「ありがとう、サンユン」
手に持つ水晶球の上、ビジョンの魔法によって映し出されたサンタマリアの士官にヨシュアは礼を述べた。
所変わってここはファンジームの街、ソグディアナ。眼下に街並と海が一望できる岬の上で、小さな墓碑の前で膝を立て黙祷を捧げる青年の背にヨシュアは告げた。
「無事、例のものは私の城に届いたようです。タケル…」
「そうか…」
タケルは腰を上げ、彼女の方へと振り返った。サンタマリア巫女王とライム国王。互いに簡素な身なりであり、従者もいない。私的な時間なのだろう。2人きり、静かな岬で死者を哀悼していた。
「しかし、なにもヘパイストスに運ばせなくとも」
「彼の工房はアルティマの北部にあるから、サンタマリアに近いだろう」
「夢を幻として映し出す、映写機ですか…」
「ああ『夢の小箱』という」
「なぜそのようなものを?」
タケルは再び墓碑へと顔を向けた。そこにはヨシュアの従妹であり、タケルに恋し命を落とした少女が眠っている。
「今年はたまたま時間が出来たからこうしてフィーナに会う事が出来た。去年の今日は、ここを訪れる事が出来なかった。忘れたくはないのに、彼女の事もそれに…」
「タケル…」
嫌な予感がしたヨシュアは制するようにタケルに何かを言おうとした。
「ヨシュアの言いたい事は分かっている。だが、そのための『夢の小箱』ではないんだ」
夢を映し出す事が出来る。それは人の焦がれた幻を作り出すということだ。タケルが心の底から焦がれるものが何か、ヨシュアは知っている。もし、小箱を使ってしまえば…それを目にしたこの年若い王の心が壊れてしまう。夢から醒める事が出来なくなってしまうのではないか。
そんな彼女の不安を打ち消すかのように、タケルは微笑んだ。切ないほどに。
「だから、お前に預けた。俺は強くないから」
「わかりました」
「悪夢を人に見せる事も出来る。一歩間違えば危険な事にもなりうるんだ。頼むよ」
「仕方ありませんね」
微笑むヨシュアもまた、墓碑へと視線を降ろした。この時期にライムに咲くコスモスの花束が風に揺れている。花言葉は「乙女の真心」とあった。シュスフィーナが願っていたのはタケルの幸せ。今、彼女はどんな思いで彼を見守っているのだろう。そして、彼はどんな思いでレインの任を果たしているのだろうか?
「あれは、いつか俺の言う人間に渡して欲しい」
「はい?」
何かを心に決めているらしい。タケルは静かに呟いた。
「それに相応しい人間が現れる事を俺は願っている」
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