第4話 天使と道化師
シーンD
○メンフィスの街
街の広場、群衆が一列に並ぶ。
並んだ先頭で、受付をしているのはセイクレッド、フォウリーとグリーンウッドのメンバーと思われる人間。
フォウリー 「うんしょっと。じゃあコレつけてみてね〜」
妖精のフォウリーは小さな体でインカムを持ち上げ、列の先頭の男の掌に落とす。
先頭の男 「うわぁ〜、本物のフェアリーだ…」
セイクレッド 「早く、それ。耳に付けてくれ。後ろがつかえてる」
先頭の男が耳にインカムをつける。
時計の様な小さなメーターを見るセイクレッドは、数値を紙に記入する。
フォウリー 「は〜い。お疲れさま〜。ごめんね、数字足りないみたい」
先頭の男 「残念だな〜」
渋々と去る男。
次々に列の人間に同様な検査をしている。

その様子を、建物の壁に寄りかかりながら見守るシーザーとサンドラ。
シーザー 「はっはっは。フォウリーを連れて来たのは正解だったな。物見珍しさに人が集まる」
サンドラ 「あなたねぇ。こんな派手な事をして大丈夫なの?
魔王達の目に留まらなければいいけど…」
シーザー 「なあに、『義勇軍』の名目で志願を募っているだけさ。よくある事だ。まさか、あんなもんを隠してるとは敵さんも気付かねえだろう」
サンドラ 「それはそうだけど…」
シーザー 「しかし、そうそう基準を満たすヤツは居ねえな」
サンドラ 「ホープリズム30ポイント以上…。数字だけ聞くとたいした事なさそうなのにね」
シーザー 「システムH…か…」
サンドラ 「?」

フラッシュバック
GW・本拠地でのシーザーとティキの会話。
ティキ 「彼女が自分の寿命を知っていたなら、答は一つだ。望みを継ぐ者にお主を選んだ」

シーザー 「『望み』…」
サンドラ 「え?」
呟くシーザーに怪訝な表情を見せるサンドラ。
シーザー 「なあ、サンドラ。お前の望みはなんだ?」
サンドラ 「あたしの望み?」
シーザー 「ああ」
サンドラ 「そうね…。
恋の舞の本当の意味はね。恋の成就ではないの。あなた、いつか『舞いに恋しているんじゃないか』って言ったわね。そうかもしれない。
あの舞は、観る者全てへの愛を形にしたものなのだと聞いた事があるわ」
サンドラは群衆へと視線を移す。
サンドラ 「人は好きよ。でも誰か一人に思い入れは出来ない。
その痛みを二度と味わいたくは無いから。
昔ね、ライムの兵士だった彼を好きになった事がある。あの頃は若かったわ。でも、郷土に残った彼とは二度と逢う事はなかった。国と一緒に亡くなってしまったのよね…。
ティキをグリークに預けたのは、彼女の強さに惹かれたから。彼女が好きなの。彼女と彼女を取り巻く人達が好きなのよ。皆の夢はあたしの望みでもあるわ」
シーザー 「そうか…」
サンドラ 「あたしの昔話はこれで終わりよ。あなたも本音をばらしたらどう?」
シーザー 「フフフ…お前はグリークと似てるな。そこらの安い女とは違う」
サンドラ 「馬鹿にしないで欲しいわね」
シーザー 「じゃあ、本音を言おうか。俺は女が嫌いなんだ」
サンドラ 「?」
シーザーは大きく息を吐き、瞳を閉じる。
シーザー 「俺のお袋は、夜の商売で稼いでた。毎晩誰も居ない家で、帰って来るわけのないあの女を待ってた。
その時、俺は何も知らねえで。
お袋は俺を騙してたんだ、商売の事も、自分の病の事も…」
サンドラ 「……」

フラッシュバック
貧しい身なりの少年・シーザーの目前。
血を吐いて床に倒れている女性。

シーザー 「結局、俺は只一人残されて、今じゃこのザマだ。だから、女は信用ならねぇ」
サンドラ 「……」
シーザー 「グリークも…なぜ…」
シーザーは俯き、握る拳は震える。
サンドラ 「…一つ忠告しておくわ」
シーザー 「?」
我に返ったシーザー。
サンドラと目が合う。
2人の表情。
サンドラ 「女は母性というものを持つけれど、女の全てが母ではない事を忘れないでおく事ね。
マダムがあなたを選んだ事、それなりの意味があるはずよ」
シーザー 「!」
と、その時。
列の方で喧騒。
ガヤ(列の群衆) 「おい、待てよ。並んでるんだぞ!」
ガヤ(列の群衆) 「こいつら…どっかで見た事ねえか!」
ガヤ(列の群衆) 「大分昔にカジノで騒動起こした偽レインじゃ…」
喧騒に気付くシーザーとサンドラ。
サンドラ 「あら、何かうるさいわね」
シーザー 「……」
サンドラ 「お話はここまでだわ。出番じゃないの、海賊さん?」
シーザー 「やれやれ、随分と都合のいい『海賊さん』だ」
面白そうに笑うシーザーは喧騒の起きている、人混みへと向かう。

列の喧騒。
人の輪に囲まれているのは、ダジリン、セイロンとアッサム。
ダジリン 「おうよ、『レイン義勇軍』の名を聞いちゃあ、黙っちゃあ居られねえ〜。
これこそ俺達…彼らの危機を救い…」
セイロン 「彼らに知恵を授け…」
アッサム 「凶悪な魔将を撃退する!」
3人 「三人合わせて我ら偽レイントリオ、望みはヒロイック・サーガの栄光!」
列の群衆 「(声を合わせて)いいかげんにしろ!」
受付のセイクレッドは無表情だが、フォウリーは呆れて顔が引きつっている。
フォウリー 「ありゃあ〜、自分で『偽レイン』って言ってるし」
セイロン 「あら、いけない。フレディンの台詞を忘れてたわ」
アッサム 「っていうか、居てないとちゃいますか。彼女?」
ダジリン 「うおおおお〜、フレディンちゃん! 一体どこへ〜!!」
ガヤ(列の群衆) 「よくまあ、平気な面して戻って来れたもんだな」
ガヤ(列の群衆) 「この街でしでかした事、忘れたとは言わせねえぞ!」
ガヤ(列の群衆) 「いい機会だ、やっつけちまおうぜ!」
じりじりと取り囲まれる3人。
状況に気付き、3人は青くなる。
セイロン 「ちょっちょ、待ちなさいよ〜。もう時効でしょ〜!」
アッサム 「あかんあかん。なあ、ここは穏便に〜」
その険悪な群衆を背後で見守るフォウリーとセイクレッド。
フォウリー 「なんか、有名人なんだね」
セイクレッド 「それとは違うと思う」
?(フレディン) 「ダジリンさ〜〜〜〜ん!」



と、そこへ間の抜けたフレディンの声が頭上から響く。
3人、群衆、フォウリーとセイクレッド、そしてシーザーとサンドラがそれぞれに天を見上げると。
そこには翼を広げたフレディンの姿。
フレディン 「また迷ってしまいました。探しましたよ」
舞い降りるフレディン。
群衆の輪は彼女を中心に、避ける様に広がる。
フォウリー 「天人だ〜!」
ガヤ(列の群衆) 「て、天人だって〜〜〜〜!」
ガヤ(列の群衆) 「んなバカな!」
驚愕と動揺で混乱する群衆。
フレディンはさっぱりその状況を理解出来ていない。
フレディン 「あの…、ダジリンさん?」
セイロン(小声) 「フレディン! あれだけ羽を出すのは目立つって言ったでしょおが!!」
アッサム(小声) 「いんや、オイシイ登場の仕方やないか?」
フレディン 「ところで私は何と言えば良いのでしょうか?」
セイロン(小声) 「ああ〜、そんな場合じゃないでしょうが!」
アッサム(小声) 「ずらかった方がええんとちゃう?」
ダジリン(小声) 「いや、ここでフレディンちゃんの意気込みを叫ぶんだ!」
フレディン 「はい、わかりました」
フレディンは群衆へと振り返り、お辞儀をした後。
フレディン 「私、天人のフレディンと申します。望みは『獅子の翼』を持ち、レインの皆様と共に戦う事です!」
一瞬にして静まる、群衆。
フレディン 「……」
未だに静まる群衆。
フレディンはキョロキョロとあたりを見回す。
フレディン 「あの…、何か間違えたのでしょうか?」
フレディンはダジリンの顔を伺うと、彼はフルフルと首を横に振り。
ダジリン 「かわぁいい! もう、サイコ〜、フレディンちゃん!!」
泣いて喜んでいる。
そして、どこからか大きく手を叩く音。
?(シーザー) 「立派な心がけじゃないか!」
所々からまばらにつられる拍手。
やがて周囲は拍手と歓声に包まれる。
フレディン 「あ…あの?」
やはり状況の理解できないフレディンは、顔を赤らめ戸惑う。
シーザー 「『獅子の翼』って言ったな?」
群衆から現れ、フレディンとダジリン達の前に立つのはシーザー。
フレディン 「はい。私達の用いる古代神聖語では『Leohault』と呼ぶのです。強き勇士を意味します」
シーザー 「『レオハルト』か…いい響きだ」
ニヤリと笑うシーザー。
そして、フレディンと偽レインを示す。
シーザー 「ここに、望み同じ者がこれだけ居る。例え、軍への参加資格に満たない者であったとしてもだ。
世の中捨てたもんじゃねえ、今は人同士が争ってる時代じゃないだろう」
そして群衆に向かい叫ぶ。
シーザー 「俺はここに居る者と、そして魔王に命奪われた全ての者達に誓う。その望みは、俺の望みでもある。
だから、俺は必ず叶えてやる! この世界の平和を!!」
一瞬静まった後に、先程よりもさらに大きく沸き起こる歓声。
サンドラ 「……」
サンドラは、その様子を見て優しく微笑む。