第8話 心描く少女
シーンA
○グロッセートの町・小高い丘
片田舎の小さな町。
テロップ(以下T) 「ライム暦2004年。アルティマ中央部高原の町・グロッセート」
街から離れた、小高い丘の上。
大きな岩の上に腰掛ける少女。
ブラブラと足を揺らしながら、スケッチブックに絵を描く。
眼下に広がる森と、その中央に見える町の情景。
その少女の元へ走ってくる、少年と少女。
カタリム(M) 「私、カタリム=クロラフィル。10歳。
でも、そう見えないってよく言われます。大人っぽいって事でしょか?」
少年 「カタリム〜」
カタリム 「あ…ソウタくん、コナミちゃん!」
カタリムの元へ辿り着き、息を切らすソウタとコナミ。
コナミ 「いいの、こんなトコで魔法の授業サボってて。リーブズ様に怒られるよ」
カタリム 「だいじょぶ、だいじょぶ」
にっこりと微笑むカタリム。
カタリム(M) 「こう見えても、この町の町長・リーブズの一人娘。パパが言う『由緒正しきクロラフィル家』の跡継ぎです。
っていってもこの通り、田舎の貴族ですけど」

○【サブタイトル】




グロッセートの町・クロラフィル家の館
玄関。
父・リーブズに頬を叩かれるカタリム。
カタリム(N) 「町長のパパは、厳しい人でした。
アルティマ大陸中央部の都市アマルフィ有数の魔法学校・エゼク。その本校を首席で卒業したそうです。
クロラフィル家は魔力に優れた家系で、代々優秀な魔術師がその当主を務めていました。
時は流れその血筋が薄れた中、パパは失われた魔術師としての能力に秀でた人でした。
だから、パパは…」
カタリムの母 「あなた、もうそれぐらいに…」
リーブズ 「お前は黙っていろ!」
怒るリーブズに、母は怖気づく。
リーブズ 「なぜ今日の実地授業を欠席した?」
カタリム 「私には無理だもん」
赤く腫れた頬を庇い、二階へと駆け上がるカタリム。
カタリム 「……」
途中踊り場で、壁に飾られた美しいグロッセートの町の風景絵を見上げる。
カタリム 「パパみたいになれない」
カタリム(M) 「出来の悪い一人娘が、憎かったんだと思いました」
カタリムの姿は消え、扉の閉まる音が響く。
リーブズ 「……」
リーブズは2階を見上げ、小さく溜め息をつく。
カタリムの母 「あなた…」
リーブズ 「こんな小さな町でも、いつ魔界軍の脅威に晒されるか分からない。
魔法は、人を守り、何よりも自分を守る手立てになるのだ」
カタリムの母 「……」
カタリムの母は微笑む。

カタリム(M) 「私はこの時、パパの本当の想いに気付かなかったんです。
今もこの時の事、後悔しています」

グロッセートの町・小高い丘
夕方。
カタリムとソウタ、コナミの3人。
学校帰りのようで、同じ鞄を持っている。
詠唱を始めるカタリムをソウタとコナミが見守る。
カタリム 六元の紅…熱く燃ゆる炎よ。我が意思により、灼熱の業火となれ、『ファイアーボール』!」
カタリムの掲げる小さなロッドの先からは煙が一筋の昇る。
ソウタ 「ダメじゃん。それじゃあマッチ代わりにもならないよ」
コナミ 「ねえ、カタリムちゃん、ソウタくん。そろそろ帰ろうよ。もう日が暮れちゃう」
カタリム 「はぁ〜」
ガクリと項垂れるカタリム。
ソウタ 「まだ試験まで日にちがあるんだしさ。今日はここまでにしようぜ」
カタリム 「私、もうちょっと練習してくから。先帰っていいよ」
ソウタ 「そうか。じゃ、コナミ。帰ろ」
コナミ 「うん。じゃあね、カタリムちゃん」
カタリム 「バイバイ」
手を振るカタリム。
ソウタとコナミの2人は丘を降り、町へと帰っていく。
自分のロッドを見るカタリム。
カタリム 「やっぱり、パパとは違うんだ。私には才能ないんだよね」
岩に登るカタリム。
夕陽を眺める。
カタリム 「綺麗だな…」
鞄からスケッチブックを取り出すカタリム。
何かを描き始める。
夕陽が山の端にかかり、だんだんと周囲が暗くなる。
?(男の声) 「上手いねえ」
カタリム 「!」
カタリムは背後から聞こえる声に振り返ると、そこには1人の男性が立っている。
カタリム 「誰?」
「魔術師になりたいのかい?」
にっこりと微笑む男。
カタリムのスケッチブックには、夕陽を背景に杖を振るう魔術師の女性の絵がある。
カタリム 「おじさん、いつからそこに居たんですか?」
スケッチブックを隠すように抱えるカタリム。
男(マギウス) 「おやおや。警戒させてしまったか。僕の名前はマギウス。
おじさんと言われるほど、老けて見えるかな?」
カタリム 「私よりは大人です」
マギウス 「う〜ん。一応30歳くらいに見えるようにはしたんだけど。そう言われてしまうと言い返せないな、カタリム」
カタリム 「へ、私を知ってるの?」
マギウス 「まあね。いつもここで絵を描いてる」
カタリム 「だからって名前まで知ってるわけないじゃないですか。
どこかで逢った事がありますよね?」
マギウス 「いや、初めてだけど」
カタリム 「……」
カタリムは納得がいかないようで、そっぽを向く。
カタリム(M) 「う〜ん。見た事ある顔だと思うんだけど、気のせいかな」
マギウス 「続きは描かないの?」
楽しそうに目を細めるマギウス。
カタリム 「人に見られるの嫌なんです」
マギウス 「そうか、残念だなあ」
カタリム 「帰ります」
岩から飛び降りるカタリム。
彼女へと掛けられる声。
マギウス 「絵は書き手の心を表す」
カタリム 「!」
その声に振り返るが、マギウスの姿はない。
カタリム 「消えた…?」
カタリムは手にあるスケッチブックを見る。
夕陽を背景に杖を振るう魔術師の女性の絵。
カタリム(M) 「私の心…」
カタリムはスケッチブックを閉じる。
そして呟く。
カタリム 「だから、何だって言うんですか…」

グロッセートの町・クロラフィル家の館
先日と同じ様に、玄関で対峙するカタリムとリーブズ。
リーブズ 「こんな時間まで一体どこに行っていた?」
カタリム 「…魔法の練習を…あ!」
リーブズはカタリムの鞄を取り上げ、逆さに振る。
バサバサと中身が落ち、目に留まるスケッチブックと筆記用具。
夕陽を背景に杖を振るう魔術師の女性の絵。
リーブズ 「いつまでも無駄な事を…」
カタリム 「ダメ!」
カタリムの目の前で、そのスケッチブックは破られる。
リーブズ 「こんな時間があるならば、詠唱の一つでも覚えたらどうだ!」
カタリム 「ひどい、ひどいよパパ!」
リーブズ 「お前はこれからの時代に魔法がいかに重要となるか、気付いていない!」
カタリム 「パパは、クロラフィル家の事ばっか考えて、そんな事言うんでしょ!
私は魔術師になんかなりたくない!!」
リーブズ 「……」
リーブズは黙り、スケッチブックを投げ捨てる。
カタリムに対し手を上げようとするリーブズ。
カタリム 「パパなんて、大嫌い!」
リーブズ 「!」
リーブズの手は止まる。
泣くカタリム。
2階へ駆け上がり、自室へと閉じこもる。
扉が閉まり、鍵のかかる音(SE)。
リーブズ 「…カタリム」
リーブズは溜め息をつく。
その表情は曇る。

グロッセートの町・クロラフィル家の館・カタリムの部屋
着替え等の身の回りの物、筆記用具などを次々に鞄に入れるカタリム。
カタリム 「もう我慢できない。こんな家、出てってやる!」
怒りに任せて荷物を詰め込み、はちきれそうな鞄。
カタリム 「……」
一瞬、その手が止まるカタリム。

フラッシュバック
幼いカタリムに、ロッドを握らせるリーブズ。
娘に向けられる父の笑顔。

カタリム 「昔は良く笑っていたのに…。あ…」

フラッシュバック
マギウスの笑顔。

カタリム 「誰かに似てると思ったら…パパに似てるんだ…マギウス…」
そこへ、部屋の扉をノックする音。
カタリムの母 「カタリム、ちょっといいかしら?」
カタリム 「ママ…」
扉を開けるカタリム。
カタリムの母は部屋に入り、夕食を乗せた盆を机に置く。
カタリムの母 「夕ご飯、ここに置いておくわね」
カタリム 「……」
カタリムの母 「今日のことは、いくらなんでもやりすぎだと思うわ。
でもね、パパの気持ちも分かって欲しいの」
カタリム 「分からないよ」
カタリムの母 「パパはあなたを無理に魔術師にしたいだけじゃないのよ」
カタリム 「でも、私には才能ないもん」
カタリムの母 「じゃあカタリム。これからママの話すことを聞いてちょうだい。
パパがね、まだアマルフィの街の魔法学校に居る頃、この町が魔将に襲われた事があるの」
カタリム 「え?」
カタリムの母 「その時はね、まだあなたは生まれていなかったわ。私のお腹の中に居た」
カタリム 「……」
カタリムの母 「当時、町を守ったのはパパのお兄さん。あなたのおじさんに当たる人。
でもね、その人はパパのような強い魔術師ではなかった。
町はどうにか守られたの。その人は、その時の傷のせいでまもなく死んでしまったのだけれど」
カタリム 「……」
カタリムの母 「パパはね、酷く後悔をした。『どうしてあの時この町に居なかった、生きていて欲しかった』って何度も自分を責めたわ。
自分の大切なお兄さんを永遠に失ってしまったから」
カタリム 「そのおじさんは…どんな人だったの?」
カタリムの母 「…そうね」
母は優しく、カタリムの頭を撫でる。
カタリムの母 「あなたに良く似た、絵を描く事の好きな優しい心の人よ。
ほら、階段にこの町の絵があるでしょう。名前は…」

フラッシュバック
踊り場にある町の風景画。
その隅に描かれたサイン。

カタリム 「!」
思い当たり、顔を上げるカタリム。
立ち上がり部屋を飛び出していく。
カタリムの母 「カタリム!」

○【アイキャッチ】