第5話 相手は怪物
シーンA
○船上
甲板の上。
膝を抱えて座り込むフィオ。
ルーン 「だ〜から、俺達はからかわれてんだ。最初のクエストだって、アレスがからんでる。そして今回はグリンだ。奴らギルドを使って裏で糸を引いてるに違いねえ」
グレイ 「たまたまじゃない? 第一なんで僕達が、レインから直にクエストを受けなきゃならないのさ」
ピノ 「ついにあたし達の実力が認められたって訳よ。グレイとあたしでコンビを組めば魔法が使えるって事も証明されたしね!」
ルーン 「その魔法も、発動までに時間がかかりすぎる。第一お前、何種類覚えてるんだ?」
ピノ 「え、ええと…『ファイアーボール』と『エアブラスト』」
グレイ 「そ、それだけ〜?」
ピノ 「だってぇ、サンタマリアの冬は寒いから暖かくしたいと思って…すぐに焚き火が出来るように…」
グレイ 「ハハハ…」
苦笑いのグレイ。
ルーン 「話にならねえな」
グレイ 「とにかく、レインに覚えられてるって事は僕にとってはありがたいけど。こうもすれ違いばっかりじゃ、まともに話もできないし『本当のレイン』なんて分かりっこないよぉ…」
ルーン 「もう分かったじゃねえか。奴らはタヌキだな。人を化かして逃げる」
ピノ 「た…タヌキって」
ルーン 「サンタマリアに居るだろ、そんな動物が」
ピノ 「知ってるわよ、それぐらい!」
フィオ 「タヌキ…レインをタヌキ呼ばわりしちゃうなんて、すごいなルーンは」
力なく笑うフィオ。
グレイ 「恐れ多いの間違いだよ、フィオ〜」
フィオ(M) 「船とか乗り物の類は苦手だ。酔い易いんだよね、オレ…」

フラッシュバック
フィオと話し、笑うアレス。

フィオ(M) 「そういや、アレス王も船酔いするって言ってたっけ」
ルーン 「とにかく、俺はもう二度とレインのクエストなんざ受けねえからな!」
フィオ 「……」
顔を上げるフィオ。

フラッシュバック・第4話
ガイアス 「その剣、誰に師事を受けた?」

顔をうずめるフィオ。
心配そうに覗き込むピノ。
ピノ 「ちょっとフィオ、大丈夫?」
フィオ(M) 「そのレイン…アレス王がオレの剣の師匠だなんて、絶対に言えないなぁ」

○【サブタイトル】




○船上
穏やかな海の上を進む旅船。
フィオ(M) 「シャヌーンを出たオレ達は、レインと同じ旅路を辿りファンジームへ向かう事にした。レインもまた、メンフィスから船でファンジームへと向かったらしい。
この海域で、彼らは海賊船に襲われたそうだけど…」
ピノ 「今時、海賊なんていないわよね〜」
船の上を見渡すピノ。
相変わらず膝を抱えて座り込むフィオ。
傍についているグレイ。
ルーンの姿はない。
グレイ 「他のお客さん、少ないなあ…」
甲板を見回すグレイ。
一行以外に4、5人程の旅人しかいない。
フィオ 「う〜、気持ち悪い」
「おい、そこのガキ」
3人 「!」
声をした方を見上げると、興味深そうにフィオを覗き込む男が居る。
藍色のターバンにマント、そして浅黒く焼けた肌。隻眼。
左の頬に傷がある。
フィオ 「な!」
ピノ 「きゃあ!」
グレイ 「ッ!」
脅えてフィオの頭の陰に隠れるピノ。
グレイはフィオを庇うように立ち、腰の短剣を抜く。
「船に酔ったか?」
グレイ 「ガイアス!」
「はあ?」
素っ頓狂な声。
様子がおかしい事に気付いたのか、グレイは警戒を解く。
フィオ 「…ガイアス、なんでこんな所に…ッ」
「よく分からんが…」
男はグレイの横を通り過ぎ、フィオの肩を抱えて立たせる。
「そんな縮こまってれば、ますます酔うぞ。周りを見ろ!」
笑う男。
「見事な空と海の青のコントラスト。そして心地よい潮風。船はいい」



フィオ 「あんた、ガイアスじゃないのか?」
「はあ? さっきから何を言ってる、このガキは」
フィオ 「が…ガキよばわりするな。オレは女だ、名前はフィオ!」
ピノ 「旅してから一体何度聞いたかしら、この台詞…」
フィオ 「ピノまで〜!」
「ハッハッハ〜、すまなかったな。俺の知っているガキに良く似ていたからな。ついつい…おっと今はガキじゃねえか」
フィオ 「え?」
男(シーザー) 「俺の名はシーザー。シーザー=スカイノーイ。お前達がさっきまで話してた、元海賊だ」
フィオ 「海賊だって!」
自分の剣に手を掛けるフィオ。
グレイ 「待ってフィオ、シーザーさんは…」
フィオ 「ガイアスじゃなくたって、海賊じゃんか!」
ルーン 「おい、お前ら。飯だぞ…」
そこへやって来たルーン。
シーザーに気付く。
ルーン 「ほ、頬に傷だと!」
腰につるしていた神具を握るルーン。
シーザー 「何だ、どいつもこいつも。お前にだって俺と同じような傷があるじゃないか?」
ルーン 「おい、お前ら。こいつは何もんだ!」
ルーンはロッドを構える。
グレイ 「この人はあの飛空挺『レオハルト』の船長だよ」
フィオ 「えッ、『レオハルト』って、聖戦で活躍したレインの旗艦の?」
ピノ 「ど、どうしてそんな人がこんな所に?」
シーザー 「やれやれ、俺も有名になったもんだ。だがあまり大げさにしないでくれよ。もう引退した身分だ」
グレイ 「やっとまともにレインの話が聞ける人に会えた〜!」
シーザー 「レインの話だと?」
ルーン 「俺は先に飯を食うぞ。勝手にしろ」
面白くなさそうに背を向けて、船室へと入っていくルーン。
シーザー 「連れの機嫌を損ねたようだが?」
ピノ 「気にしない気にしない!」
グレイ 「聖戦の英雄譚をぜひ!」
シーザー 「……」
押し黙るシーザー。
暗くなる表情と同期し、空を暗雲が覆う。
見上げるフィオ。
フィオ 「なんか、急に雲行きが怪しくなったな」
シーザー 「どうやら、そんな暇もなさそうだぞ」
フィオ 「どういう意味だ?」
シーザー 「フィオ。俺はこの海域を調べに来た。乗客が少ないのには気付いていたか?」
フィオ 「あ、ああ」
シーザー 「最近嫌な噂を耳にする。この海域で幽霊船が出没するってな」
グレイ 「幽霊船?」
シーザー 「なんだお前達、聞いてないのか?」
フィオ 「知ってた、グレイ?」
首を横に振るグレイ。
グレイ 「ううん。ただ、ダイスさんがこの海路の旅券は最近下がってるから、今がチャンスだって…あ!」
気付いて尻尾と耳を震い立てるグレイ。
目を丸くするフィオとピノ。
フィオ 「それって…」
グレイ 「ハハハ…」
ピノ 「えぇ〜ん、ど〜りで安かったわけだわ!」
海上を眺めるフィオ。
深い霧が立ち込めている、その向こう。
黒い影。
フィオ 「げ、嫌な予感!」
機関室から駆け出してきた船員達。
皆が動揺している。
船員 「シーザー、出やがった。どうする?」
シーザー 「すぐに自由海軍に知らせろ。それからな、小舟を1艘用意してくれ!」
フィオ 「あんたまさか?」
シーザー 「ヤツの化けの皮を剥いでみせるさ」
フィオ 「オレも行く!」
ピノ 「ちょっとフィオ、危ないわよ!」
フィオ 「オレでも少しは役に立つかも」
ピノ 「だったらあのチンピラも連れてきなさい!」
ちょうど、船室からルーンを引っ張ってくるグレイ。
グレイ 「だから、大変なんだってば!」
ルーン 「な〜んの騒ぎだ…って、おい!」
空を見上げるグレイ。
ポツポツと降り出す雨に強くなる風。
グレイ 「雨…」
ルーン 「ありゃ何だ…」
遠方の海上を眺めるルーン。
近付いてくる幽霊船の影は…それは船の影でなく巨大な亀である。
それはフィオの乗る旅船よりも遥かに大きい。
雨はますます強くなる。
フィオ 「か…亀…魔将!」
船員 「あんなに接近してきたのは初めてだ。もうだめだ〜!」
少ない乗員、客員がパニックになる。
悲鳴。
巨大な亀 「クォォォ」
大きく息を吸う音、首を持ち上げるのと共に水面が大きく波打つ。
揺れる船。
グレイ 「ひえぇ!」
ピノ 「きゃあ!」
シーザー 「まずい、船尾から離れろ!」
甲板の上を、マストの方向へ走る一行。
持ち上げられた亀の首が振り下ろされる。
フィオ 「うわ!」
余波による衝撃、船尾が砕け散る。
船が大きく傾き、滑る一行。
シーザー 「チィ、小舟どころの話じゃねえな。行くぞ!」
フィオ 「うん」
ルーン 「お、おい。行くってどこにだ?」
フィオ 「グレイとピノは船の人を頼む。もしもの時は援護してくれ」
グレイ 「分かった!」
ピノ 「気をつけてね」
フィオ 「ほら、ルーン。置いてくぞ!」
ルーン 「だ、ちょ…待て!」
マントと上着を外し、海に飛び込むシーザー。
同じくマントとターバンを外し後に続くフィオ。
ルーン 「あのバカ!」
コートを脱ぎ飛び込むルーン。
荒れる海の波にもまれる3人。
シーザー 「ついてこれるか?」
フィオ 「平気だ、でもどうやって近付けば」
シーザー 「もう少し体を沈めた時だな。見ろ!」
フィオ 「あれは!」
3人の視線の先、甲羅の上に乗る船の残骸。
フィオ 「あれが、幽霊船?」
シーザー 「前々から噂があったんだが。コイツが船を襲うようになったは、つい最近になってからだ」
フィオ 「どういう事?」
シーザー 「それを調べるんだろう?」
雨と風、そして波は強くなる。
フィオ 「でも、あんな所までどうやって登るんだよ…! こんな海、泳ぐだけが精一杯じゃないか」
ルーン 「言わんこっちゃねえだろ、バカ!」
フィオ 「だったらついて来なきゃよかったじゃんか、ルーン!」
ルーン 「お前がッ…勝手に…。あ〜もう、めんどくせえ。捕まれ!」
フィオ 「え?」
シーザー 「な、何!」
蝙蝠の翼を広げるルーン、海から飛び出し右手にフィオの手をとる。
シーザー 「お前は…」
ルーン 「おっさんも黙って捕まれ」
左手をシーザーに広げる。
それを手に取るシーザー。
ルーンは2人を引っ張りながら、海亀の甲羅の上にある船の残骸へと飛び立つ。
2人を降ろし、ゼエゼエと息を切らすルーン。
翼が消える。
シーザー 「お前、魔族か?」
ルーン 「ハアハア、なんだって俺がこんなまね…」
フィオ 「ありがとう、ルーン」
ルーン 「…ったく…」
フィオに礼を言われて視線を逸らすルーン。
シーザーはやや距離をとった旅船を見つめる。
シーザー 「あっちは落ち着いたようだな。自由海軍が来るまでもう少しの辛抱だ」
ルーン 「自由海軍だと?」
シーザー 「俺の古い仲間でな。やはり元海賊だ。どの国にもレインにも属さず、海の魔将退治を専門としている」
フィオ 「グレイ達、大丈夫かな」
ルーン 「人の心配よりこっちの心配だ」
シーザー 「その通りだな。まずはあの船を調べよう」