第5話 空翔る少年
シーンB
○デストニア・ヤスリブ
夕方。
ベドゥインの家から出てくるイヴン。

イヴンの回想・ヤスリブ郊外
ビジョンの映像に映るデデム。
そのデデムと通信するのはイヴン。
デデム 「明朝、ヤスリブの反対分子を粛清する」
イヴン 「な、なんでそんな急に!」
デデム 「情報が入ったんじゃ。その地に何度か騎獣が行き来しているとか…」
イヴン(M) 「あの、墓守だ…とんだドジじゃん」
デデム 「『バルバロス』の贄にされるのとどちらがよいかの?」
イヴン 「そんな…贄は魔力を持つ人間かエルフって話じゃなかったの!」
デデム 「同じ原理で魔族も可能だ。ヴァティス様に仇なす魔族はな…。粛清と生贄、選択はお前に任せよう」

イヴン(M) 「『バルバロス』…詳しくは知らないけれど…あのキチガイ魔王。とんでもない物造ろうとしてるわね…。
生贄にされれば確実に死ぬ…」
思い悩むイヴン。
そこへ、能天気な声が響く。
シーザー 「お。いい女がいるな!」
ジュウジュ 「テメエはまたそれかよ、エロ親父!」
イヴン 「!」
ベドゥインを尋ねてきたシーザーとジュウジュ。
しばし対峙する、3人。
イヴン 「なんで、デストニアに人間が…そうかお前ら…」
シーザー 「あんたは…ベドゥインの娘か?」
イヴン 「!!」
イヴンはシーザーとジュウジュを鬼のような形相で睨み、立ち去る。
ジュウジュ 「あの女…?」
ベドゥイン 「イヴン!」
引き止めるように扉を開けて、出てくるベドゥイン。
家のすぐ前で、自分を訪ねてきたらしいシーザーとジュウジュに気付く。
ベドゥイン 「あ…君達は?」

ベドゥインの家の中。
椅子にかける、シーザーとジュウジュの前に熱い飲み物が入ったカップが置かれる。
シーザー 「グリークの使いで来た。俺はシーザー。こっちの連れがジュウジュだ」
ジュウジュ 「おまけみたいに言うな!」
ベドゥインはシーザーの対面の席にかける。
ベドゥイン 「そうか、すると君が『レオハルト』の船長か…」
シーザー 「……」
ジュウジュ 「何だよそれ、オレは聞いてねえぞ!」
不満そうにシーザーを見るジュウジュ。
シーザー 「俺もだ。だが、マダムが望むならそういう事になる」
ジュウジュ 「そうやってオレ達のグリーンウッド、いや『レオハルト』を乗っ取ろうって考えてるんだろうが!」
シーザー 「ジュウジュ。お前は勘違いをしてるようだが、『人の上に立つ事』と『支配する事』は大きく違う」
ジュウジュ 「は?」
シーザー 「俺はお前達を支配するつもりはない」
ジュウジュ 「何だって?」
シーザー 「簡単に言えば、今の魔族のようにはせんという事だ」
ジュウジュ 「どういう意味だよ?」
ベドゥイン 「魔族を支配するのは魔界の神・ヴァティス。悪夢による支配だ。古の時代ラシューヌ神により、授かった魔界を監視する使命を持つ魔族。
だが、我々魔族は滅亡を望んではいない。過ちを犯している。レインにルラがあるように、誰かが誤りを正し導かねばならん。
しかし、わしは非力だ。グリークの力が必要なのだ」
シーザー 「家族はどうする? ルシアンにダルシアンとガルシアンが居たように、あんたにも娘が居るが…」
ベドゥイン 「…イヴンか。ほとんど家に帰らない放蕩娘だが。反対されたよ。
今夜にもこの町を出て行けと忠告された」
シーザー 「それがどういう意味か分かるか?」
ジュウジュ 「……」
シーザー 「グリーンウッドがある情報を入手した。ベドゥイン…あんたの娘は…六魔王の一人だ」
ベドゥイン 「!」
ベドゥイン、その表情。

○ヤスリブ郊外の森
森の中を歩くシーザーとジュウジュ。
先をシーザーが行き、後から苛立つジュウジュが続く。
ジュウジュ 「おい、どうすんだよ…!」
シーザー 「あれは親子の問題だ」
ジュウジュ 「そうじゃねえ! 今夜、親父さんに町を出て行けってあの女が言ったって事はだな…」
シーザー 「この町が危ない」
ジュウジュ 「!」
シーザー 「流石に勘は鋭いな、ジュウジュ」
ジュウジュ 「簡単に言うな!」
シーザー 「イーグルにはまだ武器は装備されていない。今の俺達だけではどうする事も出来ん」
ジュウジュ 「見殺しかよ!」
シーザー 「船に戻れば、ティキが用意してくれたもんがある。こんな事なら、持ってくればよかったが。不覚だったな」
先を行くシーザーの足が止まる。
前方にはイーグル1のシルエットと焚き火の明かり。
ジュウジュ 「だ、誰が…」
小剣を素早く抜き、構えるジュウジュをシーザーが牽制する。
シーザー 「敵意は感じん、まあ待て…」
?(スティック) 「おう、来た来た〜!」
焚き火の方からこちらに向かい手を振るのは、スティックである。
ジュウジュ 「犬の…獣人?」
シーザー 「ほら、剣をしまえ。向こうが警戒する」
ジュウジュ 「お、おう」
思わず、言われた様に鞘に収めるジュウジュ。
シーザーは焚き火に向かい歩き出す。
その火の傍には腰を下ろすもう一人の影、ヘパイストス。
ジュウジュ 「おまけに、ドワーフ?」
ヘパイストス 「すまんの、コイツが(とスティックを見る)どうしても持ち主に会いたがってな。無作法を承知で待っておった」
シーザー 「ハッハッハ、獣人にドワーフとは奇妙な組み合わせだな。祖父さんと孫には見えんが…?」
笑いながら焚き火の傍、ヘパイストスの対面に座るシーザー。
その横に、ジュウジュが腰掛ける。
興味津々に、シーザーとジュウジュに寄るスティック。
スティック 「(シーザーに)なあ、これおっさんの騎獣か?」
ジュウジュ 「オ・レ・の・だ!」
スティックとシーザーの間に割り込むのはジュウジュ。
ジュウジュ 「これは騎獣なんかじゃねえ、イーグルって名前の…飛空艇試作機だ!」
スティック 「試作機?」
シーザー 「おいおい、あまりベラベラ喋るな」
ジュウジュ 「!」
しまったというような顔のジュウジュ。
ジュウジュ 「要は飛行機って事だな…ハハハ…」
苦笑いのジュウジュ。
スティック 「これで試作機なら、『飛空艇』ってヤツはもっとすげえのか!」
ジュウジュ 「…えっと〜、それはだなぁ〜」
シーザー 「こっちにも事情ってもんがある。その程度にしてくれ。さて、今度は俺達が質問する番だ。お前達、何が目的だ?」
その問いに、スティックとヘパイストスは互いの顔を見合う。
スティック 「そいや、自己紹介がまだだったな。俺様はスティック。父ちゃんは魔族、母ちゃんは獣人で、異種族結婚でな。周りにゃ除け者にされたりしたわけよ。父ちゃんはレジスタンスに加わってたんで処刑されちまったし、母ちゃんはそれで塞ぎ込んで、病気になって死んじまった。
つい最近まで、レインの為にオウルを護ってカタコンベに隠れ住んでたんだけど。その必要もなくなったから、騎獣の真似事して、ジッちゃんを乗せてる訳よ」
ヘパイストス 「わしはヘパイストス。アルティマ大陸の森の奥で、武器職人をしておったがな。レインが復活したと聞いて、いてもたっても居られなくてのう…武器商人として旅をしておる。この町へは、取引相手のベドゥインに逢いに来たんじゃ。魔族の為に立ち上がろうとしている彼に、敬意を表してこうやってデストニアまで何度かやって来ておる」
スティック 「何を目的にって言われると困るけどよ。単にコイツがすげえなって、思っただけなんだよな。
俺以外に、このデストニアの空を自由に飛ぶコイツがさ…。それで、持ち主に逢いたかったんだ」
スティックとヘパイストスの言葉に、ジュウジュは目を丸くする。
ジュウジュ 「驚いたな、こんな所でレインと関係のあるヤツと逢えるなんて…」
シーザー 「これもまた、グリークの導きかもな…」
ニヤリと笑うシーザーは呟く。
そして、スティックとヘパイストスへと向き合うシーザーとジュウジュ。
シーザー 「『レオハルト』はお前達を歓迎する」

○ヤスリブ郊外の丘
ヤスリブの町が一望できる丘で、イヴンは一人立つ。
昨日着ていた毛皮のコートでなく、魔王の洋装。
イヴン 「父さん…」
デデムの声 「またせたの、イヴン…」
イヴン 「!」
通信によるデデムの声。
イヴンが振り返ると、巨大な羽蟻を模したコンピニアのマシン兵器が空に浮く。
バグズから響くデデムの声。
イヴン 「これは…!」
デデムの声 「偉大なるコンピニア文明のシステムI・『Insect』…通称バグズだ」
イヴン 「バグズだって?」
デデムの声 「まあ見ているがいい。お前達魔族よりも、如何程に優れた兵であるかを!」
イヴン 「!」
デデムの通信音は、ブツリと音を立て途切れる。
バグズ・羽蟻型は一際高く、空を舞うと。
同じように残り4匹のバグズが、どこからともなく沸いて空を飛ぶ。
その光景に恐れを抱くイヴン。
イヴン(M) 「父さん!」
イヴンは町を見る、その表情。