「ごめん…立てない…、力が入らない」
先程気付くべきだった。タケルは悔いた。「マーハを狙ってくる可能性が高い」と、自分が思慮せず意見した時に見せたマーハの表情に気付くべきだった。
「……」
彼はそっと、震える彼女の頬に手を寄せた。
「わたし…」
月が雲に隠れた。闇に覆われた池から、金色の淡い光を発する月光虫が次々と舞い空中を漂う。
マーハは、縋る様に自分の頬にある彼の手を握り返し、瞳を閉じた。震えが止まらなかった。
「怖い…怖いんだ。戦いが怖い、ヴァティスが怖い、自分が神でいる事が怖い、でも…でも何よりもッ…!」
「俺が恐怖に逃げだした時、救ってくれたのはお前だった。あいつらも言っていただろう。お前には、俺が居る」
「でも…」
何かを求めるように、マーハはタケルを見つめる。
「すべてが終われば、…もう逢えなくなる!!」
確定した。「戦いの終焉」。やはり、2人の出した答は同じものだったのだ。
「今、こうしてお前の傍に居る。これからも、ずっとお前の夢で生き続ける」
「夢で…」
「ああ…」
「…そうやって」
彼女の頬に一筋の涙が零れた。
「いつもタケルはわたしを守ってくれる…」
肌でタケルの温もりを感じ、自然にマーハの震えは止んだ。明日は、全界の運命を賭けた最期の戦いに赴く。
だからせめて、今だけは。月の見えない今夜だけは、触れ合って存在を確かめていたい。手で触れ合うだけでも。
深遠な闇夜。2人の影を、儚い無数の輝きだけがただ静かに優しく照らしていた。
|