グリーンストーンのレイン・グリンは、生まれ故郷のテーベへ足を踏み入れた。自分がこの街を発った頃から海路は閉ざされ、魔王の影響を受けていたが今は当時よりも更に人通りが少ない。空き家になった家々を横目に、彼は我が家である盗賊ギルド、『緑の森(グリーン・ウッド)』の本拠へと向かった。
今回レインの別れた発端の事件は、グリンの一言にある。
パウルでラシューヌ神の力を得たマーハを見てから、自分の中で何かが狂った。あれ以来時折白昼夢がグリンを襲う。それは決まって…
「手ニ入レテ欲シイ…アナタニ…」
まただ。目の前に居るのはマーハ。自分を見つめるその瞳に吸い込まれそうになる。彼女は、グリンに近づき頬に手を添える。
「愛シテル」
「嘘だ!」
グリンは逃れようとすると、実感のない幻は消える。
「クソッ…クソッ!」
(オレはいよいよおかしくなっちまったのかよ!)
「グリン?」
戸を開けて、頭を抱えて通りに座り込むグリンに声をかけたのは、グリーン・ウッドの仲間・リップだった。
「ちょうどよかった。もう少しですれ違いになるところだったわ」
「すれ違い?」
「今日、お兄ちゃんと一緒にね、北に移る予定なの」
リップはテキパキと、周辺の片づけをしていた。とは言え、既に殆ど終えているらしく、荷物は箱に仕舞われて、部屋の中は閑散としている。
「ご飯、まだでしょ。食べてく?」
「グリン兄ちゃんは、どうしたの?」
夕食を待ち、いすでフラフラと足を揺らしたダイスがグリンに尋ねた。10にも満たない子供であるが彼もまた、仲間の一人だ。
「他のレインのみんなはどうしちゃったの?」
「別れたんだ」
「!」
リップはその言葉を聞いて、手を止めた。ダイスもまた、幼いなりにも事の重大さに気付いたようだ。
「別れた…って。一体何があったのよ」
「関係ねえだろ」
「だって、ヴァティスを倒すにはレインが力をあわせて…」
「関係ねえって言ってるだろ!」
食卓は静まり返った。
「…情けねえぜ、グリン。女子供に大声上げやがって!」
部屋に入ってきたその声の主は、リップの兄・ジュウジュだ。どうやら、リップとダイスを迎えに来たらしい。
「お兄ちゃん…」
「お前らしくないぜ、グリン。いつもあんな余裕に笑ってたじゃんか」
物心つく前から、自分と共に育ってきたジュウジュだ。グリンは自分の失態を付かれそうで、唇をかみ締めた。
今回の件は、自分に非がある。それは分かっている。だが、誰からも指摘されたくはない。それは、グリンのプライドが許さなかった。
時期は悪かったかもしれないが、いつかはこうなる事は予想できた。切欠を作ってしまったのがたまたま自分だったからだ。それが、悔しい。あの白昼夢が、自分の冷静さを欠いたのかもしれない。
「邪魔したな…」
グリンは心苦しくなり、その席を立った。
「ちょっと、グリン。もう夜遅いし泊まっていけば…」
追いかけようとするリップの肩を、ジュウジュは押し止める。戸が空しく音を立てて閉じた。
「わたし達だけじゃない。レインもバラバラになっちゃったわ…」
「……」
ジュウジュは何も言わない。リップは一向に纏まりのないレオハルトのクルーと現在のレインの姿を重ね、大きく溜息をついた。
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