第7話 贖罪
シーンB
○レオハルト・廊下
オペレーターの休憩室・扉の前。
そわそわとしているのはクルエ。
その横に、ぼんやりと立つフレディン。
扉をノックしようとするクルエの手は止まる。
クルエ 「う…どうやって声かけてあげればいいのよ。
大体サンドラもあんまりよ。オペレータの新入りだから、仲良くしろってのは分かるけど…。
いきなり何も着いた次の日がテストだなんてかわいそうじゃない」
フレディン 「優しいんですね、クルエさん」
クルエ 「元を正せば、フレディンがクビになったのがいけないんだからね!」
フレディン 「申し訳ありません。でも、レオハルトが戦地に向かうはずが、火山などに突っ込んで蒸発するよりは幾分ましではないかと思うのです」
クルエ 「あなた、それマジで言ってるの?」
フレディン 「マジとは?」
クルエは大きく溜息をつく。
クルエ 「まあね、フレディンの方向音痴は良く分かったわ。いくらレオハルトが広いとはいえここに来ようとして、空調室に行ったもんね」
フレディン 「でも近いですよね」
クルエ 「逆方向、しかも階が違うってば!」
フレディン 「はあ、そんな事よりサルサさんを」
クルエ 「そんな事よりって、ねえ…」
呆れ顔のクルエは手にあるもう一つのインカムを見る。
クルエ 「サルサは…あの子にとって、家族同然の人を亡くしたんでしょ…。今のリップがグリークを亡くしたみたいに…」
フレディン 「……」
クルエ 「でも、リップはいいわ。まだグリーンウッドの仲間が居るから。でもあの子は一人なのよ」
フレディン 「そうですね、ミッフィー様は旅立たれていますし」
クルエ 「例えるならねえ…この船にはずっと、レクイエムが流れてるようなもんよ。とてもあたし一人が、明るい気分で踊るなんて出来るわけない」
暗い表情のクルエ。
そこへ、艦内放送が流れる。
シーザーの声 「これより10分後。テストフライトを行なう。その前に、一つ全員に通達しておく」
フレディン 「あ、クルエさん。そろそろ戻らないと」
シーザーの声 「先日、みんな知っての通りグリークが死んだ。そして彼女から俺がレオハルトを預かった。
今日から俺が船長だ。俺の命には従え。
異議のある者は、この船を降りろ。以上だ」
クルエ 「な…。ついに喧嘩を売ったわね」
フレディン 「どういう事ですか」
と、同時罵声にも似た声が艦内に響く。
?(ジュウジュの声) 「降りるのはテメエだ、シーザー!」
フレディン 「この声は…ジュウジュさん?」
クルエ 「あっちゃあ〜すると、あのおバカもグルになるわねきっと」
ジュウジュの声 「オープンデッキで待つ、シーザー。テメエを叩きのめしてやる!」
クルエ 「行かなきゃ…フレディン、後はお願い!」
フレディン 「クルエさん」
フレディンに手にあるインカムを押し付け、その場を走り去るクルエ。
しばし、それを見送った後にフレディンは扉をノックする。
フレディン 「あの…サルサさん。聞こえますでしょうか?」
サルサ 「……」
サルサからの返事はない。
フレディン 「ドアの前に『インカム』を置いておきます。
今日テストが出来るかどうか分かりません。この通りの状況で、クルーの皆さんも動揺されているんです。
あなたもあまり無理をなさらないで下さいね」
フレディンはドアの前にインカムを置くと、その場を走り去る。
誰も居なくなった廊下。
サルサ 「……」
サルサは扉から顔を出す。
その瞼は腫れている。
床にあるインカムを手に持つ。
サルサ 「クルー、バラバラになってしまう」
その決意の表情。

○レオハルト・ブリッジ
上段、司令席にシーザー。横にサンドラが立つ。
サンドラの肩にフォウリー。
中段、操舵席にティキ。横に副操舵手のベドゥイン。
下段、オペレーター席は空席。
皆神妙な面持ち
サンドラ 「どういうつもり、船長?」
ベドゥイン 「あの声はジュウジュか…」
フォウリー 「うわぁ…怒ってるよ〜」
シーザー 「ああ、どうやら10分後にテストは無理だな。30分待ってくれ」
ベドゥイン 「30分で足りるのか?」
シーザー 「まあ、ここからデッキまで往復5分はかかるだろう。
やり合い自体は3分もかからん。後始末に時間がかかるだけだ」
ベドゥイン 「やれやれ、若いなシーザー」
同意を求めるように隣のティキを見るベドゥイン。
しかし、ティキの表情は暗い。
ティキ 「力でねじ伏せるつもりか…シーザー?」
シーザー 「そいつは違う、ティキ」
司令席を立つシーザー。
シーザー 「喧嘩はこっちから仕掛ける、売られた喧嘩も買うのが俺達海賊の流儀だ」
フォウリー 「ケンカ〜?」
ティキ 「!」
シーザー 「30分後にはテストだ。準備しておけよ」
サンドラ 「ちょっと!」
シーザー 「お、そうそう」
ブリッジから出ようとした所でサンドラへと振り返るシーザー。
シーザー 「他の奴らが俺を『船長』と呼ぼうが名で呼ぼうが構わん。
だが、お前は俺を名で呼んでくれた方が心地いい」
サンドラ 「……」
ブリッジを出て行くシーザー。
途方にくれるサンドラ。
ベドゥイン 「行ってあげなさい、サンドラ」
サンドラ 「ベドゥイン…」
ベドゥイン 「上に立つものはその地位ゆえ、孤独に陥る。常に支えるものが必要だ。
だから彼は、君に名で呼んで欲しいと言ったのだろう?」
サンドラ 「!」
サンドラ、その表情。
ブリッジを出て行く。
ブリッジに残る、ベドゥイン、ティキとフォウリー。
ティキ 「そうじゃな、こうなる事はあらかじめ予想は付いていたというのに。
一番年寄りのわしがうろたえてはいかん」
フォウリー 「ティキ、何か困ってるの?」
ティキ 「いやいや、今はわしが出来る事をしよう。それが友・ダヴァンへの餞にもなる」
フォウリー 「あたしも手伝うよ!」
ティキ 「ありがとう、フォウリー」

○GW本拠地・オープンデッキ
デッキで待つのは、ジュウジュとシルクレスト。
その横にペンソ。
周囲に集まる他クルー。
3人の前に立つのはジェナードを初めとする他元海賊達。
そこへ余裕の表情で歩いてやって来るシーザー。
その後ろからサンドラ。
ジュウジュ 「来たな、エロ親父!」
ジェナード 「シーザー。待ちかねてるぞ」
シーザー 「何度も言わすな、俺は男には興味はない」
シルクレスト 「この変態親父!」
シーザー 「やれやれ、散々な言われようだな」
苦笑いのシーザー。

シーザーはジェナードの横に立つ。
シーザー 「まさか、お前達は仕掛けてないだろうな?」
ジェナード 「主役が来るまで、何も出来まい。ただにらみ合ってるだけだ」
シーザー 「ならいい」
シーザーはジュウジュとシルクレストへと向かい、ペンソがそちら側に居るのに気付く。
シーザー 「意外だな、お前もそこに居るのか?」
ペンソ 「これはジュウジュが無理矢理…」
ジュウジュ 「!」
ペンソ 「いてててて〜〜〜〜!」
ペンソの耳を引っ張るジュウジュ。
そしてシーザーを睨む。
ジュウジュ 「テメエら海賊なんかに、ここを好き勝手にされてたまるかってんだ!」
シルクレスト 「そうだ、このレオハルトを作り始めたのはジュウジュ達『グリーンウッド』と俺達だ。
後から来たお前らに、そんな権利はねえ!」

遅れてその場に到着するクルエ。
シルクレストに気付く。
クルエ 「あ〜、やっぱし。あのおバカ!」
サンドラ 「シルクレスト、これはグリークの遺志なのよ」
シルクレスト 「サンドラまでグルなのか?
大体誰も聞いてねえんだろ、そんな話!」
ジュウジュ 「!」
ジュウジュは気まずく目を逸らす。
サンドラ 「グリークがレオハルトのマスターキーをシーザーに預けた。
それが何よりの証でしょう!」
シーザー 「もういい、サンドラ」
サンドラ 「!」
サンドラを手で制するシーザー。
シーザー 「そこまで言ってくれるとはな、礼を言う。サンドラ」
サンドラ 「……」
静寂に包まれるイーグルデッキ。
ジュウジュは一段と大きな声でクルー達に叫ぶ。
ジュウジュ 「何度テストしても飛ばねえレオハルトと、実際にデストニアまで飛んで結果を上げてるイーグルと。
テメエらはどっちを信じる!」
クルー(ガヤ) 「……」
ざわめくクルー達。
困惑。
ジュウジュ 「飛びやしねえんだ、レオハルトは!」
シーザー 「それは撤回しろよ、ジュウジュ…」
ジュウジュ 「!」
これまでにない表情でジュウジュを睨むシーザー。
ジュウジュ 「やっとマジになりやがったな…」
シーザー 「俺が降りるという要求は呑めん。グリークとの約束だからな」
ジュウジュ 「だったら引き摺り下ろす」
ジュウジュはペンソに視線で合図を送る。
ペンソはどこから持ってきたのか、一振りの剣をジュウジュとシーザーに手渡す。
サンドラ 「まさか、決闘だなんて言うんじゃ」
ジェナード 「これは、これは…久しぶりだな。シーザー」
シーザー 「ああ」

たまらず出てくるクルエ。
クルエ 「ちょっと、本物じゃないの! 怪我でもしたらどうすんのよ!!」
しかし、彼女を抑えるシルクレスト。
シルクレスト 「お前は黙ってろ!」
クルエ 「黙ってろって、あんたね…」
シルクレストは、戻って来たペンソに耳打ちする。
シルクレスト 「勝ち目はあるんだろうな?」
ペンソ 「ジュウジュのスピードが勝ればね」

対峙するシーザーとジュウジュ。
その様子に不安になるサンドラはジェナードへと言葉を漏らす。
サンドラ 「何か言ってちょうだいよ、ジェナード…」
ジェナード 「あんた達は人を見極める時どうする?」
サンドラ 「それは…」

インサート・第10話
シエナの街・広場。
サンドラ 「あたしはこうやってねぇ、人を解かりたいの」

サンドラ 「舞台…かしら…」
ジェナード 「俺達は海賊だ。ならず者の集まりだ。見極める術は戦い、争い…平たく言えば喧嘩だな。
シーザーは、ジュウジュとのやり合いを楽しんでるのさ」
サンドラ 「……」

鞘から抜き剣を構える、ジュウジュ。
ジュウジュ 「マントと金ピカでジャラジャラいってる、ハデウスノロにこのオレ様が負けてたまるかってんだ!」
シーザー 「はっはっは。随分だな、しかしジュウジュ…」
同じく鞘から剣を抜くシーザー。
その切っ先を見つめる。
シーザー 「人の上に立つ事。その答えを見つけたか?」
ジュウジュ 「テメエにはその資格があるってのかよ!」
シーザー 「自ら人の上に立とうとする奴にロクな輩は居ない。俺もそうだが、ジュウジュ。お前もだ」
ジュウジュ 「何だと!」
ジュウジュはシーザーに斬りかかる。