第4話 天使と道化師
シーンA
○パウル・サンクチュアリ
テロップ(以下T) 「ライムランド歴1971年」
魔王軍の襲来により炎上する、天界パウルの聖都・サンクチュアリ。
魔将の大群と逃げ惑う天人。
方々から聞こえる、魔将の雄叫びと天人の悲鳴。

○同・サンクチュアリ(六星壁画の広間)
残された大神(タイシン)・オウシェンと数名の天人。
その中に幼い少女のフレディンが居る。
オウシェン 「皆さん、逃げて下さい。恐らくデビルダスの目的は、イリスでしょう」
天人A 「しかし、イリス様は…!」
オウシェン 「ええ、ここにはいない。そうと知ってもレインである私を生かしはしないでしょうから」
天人B 「たとえ御身が滅びようとも、転生を…お待ちしています」
オウシェン 「お行きなさい!」
フレディン 「オウシェン様〜!」
仲間の天人に手を引かれて、その場を去るフレディン。

暗転

○同・サンクチュアリ
魔将が去った後のサンクチュアリ。
瓦礫の中、横たわる傷を負ったフレディン。
黒い羽が彼女の頬に落ちる。
フレディン 「ん…」
顔を上げ、体を起こすフレディン。
眼前に立つのは、赤子を抱いた黒い翼の天人・ルシファー。
フレディン 「ルシフェル…その翼は一体…」
ルシファー 「魔に堕ちたと同時に翼も黒く染まったようだ」
フレディン 「では、あなたがデビルダスを天界に導いたと?」
フレディンは彼の抱く赤子に気付く。
ルシファー 「転生した大神だ」
フレディン 「オウシェン様…何と言う事を!」
ルシファー 「レインは死してもまた生まれる、この者のように。
連れて行くがいい、残った天人はもはやお前だけだ。
イリスがこの天界にないと分かった以上、我が主はパウルに何も望まぬ」
フレディン 「デビルダスは一体何を企てているのです」
ルシファー 「我が主が? あの下等な魔王であるわけがないだろう」
フレディン 「まさか…魔界神・ヴァティス!」
ルシファー 「ヴァティスもオウシェンも、イリスを望んだ。永遠(とわ)に手に入らぬ者を。
フレディン、お前は何を望む?」
冷笑を最後に、姿を消すルシファー。
放心状態で腕に赤子を抱く、フレディン。
フレディン 「私は…」
腕の中でスヤスヤと眠る、金髪の赤子。
フレディンは固く抱きしめる。
フレディン
(モノローグ・
以下M)
「オウシェン様と共に滅びたかった…」





○グリーンウッド(以下GW)・本拠地(グリークの部屋)
製造フロントをブースの窓から、グリークが只一人見下ろしている。
報告書を読むグリーク。
ティキ
(ナレーション・
以下N)
レインの復活が知らされた。
アルティマ大陸北端の森の中にある『虹の神殿』で氷結されていたレインの封印を解いたのは、オレンジストーンのレイン・ミッフィーと復活の血族・マルスだった。
後に、レインボーストーンの原石『オウル』を求め、神殿の巫女・シュスフィーナを加え旅立ったそうだ。
マルスは、同様に封じられている先代ブルーストーンのレイン・アクスタインを探し別行動をとっている。
アクスタイン…レジェンドで『勇者』と称えられる彼は、先の戦いではインディゴストーンのレインとして一行に加わっていた。
ヴァティスの正体を知る唯一の人物だ…」
報告書を読んだ後、微笑むグリーク。
グリーク 「ウチのバカ息子は、相変わらずのようだねぇ…。
ゴホッゴホッ…」
咳き込むグリーク。
そこへ、ティキとシーザーが入ってくる。
ティキ 「グリーク、例の物が出来たゾイ」
シーザー 「試しに俺が着けてるんだが、どうだ?」
シーザーは自分の左耳にあるインカムを指差す。
グリーク 「ああ、『インカム』か…」
何事もなかったように振舞うグリーク。
ティキ 「うむ、システムH感知・増幅器じゃ。マイクとイヤホンの通信機能も備えておってなぁ…ここを…」
シーザー 「なあ、じいさん。そもそも『システムH』って何なんだ?」
ティキ 「何じゃあ、話の途中に…」
グリーク 「ライムランドははるか昔、ラシューヌ神が夢の力を用いて創造された世界だとされている。
世界を構成する虹の六大元素も、また人の心を映し出す。
夢は、人に幸せを齎し、悪夢は人に不幸を齎す。
自然災害、天変地異、疫病…世界に何かしらの影響が現れる…」
シーザー 「強き夢、正しき夢っていうのが、よくわからねえ…。いまいち実感がわかねえんだよなぁ〜」
ティキ 「ならば、お主は何を望む?」
シーザー 「望み?」
ティキ 「そうじゃ」
シーザー 「そうだな。とりあえず俺は海に出れれば、それでいい」
ティキ 「そう強く願う心…と考えればよいじゃろう。人への慈しみ、優しさ。己への厳しさ、努め。
この世の全てに対する想いが『システムH』の発動源となる」
グリーク 「『システムH』とはこのライムランドの原理に基づいた究極のシステムなんだ」
ティキ 「それ故に、コンピニア大戦時代。エルフが傲慢に溺れた時代に、このシステムを発動する事は不可能だった」
シーザーはインカムを外し、手にあるそれを見つめる。
シーザー 「今ならば、可能なのか?」
ティキ 「分からん。全ては紙の上での話じゃからな」
グリーク 「……」
グリークは、自信なさそうに顔を伏せたティキの横顔を見つめる。
グリーク 「あんたなら出来るさ。コンピニアの夢を叶えようとしている、あんたならね…
ゴホッゴホッ…」
再び咳き込む、グリーク。先程よりも長い。
シーザー 「お、おい。大丈夫か?」
ティキ 「グリーク!」
グリークの掌に吐かれる鮮血。
気付いたティキとシーザー、その表情。
グリーク 「ッ…」
シーザー 「これは…いつからだ、マダム!」
グリーク 「あんたを迎えに行く一月位前からだ。大丈夫さ、うつるもんじゃないから…」
グリークは椅子にかけ、机にある布で血を拭う。
シーザー 「そういう問題じゃねえ。じゃあ、もう随分経ってる。クソッ!」
ティキ 「どういう事じゃ?」
シーザー 「サイソルクレブット病だ…。何で黙ってやがった!」
ティキ 「サイソルクレブット病?」
シーザー 「厄介な肺病だ。喀血が始まってからは、もって…3ヶ月…」
ティキ 「何じゃと!」
グリーク 「なぁに、意外とピンピンしてるだろう。簡単にくたばらないさ。
まあ、そん時は後を頼むよ。お前さん達にはばれちまったからね」
ティキ 「何と…いうことじゃ…」
グリーク 「他言は無用だよ。指揮に関わる」
シーザー 「死ぬんだぞ…」
グリーク 「シーザー…。
人間、誰しもいつかその時が来る。たまたまそれが早くなりそうなだけさ」
シーザー 「……」
グリーク 「それにしてもお前さん、やけに詳しいじゃないか?」
シーザー 「俺のお袋は、それで死んだ…からな…」

○同・本拠地(廊下)
グリークの部屋から出てくる、ティキとシーザー。
面持ちは暗い。
シーザー 「本当ならば今すぐにでも、薬師か神官に診せるべきだ。まあ、そうした所で治るもんじゃねえが」
ティキ 「不治の病か…」
シーザー 「最期は大量の血を吐いて死ぬ。それこそ体中の血を全て吐き出すようにな。あんな死に様は…もうたくさんだ」
ティキ 「……」
今までにない思いつめた表情のシーザー。
ティキ 「グリークが何故お主を、ここへ連れてきたか分かるか?」
シーザー 「それは…俺がレインと認識があるからだろう」
ティキ 「彼女が自分の寿命を知っていたなら、答は一つだ。望みを継ぐ者にお主を選んだ」
シーザー 「何?」
ティキ 「グリークはまずわしを。システムの設計を知るわしを迎えに来た。それは理にかなう。
しかし病を知って、その体を押してお主に逢いに行った。その意味を考えるがいい」
シーザー 「……」
ちょうどその時、廊下の奥を歩くサンドラの姿が見える。
シーザー 「おお〜、サンドラ〜!」
いつもと変わらない表情で、サンドラを口説きに行くシーザー。
小さく溜息をつくティキ。
ティキ 「……」
ティキ(M) 「わしらは償わねばならん。
大戦で多くの命を奪い、レインを裏切り、文明の崩壊を招いた。しかし、彼女は何の罪もないというのに苦しまねばならんのだ。
のう…ダヴァン…?」