第2話 流浪の民
シーンA
○ダマスクスの街・昼
ティキ
(ナレーション・
以下N)
「『レインの敗北』。
その噂は瞬く間にライムランド全土に広がり、あれから3年の歳月が経とうとしていた」
舞台で舞を舞うサンドラとクルエ。
観客は楽しげにそれを観賞する。
N 「人々は誰もが不安に怯えていた。いつ、魔将に襲われるやも知れぬ恐怖。いずれ復活するであろう魔界神と滅びる事のない魔王への絶望と…」
ガヤ 「きゃああああぁぁぁぁ〜〜〜〜!!」
観客の奥の方から悲鳴が聞こえる。
ガヤ 「魔将だ〜!!」
ガヤ 「うわああああぁぁぁぁ〜〜〜〜!!」
ガヤ 「逃げろ〜〜〜〜!」
散り散りになる観客。
サンドラとクルエは舞を止め、前方を見据える。
その前にセイクレッドとシルクレストが立つ。
シルクレストは剣を構える。
シルクレスト 「ちくしょお、またかよ…いつもいつもいい所で邪魔しやがって!」
セイクレッド 「ガルルルル〜〜〜〜!」
セイクレッドは唸り声を上げ、トラの姿へ獣化する。
前方より現れるのは7、8体のオーク。
シルクレスト 「げ…多いじゃんか!」
ヒラリとサンドラの肩に舞い降りる、妖精のフォウリー。
フォウリー 「サンドラ…あたし達も逃げなきゃ〜!」
サンドラ 「……」
サンドラは何か思いつめたように魔将を睨む。
クルエ 「サンドラ!」
ティキ 「みんな〜、伏せておれ〜〜〜〜!」
と、舞台裏から現れるのはドワーフのティキ。
舞台照明を大筒のように抱えている。
閃光と共に、爆音!
「!」
煙が上がり、はれたその場所のオークは全て消滅している。
建物の陰に隠れた人物は、己の小剣を鞘に納める。
煙の影が薄れ、その人物はグリークだと分かる。
グリーク 「出番なしか…」
グリークは大筒を抱えるティキに目を見張る。
微笑。
グリーク 「間違いない…やっと見つけた!」

○【サブタイトル】




○同街
騒動で人気は無く、物だけが雑然とした舞台の周辺を片付けるのは、シルクレスト、ティキ、セイクレッドの3人。
フォウリーはティキの頭に乗っている。
一方、クルエは舞台でサンドラに舞の稽古を受けている。
フォウリー 「グチャグチャになっちゃったね…公演…」
寂しそうに溜息をつくフォウリー。
シルクレスト 「でもよ…すごいじゃん、ティキ。あのライトがあんな風に役に立つなんてさ!」
ティキ 「ふはっはっは〜!
実はなあ、ココを開けると火薬が入るように設計してあるんじゃ。見た目は舞台照明じゃがな〜…」
シルクレスト 「立派な武器じゃん!」
ティキ 「!」
シルクレストのその言葉に、ティキはハッとなる。
ティキ 「武器…そうじゃな…これじゃあ、道具ではなくて武器じゃな…」
フォウリー 「ティキ?」
一瞬見せるティキの苦しげな表情に、フォウリーは首を傾げる。
シルクレスト 「いい加減、俺も小道具じゃなくてしっかりとした剣が欲しいよな〜」
セイクレッド 「シルクレスト…魔法の勉強は?」
作業を進める手を休めずに、セイクレッドはシルクレストに言う。
シルクレスト 「う…」
セイクレッド 「エルフは魔力高い…魔法の勉強した方がいい。力ならセイの方が強い」
シルクレスト 「次の演目は『剣の舞』だからちょうどいいんだよ!」
フォウリー 「剣の方がカッコいいもんね〜!」
シルクレスト 「な!
…ったく。いちいち突っ込みやがって…」
図星を指され、赤くなるシルクレスト。
フォウリー 「クスクス…」
笑う、フォウリー。
その時。
クルエ 「もう、いや!」
甲高いクルエの声に、シルクレスト達は静まり返り、舞台を見る。

今まで稽古をしていたクルエとサンドラが、只ならぬ雰囲気で向き合っている。
クルエ 「こんな風に踊ったって意味がないじゃない、練習してもしょうがないじゃない!
どうせ、あたしたちみんな魔王に殺される…死んじゃうのよ!!」
サンドラ 「!」
バチン!…とサンドラはクルエの頬を打つ。
クルエ 「……」
サンドラ 「あたし達は何の為に踊ってるのか…分からないのかい!」
しばし呆然とするクルエ。
次の瞬間、目に涙を浮かべてその場から走り去る。
シルクレスト 「クルエ!」
シルクレストは呼び止めるも、彼女が街の中へ消え去って行く。
他一同 「……」
それぞれの表情。
シルクレスト 「なあ…サンドラ?」
居た堪れなくなったシルクレストは、舞台の上に立つサンドラを見上げる。
サンドラ 「……」
クルエを打ち、行き場を失った右手を見つめるサンドラは、迷いを断ち切るようにその手を静かに握り締める。
セイクレッド 「シルクレスト…追った方がいい」
片づけを始めながら、セイクレッドは呟く。
シルクレスト 「え、何で俺なんだよ?」
セイクレッド 「セイのカン」
シルクレスト 「『カン』だ〜?」
セイクレッド 「シルクレストが責任取れ」
シルクレスト 「だぁから、なんで俺なんだよ!」
シルクレストは反論するが。
セイクレッド 「……」
それ以上は語らずに黙々と作業を続けるセイクレッド。
ティキ&フォウリー 「……」
ジト目でシルクレストを睨むティキとフォウリー。
シルクレスト 「分かったよ、分かったよ〜。俺が行けばいいんだろ、俺が行けば!」
肩を竦めるシルクレスト。
シルクレスト 「…っちぇ。面倒かけさせやがって…」
小さく文句を言ってシルクレストは、クルエが消えていった街の中へと走り出す。
その姿を見送るサンドラ。
サンドラ 「言い過ぎたわね」
ティキ 「いや、誰もが不安なんじゃよ。世界は荒れ、日増しに魔将も強くなっておる。
レインが死んでしまった今となっては、わしらは希望を持てん」
サンドラ 「あたしは死んだなんて思いたくない。あの子達がそんなに簡単に負けるもんか!」
吐き捨てるように呟くサンドラ。

フラッシュバック・第10話
レイン一行に助けられるサンドラ達。

セイクレッド 「サンドラ、疲れてる。暫くこの街で休んだ方がいい」
サンドラ 「いえ。もう用が済んだわ。明日、次の街へ出発する」
フォウリー 「え、クルエは?」
サンドラ 「あの子は…あの子に任せましょう。これ以上あたしに付き合わせる必要はないもの」
フォウリー 「そんな〜!」
サンドラ 「悪いわね、先にテントへ戻るわ」
フォウリー 「サンドラってば!」
舞台から降り、裏の方へと消えて行くサンドラ。

○ジプシーテント内
サンドラ(M) 「あたしは…」
サンドラはテントの中の椅子に腰掛け、大きく溜息をつく。
サンドラ(M) 「人に夢を与える…その為に踊り子になった」

インサート
再臨前、比較的平和な頃のライムランド。
大勢の観衆の前で、サンドラは踊る。
歓声と拍手。

フラッシュバック・サンドラとティキの出会い。
サンドラに握手を求めるティキ。
ティキ 「お主の舞は人を幸せにする事が出来る」

フラッシュバック・サンドラとシルクレストの出会い。
サンドラの前で赤面しガチガチのシルクレスト。
その後ろにやはり緊張して立つクルエ。
シルクレスト 「サ…サンドラさん。貴女に…じゃなかった、貴女の舞に惚れました!
弟子入りさせて下さい!!」

サンドラ 「ふふ…」
思い出し小さく笑う。
その後、彼女は顔を覆う。
サンドラ(M) 「でも今のあたしは力不足だ。人々に与える夢は…レインには敵わない。
この辺が限界かしらね…」
彼女の表情は分からない。

○ダマスクスの街・舞台周辺
サンドラの去っていった方向を見つめるフォウリーとティキ。
セイクレッド 「早く片付けないと、日が暮れる」
フォウリー 「もう、セイも何か言ってよぉ〜!」
セイクレッド 「セイ、上手く話せないのは生まれつき」
フォウリー 「そうじゃなくて!」
フォウリーは俯く。
フォウリー 「…なんか、サンドラ…変じゃない?
焦ってるみたいで…」
ティキ 「サンドラはな、探しとるんじゃよ」
フォウリー 「探すって、誰を?」
ティキ 「4年前に出逢った…」
フォウリー 「レイン?」
ティキ 「ああ」
フォウリー 「無理だよ…だって、レインは死んじゃったんだよ」
ティキ 「誰もその死を確認したモンは居らんじゃろう?」
フォウリー 「でも、レインはルラじゃなきゃ探し出せないんでしょ?
ルラじゃないのに、マーハ様じゃないのに、サンドラが見つけられるわけないよ」
セイクレッド 「……」
ティキ、フォウリーとセイクレッド、それぞれの表情。

○同街・レストラン
机一杯に並べてある食事を、片っ端から口付けていくクルエ。
怒りながら食べている。
クルエ 「何よ、何よ、何よ〜!
あたしの何が悪いって言うのよ、大体こんな時に楽しく踊れるわけないじゃない!!
何のために踊ってるって、そんなの…」

フラッシュバック
笑顔のシルクレスト。

小さく呟くクルエ。
クルエ 「そんなの…知るわけないじゃない…」
?(シルクレスト) 「ヤケ食いすると、また太るぞ」
クルエ 「!」
聞き覚えのある声に、クルエが振り返るとそこには息を切らしたシルクレストが居る。
クルエ 「な、な、なんであんたがココに居るのよ!」
店を劈く悲鳴にも似た声に、シルクレストは思わず耳を押さえる。
クルエは耳まで赤面。
シルクレスト 「やっぱりな。ガイドに聞いたんだ。この店のランチが有名だって…」
クルエ 「う…」
シルクレスト 「憂さばらして食うのもいいけど、最近太ってきたんじゃないか?」
クルエ 「!」
バチ〜ン!…とクルエは平手でシルクレストの頬を叩く。
クルエ 「最低、さいって〜ぃ!
ほんっと、デリカシーないんだから!!」
シルクレスト 「いって〜ぇ」
クルエ 「あたし決めたの。ここで踊り子になる。この街で働く。
もう嫌よ、あっちこっち旅するの。一人で勝手にするんだから、帰ったら!
サンドラのところに!!」
シルクレスト 「…ったく」
シルクレストは赤く腫れた頬を擦る。
シルクレスト 「あのなあ、俺はお前がジプシーになって俺と一緒に旅するって聞いた時。正直嬉しかったんだ」
クルエ 「え?」
その一言にクルエの怒りの表情が緩む。
シルクレスト 「『俺』とじゃねえな、『俺達』とだな…」
クルエ 「!」
一瞬緩んだ表情が再び硬くなるクルエ。
クルエ 「そ、そうよね!
ばっかじゃない、あんたと旅するためにジプシーになったわけない!!」
シルクレスト 「そりゃあ、そうだろうけど…なんか、もうちょっとマシな言い方出来ないのかよ?」
クルエ 「あんただって、いっつも『サンドラ』、『サンドラ』って。まともにあたしの踊り見たことないじゃない!
あたしとあんたはただの幼馴染だった。けど、今はもう関係もないでしょ!」

○ダマスクスの街・舞台周辺
黙々と片付けるティキとセイクレッド。
フォウリーは舞台の端に腰掛けている。
フォウリー 「探し出せるわけないよ」
寂しそうに俯くフォウリー。
フォウリー 「あたしだって自分の仲間を探せない。妖精は絶滅しちゃったって噂だったけど、広いこの世界のきっとどこか居るって信じてた。
でもずっと探しても見つからない…」
ティキ 「妖精でなくてはいかんかのう…『仲間』は?」
フォウリー 「え?」
フォウリーが顔を上げると、そこには優しく自分を見つめるティキとセイクレッドが居る。
ティキ 「わしらはもうずっと、『仲間』じゃないか…フォウリー?」

○同街・レストラン
シルクレスト 「『仲間』だからな」
クルエ 「は…?」
シルクレストの一言にクルエは、呆然となる。
シルクレスト 「何度も言わせるなよ、帰って来いって。お前が居ないと張り合いないんだよ。
…なんかさ、つまんねえんだよなぁ〜」
クルエ 「……」
クルエの目が潤み、顔が再び赤くなる。
クルエ 「おバカ…」
そんなクルエに手を差し出すシルクレスト。
シルクレスト 「こんな所に一人で居ないでさ。行くぞ、クルエ!」
恥ずかしそうに顔を逸らしながら、クルエはその手を握る。

○ダマスクスの街・舞台周辺
ティキはフォウリーに近づき、目線を彼女に合わせる。
フォウリー 「ほんと?」
ティキ 「ああそうじゃ、フォウリー。おぬしは一人じゃないよ」
フォウリーの瞳にみるみる涙が浮かぶ。
フォウリー 「…えっく…ふえええん…」
泣き出すフォウリー。
そんな彼女の頭を人差し指で、柔らかく撫でるティキ。

インサート・ダマスクスの通り
クルエの手を引くシルクレスト。
シルクレストはやや照れている。
泣いているのか目の辺りを擦るクルエ。

ティキ 「わしの居場所はここにある。この穏やかな時間が永遠に続くものと思っていた。
彼女が訪れるまでは…」

○ジプシーテント内
テントの入り口の布が揺れ、サンドラが振り返る。
サンドラ 「……」
訝しげに見つめるそこには、グリークが立つ。
グリーク 「初めまして」
サンドラ 「あなたは?」
グリーク 「グリーンウッドの総長『グリーク』と言えば、ご存知かい?」

○【アイキャッチ】