第8話 心描く少女
シーンB
○グロッセートの町・小高い丘
夜。
息を切らしながら、丘を駆け上がってくるカタリム。
岩の前で腰を屈めて一息つく。
カタリム 「おじさん!」
顔を上げるカタリムの先には、岩の上に立つマギウス。
マギウス 「来たね、カタリム」
カタリム 「マギウス=クロラフィル。本当に私のおじさんじゃないですか…」
笑うカタリム。
マギウス 「そういう事になるね」
カタリム 「どうして、私が分かったんですか?」
微笑むマギウス。
マギウス 「というより、僕はもう死んでるんだよ。怖くないの?」
カタリム 「確かに、幽霊ですよね。でも、魔将からママやお腹の中に居た私、それにこの町を守ってくれたんでしょ?」
マギウス 「力不足だったんだ。でも、こうやって君が生きていてくれているからね。悔いはないよ。
ただ、リーブズを悲しませてしまった。それだけが心残りだ」
カタリム 「……」
マギウス 「絵にはね、カタリム。画風と呼ばれるものがある。そして何よりも書き手の心を描く。
カタリムの描く絵は、僕の絵に似ていた。それはね、僕の絵を見ていてくれたと言う事と同時に、僕の事を好きでいてくれたと言う事なんだ。
嬉しかったよ。だから、君だと分かった。
名前は昔、リーブズに聞いていたから。女の子だったら『カタリム』と名付けると…
大切に、大切に育てると…」
カタリム 「…今…」
一息つくカタリム。
カタリム 「パパが私に、どうして魔法の勉強をしろとあんなに厳しく言うのか。
やっと分かりました…おじさんが死んでしまったから…パパはそれが辛かったから…」
マギウス 「…それならいい」
カタリム 「それを教えてくれる為に、私に逢いに来てくれたんですか?」
マギウス 「いや、それだけじゃないよ。
君は賢い子だ。クロラフィル家の魔力を受け継ぎ、尚且つ絵を描く才能もある。私には持ち得なかった双方の能力を持つ」
カタリム 「私、魔法は…」
マギウス 「魔力と言っただろう?
この岩のふもと。ちょうど君の足元だ。掘ってみなさい」
カタリム 「え…」
言われたとおりに、膝を突き素手で大地を掘る。
暫くすると、木箱が現れる。
カタリム 「これは…」
マギウス 「開けてごらん」
カタリム 「!」
木箱の中には1本の付けペン。
インクはない。
カタリム 「ペン?」
マギウス 「私が作ったものだが、使いこなす事は出来なかった。
しかし君なら出来るだろう。ピクトマンサーの素質を持つ君なら」
カタリム 「ピクトマンサー?」
マギウス 「『ペンは剣より強し』と言うらしい。君の心を具現化することの出来る、君にとっての最高のロッドだよ」
カタリム 「じゃあ、これで私も魔法が使えるの?」
マギウス 「魔法とは少し意味合いが違うけれどね。リーブズの助けにはなる」
カタリム 「ホント!」
マギウス 「ああ」
カタリムはペンを握り締める。
マギウス 「さて、そろそろ僕は行かなくちゃ。じゃあね、カタリム。リーブズによろしくね」
姿が薄れるマギウス。
カタリム 「ちょっと待って、おじさん!」
マギウス 「僕の分まで、リーブズを大事にしてやってくれ」
カタリム 「おじさん!」
姿を消すマギウス。
夜の静寂。
カタリム 「ありがと、おじさん…」

とその時。
カタリムの背後で響く爆発音。
カタリム 「え!」
引き続き何度か爆発音が響く。
町の方角が赤く光る。
カタリム 「何が…何が起こったの!」
丘を駆け下りるカタリム。

林の中を走るカタリム。
すると、町の方角から走ってくる人影に気付く。
カタリム 「あれは…」
ソウタ 「カタリム〜!」
カタリム 「ソウタくん!」
コナミを背負い走ってくるソウタ。
煤だらけで、背中は血に汚れている。
ぐったりとしているコナミ。
カタリム 「コナミちゃん!」
コナミを降ろすソウタ。
コナミの首から血が流れている。
カタリム 「!」
自分の帽子を取ってコナミの首の傷を押さえるカタリム。
カタリム 「とにかく、こうやって押さえてて!」
ソウタ 「う、うん」
ソウタはカタリムに変わりコナミの傷を圧迫する。
カタリム 「一体、何があったの?」
ソウタ 「魔将が襲って来た」
カタリム 「え!」
恐怖に顔がゆがむソウタ。
ソウタ 「いきなり空から襲い掛かってきたんだ。みんな、首を…切られて殺された。
リーブズ様が俺達を逃がしてくれて…1人で戦ってる!」
カタリム 「そんな!」
町へと走り出すカタリム。
ソウタ 「カタリム!」

グロッセートの町
カタリムは呆然と立ち尽くす。
所々未だに火の手が上がっている。
人の気配も、魔将の気配もない。
首のない町の住民の亡骸のシルエット。
カタリム 「町が…燃えてる、パパ…!」
我に返るカタリム。
自分の家の方角へ走り出す。

クロラフィル家の館。
崩れ落ちた館の前の広場。
折り重なるようにして重なる2人の亡骸のシルエット。
首はない。
カタリム 「うっ…」
思わず口を覆うカタリム。
同時に。
上空から聞こえる轟音。
カタリム 「!」
カタリムは顔を上げると、町の空を覆うほどの巨大な大きさの臓器塊のような魔将。
地鳴りのような音。
カタリム 「魔将? …違う、…空飛ぶ…船?」
その魔将(船)はゆっくりと町の上空から去ってゆく。
それを見送るカタリム。
カタリム 「……」

カタリム(N) 「それが世界各地で魔王によって行なわれた『人間狩り』というものだと、後に私は知りました」