第2話 お尋ね者なんだ
シーンA
○フィオの回想
3歳の幼いフィオ。
薄暗い森の中、泣いている。
フィオ(M) 「オレが生まれた頃に母上が死んで、乳母のシーナに育てられた。そのシーナが流行り病でやっぱり死んでしまったあの日。オレはその事実が信じられなくて、家を飛び出した。サンタマリアの巫女王様なら…この世界で一番神に近い聖なるお方。彼女ならオレのシーナを返してくれるって、バカな事考えて。聖都ヤンシャオに結界が張られている事すら知らずに。
聖戦真っ只中、サンタマリアの南・カナンに住んでいた頃の話だ」
フィオ(幼) 「エッ、えっく。父上〜」
フィオ(M) 「ただ北を目指せばいいって、思ってたんだけど。恐ろしく遠い事に気がついた。どこまで歩いても、城なんて見えやしない。ほんと、オレってバカだ」
ガサガサと背後で、茂みが揺れる。
フィオ(幼) 「ちちうえ?」
バサバサという翼の大きな音。
フィオの前に立つ翼の生えた巨大な狼の魔将・アーコル。
フィオ(幼) 「!」
フィオは恐怖で竦み、声が出ない。
アーコル 「グルル〜〜〜!」
巨大な牙がフィオを襲う。
硬く目をつぶるフィオ。
アーコル 「キャイン〜〜〜!」
フィオ(幼) 「え?」
二つに切り裂かれ消滅する魔将・アーコル。
その背後に、巨大な光る斧を持つ10歳くらいの少年。
幼いルーン。
ルーン(幼) 「こんな所で何してるの?」
フィオ(幼) 「巫女王様に会いたい…。うわぁぁぁん〜!」
安心し大声で泣き出すフィオ。
ルーン(幼) 「無理だよ。ヤンシャオには旅の人が入ることはできないんだ。魔王に占領されちゃったから」
フィオ(幼) 「じゃあ、ちちうえ〜。父上に会いたい〜、うわぁぁぁん!」
ルーン(幼) 「なんだ、親が居るのか。ここからちょっと行った所に村があるから、ついてきなよ」
フィオの手を引っ張るルーン。
フィオ(幼) 「お兄ちゃん。名前、なんていうの?」
振り返るルーン。
安心させるように笑う。
ルーン(幼) 「アクス。変わってるだろ、これが俺の名前なんだ」
ルーンはもう片方の手に持つ武器に目を移し、同時に光る斧の刃が消える。
フィオ(幼) 「アクス…」
魅入るフィオ。



フィオ(M) 「これがオレの大切な思い出。それからルーンにリョウショの村へ連れて行ってもらった。気がつくとあいつは居なくなっていて、村の人に保護されたオレは、その後親父にこっ酷く怒られたわけだけど。
あいつの事は忘れられなかった。もう一度逢える方法をずっと考えて、辿り着いた答えは『世界一の剣士』になる事。オレが強くなれば、その名前が世界に知れ渡れば、きっとあいつはオレに逢いに来る。だってあいつは世界一の斧戦士・アックスファイターだから!」

○旅船の甲板
膝を抱えてしゃがみこんでいるフィオ。
ぼんやりと目を開け、顔を上げる。
目の前には心配そうに顔を覗き込むグレイ。
グレイ 「大丈夫、フィオ?」
フィオ 「うん、まあまあ」
ルーン 「船酔いかよ、これから先が思いやられるぜ」
フィオ 「うるさい!」
そっぽを向くフィオ。
フィオ(M) 「旅の目的はあっという間に果たされた。オレ達の再会は本当に偶然でまったく感動的なもんじゃなかったんだ」
ちらりとルーンへと視線を戻すフィオ。
ルーンは興味なさそうに、背を向けて立ち去っている。
小さく呟くフィオ。
フィオ 「サイテー…」

○【サブタイトル】




○テーベ・港
船から下りてくる一行。
フィオ(M) 「オレ達は、ライムの国を出てシャヌーン大陸に入った。レインも…ルラに逢ったアレス王はまず、彼女の導きに従いシャヌーンへと向かったらしい。オレ達はまさに、レインと同じ路を旅している」
3人の前を鼻歌交じりに先頭を切って飛ぶピノ。
くるりと振り返る。
ピノ 「じゃ、ここで二手に分かれましょ。あたしともう1人はギルドに行ってクエスト探し。残る2人は今日の宿を決めて、レインと聖戦の情報収集!」
グレイ 「シャヌーンといえばクエストギルドの総マスター、グリーンストーンのレイン・グリン様が国家元首を務める国。しかもここテーベは、グリン様の故郷なんだ」
フィオ 「なるほど」
グレイ 「だから、もしかしたらご本人に会えるかも!」
ルーン 「そう簡単にいくもんかよ。第一会いたくもねえし」
エルフの女 「頬に傷のある男…」
背後から聞こえる女性の声に振り返るルーン、他3人。
ピノ 「誰、この人?」
ルーン 「俺の事か?」
エルフの女 「しらばっくれるんじゃないわよ…」
ニヤリと笑う女性。
腰から細身の剣を抜く。
フィオ 「うわ、嫌な予感…」
グレイ 「この人、知り合いなの?」
ルーン 「はぁ?」
知りもしないという風に肩を竦めるルーン。
ルーンに対し斬りかかって来る女性。
エルフの女 「覚悟しなさい!」
フィオ 「うわッ!」
4人それぞれの方向に避ける。
2撃目をかわすルーン。
エルフの女 「ガードナーの仇よ!」
ルーン 「誰だそりゃ?」
エルフの女 「この人殺し!」
ルーン 「だから人の話を聞け!」
女性の攻撃を軽々と避けるルーン。
エルフの女 「ギルドにも通告しておいたわ、ダマスクス魔将強襲事件の犯人ってね。もう逃げられないわよ、観念なさい!」
フィオは目を丸くする。
フィオ 「ルーンってお尋ね者なのか!」
ピノ 「何かしでかしてんじゃないかとは思ってたけど、やっぱりね」
腕を組んでうんうんと頷くピノ。
ルーン 「(避けながら)お前まで信じてんじゃねえ!」





エルフの女 「ルーン?」
動きが止まる女性。
エルフの女 「…人違いだったわ。それにしてもパッとしない名前ね」
剣を収める女性。
ルーン 「おい、人を襲っておいてよくそんな事がいえるな」
ぼやくルーン。
女性はルーンの連れである他3人の顔を一通り見て、フィオに目を留める。
エルフの女 「あらやだ、かわいいぼうやじゃない〜」
ピノ 「ぼ、ぼうや…プッ…」
フィオ 「一応オレ、これでも女なんだけど…」
エルフの女 「まぁ、失礼。あたしの名前はルクレチア。悪かったわね、でも怪我もなかった事だしよしとしましょうよ」
ルーン 「こ、こいつは…」
ルクレチア 「あたしが捜してる男の素顔は分からないのよ。だったら、『頬に傷のある男』をしらみつぶしに当たるしかないじゃない」
ルーン 「お前は頬に傷があれば、誰これ構わず襲い掛かるのか!」
ルクレチア 「お詫びといっちゃなんだけど、泊まる場所探してるって言ってたじゃない。すぐ近くにあたしの知り合いがやってるお店があるんだけど、どう?
もちろん、お代は要らないから」
ピノ 「ついてるじゃん、案内されてきなさい。ルーン」
ルーン 「だ〜から、なんで俺が…」
フィオ 「行こう、ルーン。グレイとピノはクエスト探しの方を頼んだよ」
ルーンの腕を引っ張るフィオ。
ぶつぶつ文句を言いながら、フィオに引っ張られていくルーン。
グレイ 「えぇ〜。情報収集の方が興味あったのになぁ」
ピノ 「でも、ギルドの総本部よ。もしかしたら、ギルド長が居るかもしれないじゃない?」

○同・グリーンウッド総本部
広間の受付に長蛇の列を作るクエスター達。
ようやく順番が来そうな、グレイとピノ。
ピノ 「多すぎよ、何なの。この数は!」
グレイ 「自分で言ってたじゃん。ギルドの総本部だもん…」
溜め息をつくグレイ。
グレイ 「シャヌーンは元々エルフの国だけど、最近じゃあそれも見る影ないなぁ…」
グレイの視線の先にあるのは、人間、エルフ、ドワーフ、獣人…様々な種族の冒険者達。
ピノ 「フッフッフ…流石にフェアリーは居ないわね」
グレイ 「天人と魔族もね」
ピノ 「ま…魔族。ま、まあそうね!」
少し焦ったようなピノは、視線を逸らして笑う。
グレイはそれに気付かない。
ピノ 「でもね、魔族なんてそう珍しいもんじゃないわ。意外に近くに居るかもよ…」
グレイ 「デストニア大陸に行く事になれば、珍しくもないじゃない?」
ピノ 「えぇ、まさかあたし達ってばそんな僻地にまで旅するつもりなの?」
グレイ 「本当のレインが知りたいんなら、世界を一巡りしなきゃ」
ピノ 「あんた、たいした根性だわ」
呆れるピノをよそに、グレイは本部を見回す。
グレイ 「僕も一時期ギルド員やってた事があるけど、ここまで大勢のクエスターを見た事はないなぁ」
リップ(受付) 「次の方、どうぞ」
受付に立つ青い髪のエルフの女性。
グレイ 「えっと、このテーベ周辺で手軽なクエスト…」
ピノ 「いっちばん高いクエスト、紹介してちょうだい!」
グレイ 「えぇ!」
自信ありげに胸を叩くピノ。
グレイは驚いて彼女を見る。
リップ 「随分元気のいい方ですね」
リップの背後から現れるハーフエルフの青年。
ペンソ(青年) 「でも、君達2人で大丈夫なのかい?」
ピノ 「任しときなさいって、腕の立つ人間が2人もパーティーに居るのよ」
グレイ 「そんな…ルーンに怒られるよ…」
ペンソ 「命知らずだなあ。そこまで金に困ってるのか?」
ピノ 「なによぅ。大きなクエストをこなせば、レインに会えるかもしれないじゃない?」
グレイ 「あ、そうか…」
その言葉に顔を見合わせるペンソとリップ。
リップ 「グリンに会いたいの?」
グレイ 「はい」
ペンソ 「残念だったね。グリンは今テーベには居ないんだ」
苦笑するペンソ。
グレイ 「えぇ〜」
ピノ 「チッ、理由つけて一儲けしようと思ったのに…」
ペンソ 「じゃあ、このクエストを斡旋しよう。これをクリアしたら、グリンに会わせてやるから」
グレイ&ピノ 「え!」
ペンソ 「約束しよう。特別にね」

○テーベ・宿
席に着くフィオとルーンの2人。
沈黙の中、フィオが切り出す。
フィオ 「なあ、ルーン」
ルーン 「んあ、何だ?」
フィオ 「お前さ、ずっとその戦斧で戦ってたのか?」
ルーン 「これの事を聞きたいってか?」
フィオ 「いや、それは…」
ルーン 「珍しい武器だからな。どいつもこいつもこれを欲しがるが…」
フィオをきつく睨むルーン。
ルーン 「触りでもしようもんなら、女でも容赦しねえ」
フィオ 「!」
一瞬すくむフィオ。
フィオ 「べつにそんなつもりじゃ…」
ルーン 「……」
そこへルクレチアが帰って来る。
ルクレチア 「あら、どうしたの。2人とも?」
フィオ 「いや、その。なんでもないんだ」
ルクレチア 「だったらいいけど。本当に悪かったわね。ガイアスと間違えてしまって」
ルーン 「ガイアス?」
ルクレチア 「そうよ、あたしの恋人…ガードナーを殺した頬に傷のある男」
フィオ 「そうだったのか…」

○ルクレチアの回想
ルクレチアの手を握る男の手。
その顔は分からない。
ガードナー 「『頬に傷のある男』手がかりはそれだけだ。その男から…取り返さなくてはならないものがある」
ルクレチア 「その任務が終われば…もう自由になれるのよね?」
ガードナー 「ああ、その時は…結婚しよう」
口元が映る。
微笑み。

暗転。
遠くに小さく見える炎上する船。
港から多くの人が見守る中に、ルクレチアの姿がある。
ルクレチア 「ちょっと、あなた。あの船に乗っていた…ガードナーは!」
船から逃げて泳ぎ着いたらしい傷だらけの男。
ルクレチアは担架で運ばれてきた彼の体を揺する。
途切れ途切れに声を出す男。
「魔将が襲ってきた…人が魔将を操るなんて…!」
ルクレチア 「ガードナーは…彼はどうしたのよ!!」
「ガ…ドナー様、あの男に…ッ!」
気を失う男。
沈んでいく船、炎の明かりが小さくなる。
ルクレチア 「ガードナー…そんな…そんなッ!」

○テーベ・宿
フッとため息をつくルクレチア。
フィオ 「魔将が人の命令を聞くなんて…」
ルクレチア 「人が魔将を操る。信じられない話でしょ? 頬に傷のある男…ガイアスという男はきっと人ではないんだわ」
ルーン 「……」
その時、宿に入ってくるグレイとピノ。
ピノ 「やった、ちょうどいいところにルクレチア発見!」
ルクレチア 「あら、あたし?」
グレイ 「ただいま、フィオ、ルーン。クエストが見つかったんだけど、ちょっとやっかいそうなんだ」
フィオ 「やっかい?」
ルーン 「ま〜た、くだらねえクエスト受けてきたんだろ?」
グレイはちらりとルクレチアを見る。
グレイ 「ルクレチアの助けが必要なんだけど、いいかな?」
顔を見合わせるルクレチアとフィオ。
欠伸をするルーン。