其の13 贐
シーンB
「何も今日すぐに出て行く必要もないだろう?」
 願書を返しに来たエイセルに、ジークは呆れて言った。エイセルの背には、愛用のミスリルの大剣、そして小さな袋を背負っている。旅の荷である事は、一目で分かった。
「卒業式まで待てばいいのに」
「決心が揺らぐ」
「証書だけでももらっていけば、この先役に立つかもしれないぞ?」
「その為にこの学校にいたわけじゃないさ」
 エイセルは軽く笑って医務室を見回した。もう何度通ったか分からないこの部屋は、居心地が良かったのだと思う。時に呪いに悩み、時に些細な日常を語り笑い合い、愚痴をこぼしたりもした。ジークとアリスタ、エイセルの4人で戦いに赴いた事もあった。今となってはその全てが懐かしく思い起こされる。
「ここともお別れか。ここで色々学んだ。魔法だけじゃねえ、世界と…俺と人の心、歴史と現実…自分の生き方」
「寂しくなるな」
 ジークは握手を求め右手を差し伸べた。エイセルはその手を握り返す。
「世話になったな。あと2年、レニーの事を頼むよ」
「……」
 静かに2人の手は離れ、少し驚いたように間があった後にジークは含んで笑った。
「外を見てごらん?」
「何?」



 言われて何かとエイセルが窓から庭を覗くと、そこにはどこから話を聞きつけたのか同学年の生徒だろう。エゼクもエルシュリクの生徒も皆が一輪の花を持ち立っていた。
「遅いぞ、エイセル」
「お兄ちゃん、みんな待ってるよ」
 聞き覚えのある声の持ち主が、医務室に入ってきた。アリスタとレニーだ。
「お前たち、気付いてたのか」
 2人は、やはり彼と同様の荷を背負っている。
「レニーは休学届けとして受け取っておくよ」
 ジークはエイセルの肩を優しく叩いた。
「卒業の贐(はなむけ)に学校の一教師として、君に言葉を送ろう。『君は己の信じる道を進むがいい。何も恐れず、何も憂えずに、真っ直ぐに己の信じる道を。そこに答がある』」

 新年度の秋を前に3人の生徒が、エルシュリク魔術師養成学校を発った。彼等が、レインと出会いレジェンドの終焉をその目にするのは、それから約1年後の事となる。

To be continued…
LEGEND =Dream=