第4話 なければ運任せ
シーンA
○ハサラ砂漠・街道
道を歩く一行。
フィオ(M) 「ハサラ鉄道の終点『アブシンベル』からオレ達は、陸路を南へ下った」
グレイ 「もうすぐだ〜、もうすぐグリン様に会えるんだ〜」
ピノ 「ご機嫌じゃない、グレイ?」
グレイ 「そりゃそうだよ、グリン様は僕の命の恩人なんだから!」
ルクレチア 「初耳ね」
グレイ 「聖戦の時にね、住んでた村が人間狩りにあって、僕だけ生き残ったんだ。途方にくれてた僕は、ギルドに拾ってもらったんだよ」
ピノ 「うあ、軽く凄惨な過去を話しちゃうのね」
グレイ 「ん〜、僕はその時のことあんまり覚えてないからなぁ〜」
ルクレチア 「思い出さない方がいいかもね。辛い記憶は…」
グレイ 「うん」
笑うグレイ。
ルクレチア 「辛い過去は忘れた方が幸せよ…。そうは思わない、ルーン?」
ルーン 「あ? 何で俺に話を振るんだ」
ルクレチア 「さあね」
肩を竦め、とぼけるようなルクレチア。
ルーン 「レインに会うなら好きにしろよ。俺は適当に暇を潰す」
グレイ 「レインは僕の命の恩人なんだよ。何でそんなに悪く言うのさ!」
フィオ 「命の恩人か…」
ルーン 「お前とグレイがどう思おうと関係ねえ。俺は奴等の名前も聞きたくねえんだ」
一人スタスタと歩き出すルーン。
グレイはすぐ傍を飛んでいるピノに声がける。
グレイ 「どうしてあそこまで言うかなあ。ピノは理由を知ってるの?」
首を横に振るピノ。
ピノ 「ううん。ただね、機嫌が悪くなるとタチが悪いからず〜っとそこんとこには触れないようにしてたわよ」
フィオ 「……」
フィオは寂しそうに顔を伏せる。
フィオ(M) 「ルーンはあの一件から、ちょっと口数は増えたけど。レインに対しては相変わらずだ。
ルーンはオレにとって命の恩人。あの時オレを助けてくれた憧れの戦士。だから、グレイがレインに会いたいのはすごく良く分かる。
どうしてあんな風に、レインを嫌うのかな…」
ルクレチア 「人には触れられたくはない過去があるものよ」
悩むフィオを見透かしたように呟くルクレチア。
ルクレチア 「それは大概…悲しい記憶だわ」
自分に言い聞かせるようなルクレチア。
遠い視線。
フィオ 「……」
フィオは先を歩くルーンの背中を見つめる。

○【サブタイトル】




○メンフィス・クエスターギルドの店
フィオの手からカプセルを受けるギルド長・ダイス。
グレイ 「どうです、ダイスさん?」
ダイス 「さては1回開けただろ?」
ギクリとなる一行。
ダイス 「やっぱりな」
フィオ 「開けちゃまずかったのか?」
ダイス 「とりあえず、契約違反だね。それと何の用途に使ったのか報告書を書いてもらう」
ピノ 「うぅ〜、報酬は?」
ダイス 「報酬?」
睨むダイス。
ダイス 「あるわけないじゃん。このやばいブツを勝手に使っただけでも重罪なんだ。ブタ箱に入らないだけマシだと思ってね」
ニッコリ笑うダイス。
ピノ 「そんな〜」
フィオ 「ごめん、みんな」
すまなそうに頭を下げるフィオ。
ダイス 「まあ、その代わりといっちゃ何だけどうちのギルドの宿舎を提供してあげるからさ。しばらくこの街でクエスト探したら?」
なぜかニヤリと笑う。

○同・ギルド宿舎
大部屋で輪になり座る一行。
ピノ 「まずいわ、と〜ってもまずい事になったわ」
円の中心にはパーティーの全財産。
銀貨10枚。
ピノ 「あたし達は破産寸前です」
フィオ 「本当にごめん、みんな…」
グレイ 「フィオ1人の問題じゃないんだから。僕達パーティーでしょ」
フィオ 「グレイ…」
その言葉に感動するフィオ。
ピノ 「いい事言ったわ、猫さん。それじゃお願いね」
グレイの眼前に飛びニッコリと笑うピノ。
グレイ 「え?」
ピノ 「このあたしが客寄せしてあげるから歌いなさい」
グレイ 「そ、そんな何にも準備なしに!」
ピノ 「吟遊詩人を名乗るなら、それくらい朝飯前でしょ。このままじゃその朝飯すらままならないのよ!」
グレイ 「そんなぁ、チューニング急いでしなきゃ…」
ピノ 「後の3人は、クエスト探しておいてね」
フィオ 「わかったよ」
ピノに引きずられるように部屋を出て行くグレイ。
真ん中の銀貨を見つめて、小さく笑うルクレチア。
ルクレチア 「あたしにいいアイデアがあるのよねぇ」
フィオ 「いいアイデアって?」
ルクレチア 「フィオにクエスト探しをお願いしていいかしら。あたしとルーンはいっちょ儲けてくるわ」
ルーン 「え、俺もか?」
ルクレチア 「そ〜よ」
ルーンの肩を引き寄せて耳打ちするルクレチア。
ルクレチア 「いたいけな女の子を、こういう場所に連れてく訳に行かないでしょ」
ルーレットを回す動作。
ルーン 「お、なるほどな」
ほくそえむルーン。
フィオ 「何だよ2人とも、変な顔してさ」
ルクレチアは最後の銀貨10枚をわし掴む。
ルクレチア 「それじゃあ、フィオ。クエスト探しをお願いね」
ルーン 「任せたぞ」
ウインクするルクレチアと、妙にやる気のルーン。
フィオ 「?」

○同・クエスターギルドの店
ダイスと話すフィオ。
2人きり。
フィオ 「そういえば、メンフィスってシャヌーン最大の街だってわりに、ギルドに来るクエスターは少ないんだな」
ダイス 「そりゃね、メンフィスに来てまでクエストを真面目に受けるクエスターは居ないな」
フィオ 「なんでさ?」
ダイス 「メンフィスは娯楽の街だ」
フィオ 「『娯楽の街』?」
ダイス 「カジノっていうライムランド一の賭博場があるからなぁ」
フィオ 「え…」

フラッシュバック
ルクレチア 「フィオにクエスト探しをお願いしていいかしら。あたしとルーンはいっちょ儲けてくるわ」

フィオ 「げ、嫌な予感!」
青くなったフィオを他所に、店に入ってくる茶髪のエルフ。
茶髪のエルフ 「ただいま〜っと!」
ダイス 「お、兄貴お帰り!」
エルフはフィオに気付く。
茶髪のエルフ 「珍しいな、客か?」
ダイス 「例のクエスターだよ。彼女がフィオ」
茶髪のエルフ 「な〜るほどな。ふむ〜」



フィオをジロジロと見るエルフ。
フィオ 「な、なんだよ。ダイス…こいつは?」
ダイス 「あ〜、彼が…」
茶髪のエルフ 「俺様の名前は…そうだな『ハンサム』」
フィオ 「は、はあ?」
茶髪のエルフ 「『ナイスガイ』でもいいぞ、ハッハッハ〜」
ダイス 「アホだ…兄貴」
茶髪のエルフ 「ほら、俺様の名前呼んでみろ?」
フィオ 「は…ハンサムさん?」
茶髪のエルフ 「ん〜、いい響きじゃねえか〜」
うっとりとするエルフの男。
恥ずかしそうに頭を抱えるダイス。
ダイス 「お願いだから、その位に…」
フィオ 「ダイスの兄さんだよね」
茶髪のエルフ 「おうよ。しっかし、あいつの趣味はわからねえな〜」
再度フィオの顔をマジマジと見る。
自己完結したらしく、ニヤリと笑う。
茶髪のエルフ 「まぁた、フィーナみてえな勘違いするんじゃねえかと思ったけどよ。
まあ、似ても似つかねえか。妹ってとこだ!」
フィオ 「だから、さっきから何だってんだ!」
イライラしたフィオは声を荒げる。
茶髪のエルフはポケットから出した紙をヒラヒラとフィオの眼前で揺らす。
茶髪のエルフ 「クエストだぞ〜、クエスト」
フィオ 「クエスト?」
茶髪のエルフ 「そ。カジノで行方不明になるクエスターの捜索」

○同・カジノ
ルーンとルクレチア。
ロビーに戻る。
ルーン 「さて、これがあんたの分のチップだ。倍にして帰るぞ!」
ルクレチア 「まさか、あたしがあなたを呼び出した理由。これだけだと思ってるんじゃないでしょうね?」
ルーン 「んあ?」
ルクレチア 「はぁ」
溜め息をつくルクレチア。
ルクレチア 「鈍い男は嫌われるわよ」
ルーン 「大きなお世話だ。お前こそ、恋人が死んだ女の台詞とは思えねえな」
ルクレチア 「!」
ルーン 「ぐあ!」
ルクレチアはルーンを蹴り飛ばす。
ルクレチア 「デリカシーのない男も最低よ」
ルーン 「まぁた蹴りやがった、この女…」
ルクレチア 「もう、あの人と永遠に逢えないの…永遠に逢えないの…ッ!」
ルーン 「な…」
拳を握り締めるルクレチア。
俯く。
ルクレチア 「愛する人を亡くしたら、残された人はどうなると思う? 悲しみに打ちひしがれるか…憎むしかない」
ルーン 「……」
表情が緩むルクレチア。
フッと溜め息を漏らす。



ルクレチア 「けれど、この感情にあの子達を巻き込んではならないわ。
あなたがレインを憎むのは構わないけど、あの子達は何の関係もないでしょう?」
ルーン 「チッ…」
ルクレチア 「ちょっと態度を改めたらどう? さてあたしは、ラインに賭けてこようかしら…ぜ・ん・が・く!」
チップを手で玩びながら、ルーレット台へと消えていくルクレチア。
ルーン 「悲しむか…憎むか…か…」
ルーンは腰にある神具へと目を移す。
ルーン 「プラチナ…」
ルーン、その表情。
そして、聞こえてくる鐘の音と歓声。
我に返るルーン。
ルーン 「ちょ、ちょっと待て…俺もダズン・ファーストに全額…ッ!」

暗転。

ボーゼンとするルーンとルクレチア。
放心状態。
ルクレチア 「あっという間に終わっちゃったわ…あっけなさ過ぎる」
ルーン 「お前があの時、人の話を聞かないでラインに全額賭けるからだ! 5倍の配当だろ、そうそう当たるわけねえだろうが!!」
ルクレチア 「な、なんですって〜〜! ルーンだってそんな格好してるくらいなんだから、常套のマーチンゲールで勝負してちょうだいよ!」
ルーン 「お前がそこまで男らしく賭けるとは思わなかったんだ! 第一この格好は関係ねえだろうが!」
ルクレチア 「男らしくって何よ!」
ルーン 「マズったな…」
ルクレチア 「確かに、ここでいがみ合っても始まらないわね…」
頭を抱えるルーン。
半泣きのルクレチア。
ルーン 「仕方ねえ、さっき話があったここでのバイト。引き受けるか」
ルクレチア 「バイト?」
ルーンは小さく溜め息をつく。
その目の先には、手を招いている男の姿。
ルクレチア 「ちょ、ちょっと。ルーン!」
ルーン 「わりいが、あいつらには適当に話しといてくれ」
ルクレチア 「んもう、銀貨10枚分はどう言い繕えばいいのよ!」
奥へと消えていくルーン。
ピノ 「銀貨10枚分がどうしたのかしら〜?」
ルクレチア 「ぎく!」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはマンドリンを抱えたグレイとその頭の上に乗るピノ。
ルクレチア 「あ〜ら、お二人ともお揃いで。おほほほ〜」
グレイ 「まさかと思うけど、全額すったんじゃ…」
ルクレチア 「んま、どうしてこんな所におでましなの?」
ピノ 「しらばっくれる気ね、お姉様」
グレイ 「さっきまで広場で演奏してたらね、ここの従業員に店で一曲弾いて欲しいって言われたんだよ」
ルクレチア 「人気者ねぇ」
ピノ 「それで、話は戻して。10枚の行方は?」
ルクレチア 「あ…あらまあ、フィオ。ちょうどいい所に!」
フィオとエルフの姿を見つけたルクレチアは喜んで両腕を振る。
ピノ 「チッ、あくまでしらばっくれる気ね」
フィオと茶髪のエルフが3人の元に近付いてくる。
フィオ 「やっぱり、ルクレチア。こんな所に居たんだ」
呆れ顔のフィオ。
ルクレチア 「フィオまであたしを責めないでよ〜」
グレイ 「フィオ、そっちの人は?」
フィオ 「えっと、ダイスのお兄さんで…ハンサムさん」
無言で歩いてくるエルフは、ルクレチアの前にひざまずき、右手を取る。
茶髪のエルフ 「『しもべ』とおよび下さい。美しいお嬢さん」
ルクレチア 「はあ?」
目を白黒させるルクレチア。
フィオ 「ちょっと変わってる人なんだよね、ハハ…」
ピノ 「ちょっと…でいいのかしら」
立ち上がるエルフは、一行を一度見回してから真摯な声で言う。
茶髪のエルフ 「クエストの依頼だ。詳しくはフィオに話してある。報酬は金貨3枚」
ピノ 「高ッ!」
茶髪のエルフ 「想像つくと思うが、それなりにやっかいなクエストだからな」
エルフはカジノを見渡す。
茶髪のエルフ 「もう1人居るんじゃなかったのか?」
ルクレチア 「あ、ルーンの事?
あいつなら銀貨10枚のツケを払いに、ここで少しバイトするって言ってたわよ」
フィオ 「!」
顔を見合わせるエルフとフィオ。
茶髪のエルフ 「ありゃ、うまい具合におとりになったか」
ルクレチア 「ちょっとそれ、どういう意味よ」
フィオ 「まずいよ、ルーンを助けなきゃ」
ピノ 「助けるってガラじゃないわよね」
グレイ 「ピノ、僕達が受けたさっきの話…」
ピノ 「あ、そうね」
グレイ 「うまく聞き出してみよう」