其の10 約束の薬
シーンC
 その日も夕日が沈む頃に、オーフェはようやくオルトロスの泊まる宿に辿り着く事が出来た。オルトロスは、オーフェの顔を見るなりに待ち侘びていたらしく駆け寄ってきたが。



 オーフェが彼に手渡したのは報酬の金貨だった。
「これはお返しします」
「オーフェさん…」
「薬で好きな人の心を手にしても、虚しいだけです」
「……」
 オルトロスは図星を刺され、黙ってしまった。そして、塞ぎこんだ後に重い口を開いた。
「フィラデルフィアには…他に男が居るんです。この婚約は古くから決められていましたが、それとは関係なく私は彼女を愛しています。しかし、見ての通り私は見栄えのいい男ではない。あるのは金と地位ばかり。彼女を振り向かせる方法が…他に思いつかなかった」
 そう言って、彼は膝を落とした。



「僕は諦めませんよ」

 オーフェは腰を屈めて目線をその哀れな男に合わせた。金貨の入った皮袋を、彼に握らせる。
「彼女と幸せになりたいから、彼女を幸せにしたいから。自分に出来る事をしようと思うんです。それを教えてくれたのは彼女なんです」
「…あなたにもいらっしゃるのですね…」
「はい、僕を…いえ、僕達を導いてくれた方です」



 オルトロスが顔を上げると、宿の入口に立つ夕日の逆光を浴びた3つの人影が見えた。そして…。
「みんな〜、待ってったら〜!」
 女性の声が遠くに響いた。その声に3つの人影と、オーフェは振り返る。



「それではお別れです、オルトロスさん。お互い頑張りましょう」
「あなた方は…」
 オルトロスは何かを悟ったらしい。手にある皮袋を再びオーフェの手に戻した。
「おかげで、目が覚めました。これはほんの御礼です。私も諦めません。彼女と幸せになりたいから、彼女を幸せにしたいから。自分に出来る事をしようと思います」

 それから、しばらくして。
 オルトロス=ルルカとフィラデルフィア=ルナルの婚儀が、ブリストルの街で盛大に執り行われたと風の噂で流れた。
 そして余談であるが、『少しだけ味見』をしてから解毒の魔法を受けるまでの間の記憶を、マーハは一切覚えていなかったらしい。こっ酷くタケルに怒られるマーハの横で、オーフェはやはり『少しだけ』後悔するのだった。

To be continued…
LEGEND