第3話 未来への航海
シーンB
○カナウジの街・港の倉庫
早朝。
ズラリと並べられる投石器。
そして、並べられたガラス弾。ガラスの中に火薬の袋が詰められている。
弾が朝日を照り返す光景を眺めるシーザー。
彼の元へ、布に包まれた一振りの剣を持って現れるジェナード。
シーザー 「よく間に合わせたな」
ジェナード 「お前の無理難題にはもう慣れた。一体何年付き合ってると思う?」
シーザー 「悪いな」
ジェナード 「これまでの弾は強酸で敵に届く前に溶け尽きた。ガラスで弾を作るとはな。
しかし、このうちのどれだけが空中で割れずにアシッドスコールにダメージを与えられるかだ」
シーザー 「やってみるしかないだろう。例の獲物はそれか?」
ジェナード 「ああ」
布ごと、シーザーへ剣を手渡すジェナード。
シーザーは鞘から剣を抜くと、そこにはガラスの剣。
シーザー 「ヤツに通用するかな?」
ジェナード 「接近戦は危険だ。あの雨を浴びれば、最後なんだぞ?」
シーザー 「ヤツが雨を降らす前に決着をつけるさ」
ジェナード 「何を焦ってる、お前らしくもない」
シーザーは剣を鞘に納め、ジェナードを見る。
シーザー 「俺が焦ってるだと?」
ジェナード 「本当は、グリークの元へ行きたいんじゃないのか?」
シーザー 「バカ言え」
ジェナード 「あんなデカイ話を持ちかけられて、黙ってるお前じゃないだろう?」
シーザー 「お前は俺に『ならず者』へ成り下がれと言うつもりか?」
ジェナード 「……」
シーザーは剣をベルトに装備する。
シーザー 「俺にはあいつらがいる。あいつらとそして海を捨てる事なんざ、出来ねえ」
ジェナード 「そうだな。お前ならそういうと思っていた」
シーザー 「抜けるなら、今しかないぞ」
ジェナードはシーザーの肩を叩き、並べられた投石器を見る。
ジェナード 「今更何を言う。最後まで付き合うさ」

○カナウジの街・港
港からやや離れた倉庫から、戦いの準備を進める海賊達を見守るグリークとサンドラ。
サンドラ 「勝てるのかしら?」
グリーク 「『アシッドスコール』か。御大は拝んじゃいないが、話に聞いた限りじゃ恐らく上級魔将だろう」
サンドラ 「上級魔将?」
グリーク 「知恵があり、人語を解するヤツも居る。群れを成さずに単独で、集落を襲う。本能の赴くまま命を奪う。そして、悪夢を齎す」
サンドラ 「…ただの人間が…太刀打ちできるものなの?」
グリーク 「……」
薄暗い海。
異常な静けさの中、波の音だけが港に響く。
シーザー 「……」
ジェナード 「……」
シーザーとジェナードは海を見つめる。
その表情。
倉庫の上に立つ、見張り役海賊が大声を上げる。
ガヤ(海賊) 「来た!」
全員 「!」
海面に起こる大渦。
ジェナード 「『アシッドスコール』だ!!」
シーザー 「総員戦闘配備、手筈どおりだ、ぬかるなよ!」
シーザーの掛け声に、海賊達は各々の投石器に弾を入れ、松明を掲げる。
一方、倉庫の中。
グリークはサンドラに声をかける。
グリーク 「お前さんは何があってもここを動くんじゃない。分かったね」
サンドラ 「グリークは?」
グリーク 「そろそろ、こっちの準備も出来てる頃だろうからね。様子を見てくる」
サンドラ 「様子って…?」
尋ねる間も無く、グリークは港とは別方向の街中へと駆けて行く。
サンドラ 「グリーク!」
空低く街に限局した黒い雲が広がる。
同時に港の方から聞こえる、激しい波の音。
巨大な暗紫色のアメフラシに似た魔将が、海から現れる。
サンドラ 「あれが…『アシッドスコール』!」

港。
指揮を取るシーザーと、指示を出すジェナード。
ジェナード 「撃て〜〜〜〜!」
次々と火花を散らし、ガラスの砲弾が撃たれる。
たたみ掛ける、爆発音。
紫の血を流したアシッドスコールが苦しむように体をよじった後。
背中の穴から、潮を吹く。
ガヤ(海賊) 「うわああああ〜〜〜〜!」
飛沫に曝された海賊の数名が悲鳴を上げる。
その様子に、シーザーは顔を歪める。
シーザー 「チッ、あれも強酸か!」
ジェナード 「まずい、シーザー!」
頭上を見上げる、ジェナード。
黒い雲が広がる。
シーザー 「クソッ、タイミングが早すぎる。ギリギリまで、撃って撃って撃ちまくれぇ〜〜〜〜!」
ガラスの砲弾が撃たれる。

屋内からその戦いの様子を見守るサンドラ。
サンドラ 「ダメだわ、さっきの攻撃で使い物にならない台の分だけ…」

港。
シーザー 「威力が弱い!」
ジェナード 「ダメだ、間に合わん!」
と、その時。
後方から射撃。
シーザー 「何!」
アシッドスコールの体に突き刺さる、ガラスの槍。
シーザーとジェナードが槍の放たれた方向を振り返ると。
灯台のテラス。
弓式カタパルトを巻き上げるグリーンウッドのメンバーらしき数人の男と、横に立つグリーク。
グリーク 「ぼさっとすんじゃないよ、次が来る!」
アシッドスコールは体をうねらせる。
腹を見せ、そこには魔晶石。
グリーク 「魔晶石だ、そいつを狙いな!」
ジェナード 「いや、ダメだ。雨が…!!」

屋内からその戦いの様子を見守るサンドラ。
サンドラ 「あの魔将、逃げる気だわ!」

地面にポツリと落ちる雫。
ジェナード 「総員退避!
一旦退くぞ、シーザー!!」
シーザー 「逃がすか、絶対に…」
ジェナード 「シーザー、馬鹿な真似はよせ!」
シーザー 「ジェナード、後は任せる!」
シーザーはアシッドスコールに向かって走り出す。
ジェナード 「シーザぁぁぁぁ〜〜〜〜ッッッッ!!」
ポツリポツリと降り始める雨。
そして、一面豪雨で視界が遮られる。

灯台の上。
屋内へ避難したグリークは、海へと目を凝らす。
突如、海が白く輝く。
グリーク 「な!」
ぴたりと止む豪雨。

屋内からその戦いの様子を見守るサンドラ。
サンドラ 「一体何が起こったの!」

雲が晴れ、澄み渡る空と海。
倉庫へと避難したジェナードは、港を見ると。
そこにはアシッドスコールの姿も、シーザーの姿もない。

ガヤ(海賊) 「船長…」
ガヤ(海賊) 「船長…そんなぁ…」
ジェナード 「……」
絶望的に呟く海賊達。
ジェナードは呆然として、港に出る。
ジェナード 「シーザー…」
すると、コポコポ…と海面に泡が立ち。
シーザーは波際に駆け寄る。
つられて、同様に駆け寄る海賊達。
シーザー 「ぷっはぁ〜!」
波間から顔を出す、シーザー。
ジェナード 「シーザー!」
シーザー 魔晶石を直接叩いた」
そう言って、シーザーは左手を掲げる。
開いた掌からパラパラと流れ落ちる
魔晶石の欠片。
シーザー 「落とし前、つけてやったぞ!」
ガヤ(海賊) 「うわぁぁぁぁ〜〜〜〜!」
沸き上がる歓声と拍手。
ジェナードが手を伸ばし、シーザーはその手を握り海から上がる。
歓声の中。
ジェナード 「全く、なんて無茶をするんだ」
シーザー 「ガラス糸を織り込んだこのマント…」
ボロボロになっているマント。
シーザーは海を見つめる。
シーザー 「とっさに海へ飛び込んだ。酸は薄まるからな。
…海に護られた」
ジェナード 「あれも役に立ったか?」
シーザーは左手にある折れた剣の柄を見せる。
シーザー 「ああ。だが、たった一度突いたら折れたぞ」
ジェナード 「幸運だったな…」
シーザー 「だが、それが何度も続かんだろう」
シーザー、その表情。
シーザー 「いずれレインが蘇る。どちらにしても、戦況はさらに厳しくなる。海はさらに荒れるだろう」
シーザーは折れた柄を、海に投げる。
シーザー 「ここいらが潮時だな」
ジェナード 「シーザー…」
シーザー、その表情。
振り返り、港に集う海賊達に向かう。
シーザー 「聞け、お前達!」
シーザーの一際大きな声に、それまで歓声に包まれた海賊達がシンと静まる。
シーザー 「これで終わりじゃねえ。
これから先にも同じ様な魔将が、海を荒らすだろう。
俺達はもう、船を出す事も出来ねえ。
海の賊を名乗るのは今日限りとする。解散だ。お前たちも好きにするといい!」
ガヤ(海賊) 「船長…」
ガヤ(海賊) 「船長…そんなぁ…」
ざわめき困惑する海賊達。
グリーク 「結局ただのならず者かい、だらしないねぇ?」
シーザーを取り囲む輪に加わって来たのは、グリーク。
やや遅れて、グリークの傍にサンドラが立つ。
シーザー 「…あんたにゃ関係ないだろ」
グリークは右手天に挙げ、空を指差す。
グリーク 「海に漕ぎ出るつもりはないかい?」
一瞬の間。
シーザー 「何を馬鹿なことを言ってやがる」
グリーク 「雲の海を雲海と言う。空を漕ぐ船は飛空艇と言う。
これは未来への航海だ。そう、レインでもルラでもない。ただの人間が自分自身の明日を勝ち取る為の!」
サンドラ 「レインでもルラでもない『ただの人間が』…」
ジェナード 「俺達の明日を勝ち取る…」
ガヤ(海賊) 「……」
グリーク 「あたしの誤りは『レインへの依存』だった。違うかい?」
シーザー 「…クックック…」
一頻り声を殺して笑うシーザー。
シーザー 「クハハハハハハハハッッッッ…!
この賭け、あんたの勝ちだ。バアさん…おっと失敬…」
言い掛けて、グリークの前に膝を突き。
彼女の右手を取って甲に口付ける。
シーザー 「マダム・グリーク」
グリーク 「い!」
サンドラ 「プッ、フフフフ…」
思わず笑みがこぼれるサンドラ。
グリークは一時固まった後。
グリーク 「この、万年発情男が〜〜〜〜!」
怒声が港に響く。