作戦』があるの!…入って、ディアスさん、レオナさん」
 その声に呼ばれ、ディアスとレオナがその部屋に入ってきた。その容貌、ディアスは青髪の背が高く体格の良い男で、レオナは赤毛の揺れる髪の女だった。
 ヨシュアの予感は的中した。それも最悪の形で。
「で、何が言いたいのです。フィーナ?」
 ヨシュアは眉を顰めた。
「フフフ〜、とか何とか言っちゃって。分かってるんじゃないの〜ヨシュアさん?」
 なんとなく状況の読めた、グリン、オーフェ、ミッフィーはクスクスと笑い出す。マルスも分かっているのだろうが、相変わらず無表情でその場を静観していた。対して、タケルとガルシアンは皆目予想もつかないらしい。

「冗談じゃありません!」

 ヨシュアは普段にない強い口調で椅子から立ち上がった。
「何を怒っているんだ、ヨシュア?」
「ガルシアン…あなたは気付かないのですか?」
「何をだ?」
「……」
「プハハハハッッッッ〜〜〜〜」
 たまらずグリンは高らかに笑い出した。
「フィーナの言いたい事はこうだろ?『花嫁と花婿に化けて、魔将を返り討ちにする』!」
「そう言う事」
「でも、誰が…」
 と言ったところで、レオナの赤毛にようやく気付いたタケルが拳を叩いた。
「ああ、なるほど。ヨシュアか…」
「タケルも何を納得しているのですか!」
「しかし、花婿はどうする?」
 その方向違いのガルシアンの言葉に、一行は静止した。ワンテンポ遅れているガルシアンだけが、まだ把握しきれていない。
「ガルシアン〜〜〜〜」
 ヨシュアは頭を抱えてテーブルに伏せる。他一行は、ガルシアンの顔を呆れた様に見ていた。
「皆どうしたんだ?」
 シュスフィーナはビッとガルシアンを指差した。



「花婿はあなたよ、ガルシアン!」

 最初意味が分からずにしばし、呆然としたガルシアンはすぐに我に返って珍しく慌てふためいた。
「それは困る、俺には演技なんて無理だ!」
「でも、ヨシュアさんと背丈のバランスが合うのはガルシアンさんしか居ないのよ」
「せやな、背格好もディアスとよう似とるし…」
「しかし俺は魔族だぞ!」
「遠目から見ればどうにでもなるわ、そんなの。もっとも敵の目的は花嫁なんだから」
「それならば花嫁の髪もカツラか何かでどうにでもなるでしょう!」
 ヨシュアは彼が適役だとばかりに、オーフェに目を向けた。
「僕は司祭の役の方が向いていると思うんです」
 ニッコリと微笑み返すオーフェ。彼の方が一枚上手だった。
「ウチの尻尾と耳はでかいから隠せへんし、フィーナを危ない目には合わせへんやろ?」
「ハッハッハ〜、諦めが悪りいぜ、ロクデナシ!」
「人をいつまでも『ロクデナシ』呼ばわりしないで下さい!!」
 マルスも何か言って下さいと言おうとしたヨシュアだが、よくよく考えてみれば彼は話す事が出来なかった。すると全員一致の意見で花嫁と花婿の役は決定してしまった事になる。
(悪夢です…)
 ヨシュアは大きく天を仰いだ。
「すみません、どうかどうかレオナを助けて下さい!」
「お願いします!!」
 ディアスとレオナは土下座をして、ヨシュアとガルシアンに助力を乞う。
「こうまでされては、仕方ないな…」
 ガルシアンは覚悟が出来たようだ。
「大丈夫です、女装なんてたいした事ないですよ」
「オーフェ、お前…慣れてるな…」
「グリンさん、変な事言わないで下さい!」
(女装では…ないのですがね…)
 ヨシュアは苦々しく唇を歪めて笑った。