其の8 各々の休息
シーンC
 もう船の発つ事のない港で、グリンは静かに海を眺めた。日は沈もうとしている。潮の香りに、あの海の洞窟を思い起こす。2人だけで、満潮の為に閉じ込められた洞窟で感じたマーハの温もり。

 初めて会った時、実は男だと思っていた。それでも、惹かれるものがあった。女だと知って、自分の中で膨れ上がる想いを抑える事が出来なくなり、そして絆を壊したのだ。彼女が築き上げたレインの絆を。

 (すまねえ、みんな…)

 グリンは拳を固く握り締めたその時。

 「グリン、逢いたかった…」

 心の底から焦がれていた声だった。
 (またか…)
 どうせ白昼夢だろう、グリンは振り向くと、そこにはやはりマーハの姿があった。只、いつもと違うのは黒い服。彼女は白い腕を伸ばして、グリンの頬に手を添えた。
 「…マーハ」
 いつもと違う、実感があった。温かく柔らかい手の感触が。
 「あの時…無理にでもあなたのものにしてしまえばよかったのに…」
 「オレは…」

 自分を求めるマーハの視線から逃れて、グリンは小さく呟いた。

 「アイツを裏切ってとか、お前を力づくでとか…考えたくねえよ」

 アイツは…タケルは一番先に出会ったレインであり、親友であり、ライバルだ。そんな彼を裏切る真似は出来ない。タケルもまた、自覚はないがマーハに惹かれているのだから。
 「そう…」
 冷たく笑うマーハの手が、グリンの頬から離れてゆっくりと額へ動いた。
 そうしてグリンはようやく気付いた。こんな風に微笑むマーハではない。彼女はマーハではない。これまでに見た白昼夢もまた彼女だ。
 「我が名はソファーラ…」
 「!」
 



 「…臆病者…」
 
 額に強い痛みが電撃の様に走り、魔晶石が黒く輝く。そこで彼の思考は途絶えた。
 それから後の事を、彼は覚えていない。

To be continued…
LEGEND