第6話 願望
シーンA
○レオハルト・ブリッジ
上段、司令席にシーザー。横にサンドラが立つ。
中段、操舵席にティキ。横に副操舵手のベドゥイン。
下段、オペレーター席中央にリップ、右にクルエ、左にフレディン。
皆神妙な面持ち。
シーザー 「始めろ」
シーザーの言葉に、リップは艦内放送で伝える。
リップ 「只今より、レオハルト・テストフライトを行います。総員、インカムコネクト」

インサート。
デッキの情景。
イーグルを整備する、ヘパイストス、ダジリン、セイロン、アッサム、他クルー。
そして、ジュウジュ、ペンソとシルクレスト。
インカムを身につけ、艦内放送に聞き入る。

インサート。
ガンサイトルームの情景。
ガンナーポジションに座る、ジェナード、セイクレッド、スティック、ダイス、他クルー。
インカムを身につけ、艦内放送に聞き入る。

レオハルト艦内に重圧がかかる様に、クルーは全員険しい表情となる。
シーザー 「チッ、予想以上だな…」
サンドラ 「じ…状況は?」
クルエ 「うっ…システムH・エネルギー2700、2800、2900…2910…2913…2912…」
リップ 「だめです。これ以上上がりません!」
フレディン 「ああっ!」
苦悶の表情。

○レオハルト・イーグルデッキ
苦悶のクルー。
偽レイントリオは、苦しみ転げまわる。
ペンソ 「ック、何て感覚だよ。まるで、体の力がどんどん奪われてくみたいだ…
シルクレスト 「気持ち悪い…」
ジュウジュ 「イーグルの比にならねえ…こんなの飛ぶどこじゃねえぞ!」

○レオハルト・ガンサイトルーム
苦悶のクルー。
ダイスが倒れ、その体をジェナードが支える。
インカムで通信を入れるジェナード。
ダイス 「じぇ…ジェナードの兄ちゃん…」
ジェナード 「限界だ、シーザー!」

○レオハルト・ブリッジ
ティキは手元最も大きい桿を倒す。
次々にライトの落ちるレオハルト。
起動音フェードアウト(SE)。
重圧から解放され、各々クルーはグッタリとその場に伏す。
シーザー 「何をした、ティキ」
ティキ 「メインを切った」
シーザー 「止めろとは一言も言っていないぞ」
ティキ 「お主はクルーを殺す気か!」
シーザー 「……」
ティキの言葉に我に返るシーザー。
シーザー 「すまん、ティキ」
ベドゥイン 「今のテストで…ピークが2914か…。これはどうだ、ティキ?」
ティキ 「目標値は30000だ…」
サンドラ 「10分の1も満たないか…」
シーザー 「……」
シーザーは大きく溜息をついた後、マイク筒を持つ。
その表情。
シーザー 「…休憩だ…午後にインカムフルチャージで再テストを行う」
ティキ 「……」
クルーに漂う暗い空気。
インカムを外したティキは、手の中にあるそれを見つめる。
ティキ
(ナレーション・
以下N)
「目標数のクルーは揃った。理論値では、レオハルトは飛行可能なはずだった。しかし…」

インサート・本拠地ブース。
窓に寄りかかり、眼下レオハルトを見下ろすグリーク。
その表情。
グリーク 「……」
ティキ(N) 「現実というものは、時に厳しく残酷なものだ」
グリーク 「ゴホッ…ゴホッ…」
立っていられない様で、その場で膝を折るグリーク。
無念そうに、窓を拳で叩く。

○【サブタイトル】




○GW本拠地・イーグルデッキ
デッキに居るのは、ヘパイストスと偽レイントリオ。
大空を優雅に舞うイーグル3機。
それを見上げる、リップとクルエ、フレディン。
ヘパイストス 「ったく。シーザーめ。わしがメカニックだと? 面倒を押付けよって…」
セイロン 「どういう意味よ、面倒って?」
ヘパイストス 「お前達のお目付け役じゃよ」
睨むセイロン。
一方、着陸準備を始めるダジリンはフレディンに手を振る。
ダジリン 「フレディンちゃ〜ん、俺様の勇姿見ててくれ〜〜〜〜!」
フレディン 「はい〜」
にっこりと微笑み返すフレディン。
アッサム 「そろそろ時間やで」
トリオがそれぞれ3機を、ライトで誘導する。
イーグルの轟音(SE)。
デッキに無事着陸する、イーグルチームの3人。
イーグルから降りて来る。
シルクレスト 「っていうか、(ジュウジュとペンソに)お前等タフすぎ。午前中のあのテストの後で、よくそれだけスピード上げれるよな。息苦しくってダメだ」
ペンソ 「だってさ、昼飯食ったじゃん?」
シルクレスト 「あ〜、だめだめ。俺はとても、食欲出ない」
ヘパイストス 「まあ、高度が上がれば気圧が下がるからな。呼吸が苦しくなるのも仕方ない。マスクを常備するか」
シルクレスト 「後、射撃系の武器を搭載するんだろ。ジュウジュやペンソならともかく、操縦して射程を定めるなんて一般市民の俺じゃ無理だ」
ペンソ 「ここに居る時点でもう、一般市民じゃないと思うけど」
ヘパイストス 「それに関しても、考えておる。ゴーグルでターゲットをロックオン可能な、パイロットとイーグルのウェポンシステムをトレースするんじゃ」
シルクレスト 「よくわからねえ」
ペンソ 「何でもいいや…腹減った」
シルクレスト 「っておい。まだ昼飯食ってから2時間もたってねえぞ。もしかして…また吐いたのか?」
ペンソ 「いい加減、慣れたよ。この位の高さにはね。でも、緊張解けたとたんにさ。お腹が鳴った」
ジュウジュ 「……」
ジュウジュは苛立っている様、ただ黙っている。
その彼に近づくリップ。
リップ 「お兄ちゃん?」
ジュウジュ 「……」
リップ 「お兄ちゃん!」
ジュウジュ 「…あ、なんだよリップか?」
リップ 「『なんだよ』じゃないでしょ。あのね、話があるんだけど…」
ジュウジュ 「話なら後にしろ。今忙しいんだ」
ペンソ 「ちょっと、ジュウジュ!」
リップとペンソの声を無視し、1人デッキを去るジュウジュ。
ヘパイストス 「何じゃあ、機嫌が悪いのか?」
シルクレスト 「大方、シーザーに腹立ててるだけだろ?」
クルエ 「ふ〜ん、あんたもそうじゃない?」
シルクレスト 「何だよ、クルエ」
クルエ 「シーザーとサンドラがいい仲なのに妬いてるんじゃないの?」
シルクレスト 「バ、バカ言え! シーザーはともかくサンドラがあんなエロ親父に…」
クルエ 「そうかしらねぇ〜」
クルエはそっぽを向く。
そんなシルクレストとクルエのやり取りをよそに。
ペンソ 「体は大丈夫なのか?」
リップ 「え?」
ペンソ 「あ、いやさ。午前中のテストの事だよ。結構きつかったじゃん」
リップ 「え、うん。わたしなら大丈夫…」
ペンソ 「ジュウジュにしようとしてた話って何?」
リップ 「え…」
ペンソ 「あ、そのさ。話したくなければいいんだ。俺じゃ、ジュウジュの代わりになれないなら」
リップ 「そんな事ない。そんな事…」
ペンソ 「最近元気ないから…リップ」
リップ 「!」
ペンソ 「グリンとジュウジュと3人でグリークに怒られた時に、よく焼いてくれたショコラクッキー。すっごく甘くってさ〜…」
リップ 「グリークがね!」
ペンソ 「?」
フレディン 「!」
リップの一言に、フレディンは気付く。
目が潤むリップ。
リップ 「グリークが…体の具合…良くないそうなの…」
フレディン 「風邪を引かれているんです」
ペンソ 「フレディン?」
フレディン 「ですから、早く良くなる様にクッキーを焼いては如何でしょうか?」
ペンソ 「あ、それ。俺が言おうとしたセリフ…」
リップ 「……」
リップは微笑むフレディンを見、何かを悟る。
涙を見せないよう、手で瞳を拭うリップ。
リップ 「そうね。午後のテストまでに焼いちゃうわ。そうと決まったら、早速取り掛からなくちゃ!」
ペンソ 「楽しみにしてるよ、リップ!」
駆けて行くリップに手を振るペンソ。
そして、彼女の姿が消えるとフレディンに問う。
ペンソ 「さっきの、グリークの話。何か知ってるのか、フレディン?」
フレディン 「ああ〜、そうでした!」
ペンソ 「?」
フレディン 「私、前にセイロンさんに『方向音痴』と言われた事があるのですが…『ナビゲーター』務まるのでしょうか?」
ペンソ 「……」
ガクリとうなだれるペンソ。
ペンソ 「それ…大問題だ…」

○レオハルト・ガンサイトルーム
各々の席に座る、スティックとセイクレッドと他クルー。
立つジェナードはガンナーを回りながら、説明する。
ジェナード 「右下中央のレバーを倒せば、照準モニターが開く。残弾数は左下に表示されるぞ、無駄に撃つな」
スティック 「なあ、ジェナード?」
ジェナード 「何だ、スティック?」
スティック 「俺さぁ…イーグルに乗りてえんだけどよぉ」
ジェナード 「イーグルにはエルフしか乗れんぞ」
スティック 「は、聞いてねえぞ。シーザーだって乗ってたじゃねえか?」
ジェナード 「あれは乗せていただけだ」
セイクレッド 「俺達獣人。魔力は低い。魔力の高い人間でも、イーグルの操縦は無理」
スティック 「ちぇ〜。そういや、ダイスはどうしたい?」
ジェナード 「あれはまだ子供だ」
スティック 「じゃねえって。あいつ倒れただろ〜が?」
セイクレッド 「ダイスなら、医務室。グリークと一緒に居る」
スティック 「医務室?」
ジェナード 「……」
不思議がるスティック。
ジェナードは、何かを知っている様子。
その表情。

○同・ヘルツ
グリークに連れられて、ダイスが入ってきたのはレオハルト・ヘルツルーム。
ダイス 「ねえ、グリーク。休んでなくていいの?」
グリーク 「あの部屋じゃあね。空気が悪くて、2人で静かに話は出来ない」
ダイス 「うん…」
ダイスは心配そうに頷く。
2人は床に腰下ろす。
グリーク 「これをね、お前に渡しておこうと思ったんだ」
グリークはダイスに1通の手紙を渡す。
ダイス 「これ?」
グリーク 「お前があたしの息子・グリンに逢う事になったら渡して欲しい」
ダイス 「何で、グリークが渡せばいいじゃん?」
グリーク 「そうだね」
グリークはダイスの頭を撫でる。
ダイス 「俺のさ…俺の父さん、グリークと一緒に『星のロッド』を守ってたんでしょ?」
グリーク 「ああ」
ダイス 「どんな父さんだった?」
グリーク 「コナンは…」
グリークはヘルツルームの巨大な十字架を見上げる。
グリーク 「お前の父親・コナンと名付け親のダイ、そしてあたしとフォレスタ。ずっとロッドを守ってきた。フォレスタも、ダイも死んで、残ったあたしを支えてくれたのがコナンだ。グリンが産まれて、グリーンストーンのレインだと分かった時、ルラでもないのに世界各地を廻って他のレインの消息を探っていた。あのバカ息子の為にね」
ダイス 「……」
グリーク 「そうして、やっぱり死んでしまった。あたし以外はみんな…」
ダイス 「グリーク…」
グリーク 「結局お前の母親の名前を聞く事すら出来なかった」
ダイス 「そっか」
グリーク 「この6年間。お前には母親らしい事もしちゃあいない。すまないね」
ダイスも同じ様に、巨大な十字架を見上げる。
ダイス 「俺にはグリークもリップ姉ちゃんも…みんな父さんや母さんみたいなもんだよ。前にね、親がいないっていうのは寂しいって…スティックが言ってた。でも、俺は寂しかった事はなかったよ。
それって、俺には家族がいるって事じゃないかなぁ」
グリーク 「!」
ダイスの言葉にハッとなるグリーク。
グリーク 「家族か…そうだね…。あたしの息子はグリンだけじゃない。
ダイスも、ジュウジュも、ペンソも…ここにいるクルーはみんな、あたしの子供なんだから…」
ダイス 「エヘヘ…」
ちょうどその時、シーザーがヘルツルームに入ってくる。
シーザー 「グリーク、こんな所にいたのか?」
ダイス 「あ、シーザーの兄ちゃん」
グリーク 「良かった、ちょうどいい。あんたにも話がある」
シーザー 「ダイス、お前は部屋に戻って休んでろ。午後には再テストだぞ」
ダイス 「うん、分かったよ。今度はうまくいくよね、きっと」
シーザー 「もちろんだ」
ダイスに微笑みかけるシーザー。
ダイスはヘルツルームから出て行く。
ヘルツルームに残る、グリークとシーザー。
静寂。
グリーク 「ここがレオハルトの心臓だ」
シーザー 「ああ」
グリーク 「死んで生まれ変われるものなら、あたしはコイツになってあんた達と共に戦いたい」
シーザー 「そいつは無理な相談だ。その前にコイツは空へ舞う」
グリーク 「……」
グリークの隣へ座るシーザー。
グリーク 「あたしの夫はね、レインだった。そしてあたしもまたグリーンウッドの総統だ。
人の上に立つ事。それがどんな意味を持つのか、知っている…だから」
グリークは懐からダヴァンの飾りを取り出し、それをシーザーの眼前に差し出す。
グリーク 「これをあんたに託す」





シーザー 「…レオハルトのマスターキーか」
グリーク 「うすうす感づいていたとは思うけどね」
今だシーザーの眼前にある飾りは、小さく揺れる。
シーザー 「どうして俺を選んだ。グリーンウッドの総統であるなら、ジュウジュが妥当じゃないのか?」
グリーク 「あれはまだ幼い」
グリークは再び、十字架を見上げる。
グリーク 「コイツを背負う。クルーの命を背負う。その重さを知らないだろう」

インサート・ヘルツルームの前。
ジュウジュは通りかかり、話をするグリークとシーザーに気付く。
ジュウジュ(M) 「グリーク?」
壁陰に隠れるジュウジュ。

グリーク 「人の上に立つ事と支配する事は違う」

フラッシュバック・第5話
シーザーとベドゥイン、ジュウジュの会話。
シーザー 「ジュウジュ。お前は勘違いをしてるようだが、『人の上に立つ事』と『支配する事』は大きく違う」

ジュウジュ(M) 「グリーク…」

シーザー 「ティキは?」
グリーク 「彼の意思はね…贖罪なんだよ。コンピニアの罪を償う事にある。あたしとは違う」
シーザー じゃあ俺の意思はどうなる?」
グリーク 「『レインとの共闘』だろう? このレオハルトが飛べば、それも可能になる。
もっとも本当にこれが飛ぶのか、分からないけどね。でも…」
再び、シーザーに向かうグリーク。
その表情。
グリーク 「諦めたくはない。これがあたしの夢なんだ」
シーザー 「……」
グリーク 「あたしとあんたは同じ夢を共有している。それが理由だ。それで十分なんだよ」
シーザー 「……」
グリーク 「シーザー、あんたをこのレオハルトの船長に任命する」
シーザー 「!」

壁影のジュウジュ。
その表情。
ジュウジュ 「!」

シーザー 「…俺が逆に口説かれてるみたいだな」
グリーク 「……」
シーザーは眼前にあるダヴァンの飾り(マスターキー)をその手に取る。

壁影のジュウジュ。
その表情。
ジュウジュ 「!」

シーザー 「とんだバアさんだ」
グリーク 「フフフ」
グリークの拳骨がシーザーの頭へと優しく落ちる。
微笑むグリーク。
ニヤリと笑うシーザー。
シーザー 「あんたの夢を叶えよう、マダム」
グリーク 「ありがとう」

壁影のジュウジュ。
ジュウジュ 「……」
その場を走り出す。
その表情は分からない。

ティキ(N) 「それが、彼らの見た最後の彼女の笑顔だった」

○【アイキャッチ】