翌日の昼。
目の前のベッドではマーハが昏々と眠っている。
(どうしましょう…)
オーフェは頭を抱えてしまった。
一体何が起きたのかが分からない。
つい先程、依頼された薬の調合を終え、最後にオーフェはレシピに書かれた通りの魔法を唱えた。
『チャーム』…魅了の魔法である。元来敵対する者に対して戦意を喪失させる目的で、争いを好まない神官達の間でこの魔法は使われていた。
唱えた所で、彼は気付いたのだ。もしや…この薬。
そこで、オーフェは事の真意を確かめる為、依頼主であるオルトロスの泊まる宿へと向かったが、あいにく留守であった。仕方なく部屋に戻ってみると、マーハが床に倒れている。何が起きたのかが分からないオーフェは、とにかくベッドにマーハを横たわらせた。
(また、無理をされていたのでしょうか?)
「んん…」
マーハはぼんやりと瞳を開く。彼女の目の前には心配そうに自分を覗き込むオーフェの顔があった。
「オ…オーフェ…わたし…」
「大丈夫ですか、マーハさん。一体何があったんですか?」
「わたし、あの薬を少しだけ味見しちゃって…それで…」
マーハは恥ずかしそうに俯いた。
「あ、味見!?」
「だって、綺麗なピンク色で美味しそうだったから」
「……」
ちょうどその時、扉をノックした後タケルが部屋へと入って来た。
「ああ、帰って来たのか…オーフェ。タイミングが悪いな。ついさっき例のオルトロスって男が、お前に会いに来たらしいぞ」
「ええ!まだいらっしゃいますか?」
「いや、俺は直接会っていない。グリンが言うにはもう帰ったらしいが…」
「追いかけないと!」
オーフェはその場から駆け出そうとした時、マーハは彼の手を握った。
「マ…マーハさん?」
「行かないで…オーフェ…」
俯いていたマーハは、頬を紅く染め上目遣いでオーフェを見つめた。
「傍に居て、オーフェ。わたし…オーフェの事が好きなの」
その言葉に、オーフェとタケルが凍りついたのは言うまでもない。
|