第8話 心描く少女
シーンD
○シャヌーンの森・グリーンウッド本拠地付近
盆地になっているその崖の縁に立つカタリム。
盆地の中央には本拠地を覆う金属の天井がカモフラージュとなっている森の木々の間から見える。
カタリム 「見つけた!」
ティキ(N) 「最後のクルーである彼女が、シーザーの元を訪れたのはマーハとアクスタインの復活が知らされてまもなくの事じゃった」

○グリーンウッド(以下GW)・本拠地(グリークの部屋)
グリークのイスに座るシーザーと、その横に立つサンドラ。
呆れるシーザー。
シーザー 「侵入者だと?」
ジェナード 「ああ」
ジェナードが連れているのは後ろ手を縛られたカタリム。
カタリム 「『侵入者』とは失礼ですね、おじさん!」
ジェナード 「お、おじさん」
その言葉に思わず凍りつくジェナード。
シーザー 「ハッハッハ。で、ガキのお前さんがどうしてここにやって来た?」
カタリム 「ガキじゃありません。カタリム=クロラフィル。これでも10代です」
シーザー 「家名があるとは、いいとこのお嬢ちゃんのようだな?」
カタリム 「関係ありません。私は志願してここにやって来たんです」
シーザー 「ガキが来るような所じゃない、帰った、帰った…」
カタリム 「むかつく〜!」
顔を真っ赤にするカタリム。
ちょうどその時。
部屋に入ってくるのは、ダイス。
ダイス 「なあ、ジェナード〜。射撃訓練のスコアだけど…」
一斉にダイスに向けられる、視線。
ダイス 「あれ、どうしたの。みんな?」
サンドラ 「またよりにもよってタイミングの悪い時に…」
頭を抱えるサンドラ。
ダイス 「え?」
カタリム 「ちょっとどおいう事ですか!」
ジェナード 「おい!」
ジェナードの手を離れるカタリムは、肩でダイスをさし示す。
カタリム 「どう見たってこの子の方が、ガキんちょじゃない!」
ダイス 「な、な、な…なんだよこの失礼なおばさん!」
カタリム 「おばさんじゃないもん!」
サンドラ 「ここまでよ、シーザー。あの子の方が一枚上手だわ。諦めたら?」
シーザー 「おい、サンドラ…」
苦笑するサンドラ。
サンドラ 「このままじゃ、いつあたしが『おばさん』と言われるか分かったものじゃないもの」
シーザー 「やれやれ…」
肩をすくめるシーザー。
そんなシーザーをキッと睨むカタリム。
カタリム 「海賊船船長・シーザー、勝負です!」
シーザー 「はあ?」
再び捕まえようとするジェナードは、その言葉に唖然とする。
ジェナード 「何をバカな事を。正気か、お前は?」
カタリム 「マストの上で、という訳にはいきませんが。決闘しましょう」
ダイス 「こ、こいつほんとのバカだ〜!」
カタリム 「うるさい、ガキんちょ!」
ダイス 「何だと〜!」
カタリムの突然な申し出に、吃驚したままのシーザーとサンドラ。
シーザー 「いいだろう」
ニヤリと笑うシーザー。
その答えに、サンドラは焦る。
サンドラ 「ちょっと、シーザー…」
シーザー 「『帆上の決闘』か。よく俺の事を知っているな、お嬢ちゃん?」
カタリム 「何度も言うようですが、『カタリム』です。
ただし、ハンデは貰いますよ。大の大人といたいけな子供との決闘ですからね」
ダイス 「何だよ、『子供』って認めてんじゃん」
カタリム 「うるさい!」
ダイスを一瞥した後に、再びシーザーへと向かい合う。
カタリム 「10秒、いや5秒、貰います」
ジェナード 「まさかその5秒の間に、斬り付けたり詠唱をするとか言い出すんじゃないだろうな?」
カタリム 「そんな卑怯なマネはしません。あくまで準備をするための時間です。
それから実際に戦って見せます」
シーザー 「ほう、それを5秒でいいのか?」
にっこりと微笑むカタリム。
カタリム 「はい、十分です」

○GW本拠地・オープンデッキ
人が集まるイーグルデッキ。
イーグル1から降りて来るのはジュウジュ。
そのただ事ならぬ雰囲気にジュウジュは気付き、フロアに居るシルクレストに話しかける。
ジュウジュ 「おいおい、一体何の騒ぎだ?」
シルクレスト 「『決闘』だと」
ジュウジュ 「決闘〜?」
シルクレスト 「何でもクルー志願の子供がシーザーに仕掛けたらしいんだ」
ジュウジュ 「あんにゃろう、デッキは決闘場じゃねえっての」
シルクレスト 「…まな、でも最初にここで仕掛けたのは俺達だけどな」
ペンソ 「ジュウジュ、シルクレスト〜!」
2人の元に走ってくるペンソ。
ペンソ 「もう、始まるよ。早く行こう!」

対峙するシーザーとカタリム。
カタリムは未だ後ろ手に縛られている。
彼女の背後に立つジェナード。

その様子を見るジュウジュ、シルクレストとペンソ。
クルー(ガヤ) 「おい、まだ本当にガキじゃないか…」
クルー(ガヤ) 「まさか船長、本気で…」
クルー(ガヤ) 「馬鹿言え、適当にあしらうつもりだろ?」
ジュウジュ 「無茶苦茶だ、あの子供…」

カタリムの両腕を縛る縄を解くジェナード。
清々したカタリムは、両腕を大きく伸ばす。
カタリム 「ふう、手がしびれてはどうにもなりませんからね。ストレッチ、ストレッチ〜」
ジェナード 「随分余裕だな」
カタリム 「そりゃあもう、バッチリ」
ジェナード 「言っておくが、シーザーは決闘をして負けた事は…」
カタリム 「一度だけあるはずですよね、6年前。ブルーストーンのレイン・タケル様との勝負です」
ジェナード 「よく知っているな」
カタリム 「レインに関する事ならば何だって知っていますよ。
そしてこれが、船長にとって2回目の敗北になるんです」
ジェナードに対し、にっこりと笑うカタリム。
ポケットから取り出したのはマギウスのペン。
ジェナード 「おい、武器は…」
カタリム 「おじさん、知っていますか?」
シーザーの方へと向かい、ペンを構えるカタリム。
カタリム 「『ペンは剣より強し』ってね!」

審判役として立つサンドラ。
剣を抜くシーザーと、ペンを構えるカタリム。
サンドラ(M) 「一体何を考えているの、あの子…」
カタリム 「それじゃあ、始めましょう。船長!」
シーザー 「子供だからと言って手加減はしないぞ」
カタリム 「上等です。手加減したら、後悔しますよ」
サンドラ 「それでは、カタリムに5秒のハンデを与えます。
始め!」
カタリム 「!」
カタリムはマギウスのペンで空中にスラスラと絵を描き出す。
サンドラ 「1、2、3…」
それは、タケルの幻影。
ジェナード 「これは…」
サンドラ 「4、5!」
タケルの幻影は剣を構え、シーザーに対峙する。
シーザー 「タケル!」
シーザーは目を見開く。
同じ様に、クルーの全員に驚愕が走る。
ジュウジュ 「ブルーストーンの…レインだと!」
カタリム 「勝負!」
シーザー 「バカな!」
シーザーは慌ててタケルの幻影の剣を受ける。
シーザー 「これは…間違いねえ…タケルの…!」
剣をはじき間合いを広げるシーザー。
しかし素早く、タケルは再び斬りかかって来る。
次々と繰り出される斬撃。
シーザー 「あの時の…いやそれ以上だ!」
カタリム 「そりゃそうです、レイン様とマーハ様にお会いしましたから」
サンドラ 「何ですって!」
カタリム 「このピクトは、つい最近のタケル様ですよ」
シーザーとタケルの幻影の殺陣。
カタリム 「でも、あまり時間が取れないので次行きます」
ジェナード 「お、おい!」
再びカタリムは、マギウスのペンでスラスラと絵を描き出す。
ジェナード 「あれは!」
描き出されたのはグリンの幻影。
ペンソ 「グリン!」
グリンもまた小剣を両手に構え、走り出す。
カタリム 「いっけ〜!」
ジェナード 「そこまでだ、カタリム!」
カタリム 「!」
カタリムの首筋に当てられるダガー。
タケルとグリンの幻影の動きが止まる。
シーザー 「よせ、ジェナード」
ジェナード 「2対1は卑怯だ」
カタリム 「こっちの方がよっぽど卑怯です」
シーザー 「カタリムの言う通りだ、それをしまえ。ジェナード」
ジェナード 「……」
バツが悪そうにダガーをしまうジェナード。
同時に、タケルとグリンの幻影も消える。
俯くカタリム。
カタリム 「やり過ぎました、反省します」
ジェナード 「俺こそ、すまん…」
シーザー 「カタリム=クロラフィル…」
カタリム 「……」
カタリムは名を呼ばれて、顔を上げる。
シーザー 「家名を持つならば相応に裕福な家庭で育った人間、おおよそ貴族だろう。
親も心配するだろうに、なぜここに来た?」
カタリム 「『クロラフィル』にもう意味はありません。
それに私を捕まえた所でお金とかを要求できる相手はもう、誰も居ません」
その言葉に、デッキは静まる。
カタリムはペコリとお辞儀をする。
カタリム 「お騒がせしました。それじゃ、失礼します」
今にも泣きそうなカタリムは、それを飲み込んで踵を返そうとするが。
シーザー 「おい、待て」
カタリム 「……」
シーザー 「誰が出て行けといった…」
カタリム 「!」
カタリムはその言葉に振り返る。
シーザーは剣を放り投げ、肩をすくめる。
シーザー 「俺の負けだろう、カタリム?」
カタリム 「え…それじゃあ…」
サンドラ 「ようこそ、カタリム。レオハルトへ…」
手を叩くサンドラ。
クルーの中から沸き起こる拍手。
その中に、手を叩くジュウジュの姿がある。
ジュウジュ 「ちっくしょお。オレが負けて、あんな子供が勝ちやがった」
シルクレスト 「でもなんだか嬉しそうなのな」
ジュウジュ 「ったりめえよ。あのエロ親父が負けたんだからな」
ペンソ 「でも、そのシーザーに負けたジュウジュの立場って…」
ジュウジュ 「おい!」
ペンソ 「イタタタタ〜!」
ペンソの耳を引っ張るジュウジュ。

一方拍手を受け、嬉し涙を拭うカタリム。
その顔の前にシーザーの右手が差し出される。
シーザー 「最近レインに逢ったと言ったな。まずはその話を聞かせてくれ」
カタリム 「はい!」
握手を返すカタリム。

○GW本拠地・製造フロント
夜。
レオハルトの外壁。
静かな中、フレディンはペンキのバケツを持つ。
カタリム 「それじゃあ、青をお願いします」
フレディン 「はい」
フレディンは青色のペンキを持って飛び立つ。
ワイヤーで吊るされたゴンドラに乗り、外壁のペイントをしているカタリム。
顔と服が青、白などのペンキに汚れている。
カタリム 「完成です!」
フレディン 「素敵ですね〜」
カタリム 「これは私の絵、そして心」
ズームアウト。
レオハルトのエンブレムが外壁に大きく描かれる。
カタリム(M) 「パパ、ママ…私は自分に出来る事を見つけました。
だから、2人の分まで生きていきます」

To be continued…
LEGEND =Leohault=