其の7 結婚しよう
シーンE
「至上の幸福を手にした花嫁に、永遠の悪夢を!」

 待ち侘びたその声が海岸に響く。
 突如闇が空を覆い、オーフェの背後、海面に渦潮が生じ、その中心から醜く巨大な人魚が現れた。
「現れたな、『海の魔女』!」
 ガルシアンは素早く、祭壇下に隠してあったハルバードを構えていた。
「来たな!」
 タケルとマルスも同様にマントの中の武器を構える。
「後もう少しって時によッ!」
「タイミング悪いで!」
「最低ですね」
「どうしてもうちょっと待ってくれないのよ!」
 村人が悲鳴を上げて、逃げ出す中、グリン、ミッフィー、オーフェとシュスフィーナは渋々戦いに備えた。各々のその台詞、やや方向がずれている。
「『海の魔女』…」
 当初、呆然と立ち尽くしていたと思われたヨシュアが重い口を開いた。これまでにない低い、それは低い口調だった。
「焼き魚に…いえ…消し炭にしてあげましょう」
 ヨシュアは軽く手を翳した。
「『アストラルフレア』!」
 古代語魔法、炎系最強呪文。容赦がない。それだけでなく、ヨシュアの感情が込められた魔法は周辺の海岸を覆い尽す程の巨大な爆炎となった。
「ギャ…」
 悲鳴を上げる間もなく、魔将・マーマンは燃え尽きる。
「ゴ…『ゴッド・ブレス』!」
 オーフェは慌てて防御魔法を一行に唱えた。
「それに…皆さん…」





 ヨシュアはその爆炎を背負い、振り返る。ウエディングドレスがはためいて、炎の照り返しにヨシュアの顔が顕となった。
 本気で怒っている。
「悪ふざけが過ぎましたね…!」



 次の日、アモンの村からさらに南へと一行は旅立つ事となり、『海の魔女』は倒されたものの、漁船を焼かれそれ以上の被害を被った村人達は、泣き笑いで一行を見送った。
 また、ガルシアン以外の彼等もヨシュアの怒りの炎に煽られてしまった。シュスフィーナは服の袖が焼かれ、ミッフィーは尻尾が少し焦げた程度で済んだが男性陣3人のタケル、グリン、オーフェに至っては、本当に火傷を作ってしまっている。ちなみにマルスはちゃっかりと自分の防御魔法で無事だったようだ。
『ヨシュアは怒らせたら、ただでは済まない』

 と言う事を、身を以って体験した彼等は反省したのか、すまなそうに前方を歩いている。「何で俺まで…」とはタケル談。
「何も花嫁の役をやらされた位で、そこまで怒る事もないだろう?」
 ヨシュアの傍を歩くガルシアンは、軽く諌めた。
「『花嫁』と言う事で怒っているのではありません」
「『式』も演技だろう?」
「あなたと言う人は、演技ならば、誰にでもああまでするのですか!」
「『ああ』?…『誓いのキス』か?」
「……」
 ヨシュアの顔が微かに紅くなった。
「お前が、シュスフィーナと何やら話していた時の事だ。あんな風に笑えるのだな…そう思った」
「は?」
 ガルシアンは思い起こした。
 シュスフィーナに向けた、ヨシュアの慈愛に満ちた聖母の様な笑み。

「自然に美しいと思った。だから誰にでも構わないという訳ではない。花婿になりきったつもりではあったが…」

「…あなたと言う人は…」
 ヨシュアは苦笑いをしながらこめかみを押さえた。ガルシアンは自分の言っている意味が分かっているのだろうか。その言葉は…。

『ヨシュアを美しいと思ったから、ヨシュアならば良い』

 とも取れる。異性であるとは関係もなく。女である事を隠しているヨシュアにとって初めて聞く言葉。
(まったく、なんて事を言うのですかね…)
 経た歳とは反比例な、その無垢な想いに眩暈を覚えながらも、ヨシュアはその言葉に心なしか嬉しさを覚えるのであった。

To be continued…
LEGEND