もう船の発つ事のない港で、グリンは静かに海を眺めた。日は沈もうとしている。潮の香りに、あの海の洞窟を思い起こす。2人だけで、満潮の為に閉じ込められた洞窟で感じたマーハの温もり。
初めて会った時、実は男だと思っていた。それでも、惹かれるものがあった。女だと知って、自分の中で膨れ上がる想いを抑える事が出来なくなり、そして絆を壊したのだ。彼女が築き上げたレインの絆を。
(すまねえ、みんな…)
グリンは拳を固く握り締めたその時。
「グリン、逢いたかった…」
心の底から焦がれていた声だった。
(またか…)
どうせ白昼夢だろう、グリンは振り向くと、そこにはやはりマーハの姿があった。只、いつもと違うのは黒い服。彼女は白い腕を伸ばして、グリンの頬に手を添えた。
「…マーハ」
いつもと違う、実感があった。温かく柔らかい手の感触が。
「あの時…無理にでもあなたのものにしてしまえばよかったのに…」
「オレは…」
自分を求めるマーハの視線から逃れて、グリンは小さく呟いた。
「アイツを裏切ってとか、お前を力づくでとか…考えたくねえよ」
アイツは…タケルは一番先に出会ったレインであり、親友であり、ライバルだ。そんな彼を裏切る真似は出来ない。タケルもまた、自覚はないがマーハに惹かれているのだから。
「そう…」
冷たく笑うマーハの手が、グリンの頬から離れてゆっくりと額へ動いた。
そうしてグリンはようやく気付いた。こんな風に微笑むマーハではない。彼女はマーハではない。これまでに見た白昼夢もまた彼女だ。
「我が名はソファーラ…」
「!」
|