第5話 相手は怪物
シーンB
○幽霊船の中
脆くなった木の壁を蹴り倒すシーザー。
中から触手が伸びてくる。
シーザー 「チィ!」
フィオ 「どいて!」
ファルシオンでなぎ払うフィオ。
船室を覆いつくすのは、イソギンチャクのような魔将・アネモネの群れ。
フィオ 「うわ、なんて数だよ!」
ルーン 「とにかく、ブッ倒さねえと調べようがねえだろ?」
シーザー 「この船まともに残っている部屋はここしかない。何か手がかりがあるやもしれん」
シーザーもまた己の剣を抜き、魔将の触手をなぎ払う。
シーザー 「あまり時間はないぞ。またこの海亀が暴れだせば、間違いなくあの旅船は沈む」
フィオ 「分かってるって、つッ!」
触手の1本が、フィオの腕を掠める。
ルーン 「『Liberate』!」
光る戦斧の刃。
その触手をなぎ払う。
フィオ 「ごめん」
ルーン 「…ったく、油断すんじゃねえ。血、止めとけ」
フィオ 「……」
斬り込んで行くルーン。
次々に魔将を倒すその姿を、羨望の思いで見つめるフィオ。
フィオ 「ルーンは強いや。全然敵わない」
シーザー 「あいつは、たいした神具の操者だな」
フィオ 「神具…それってレインが聖戦で手にした武器じゃないか?」
シーザー 「ああ。あれはルラが持っていた『星のロッド』に似ている。星のロッドは長剣の刃だったが。
神具は操る者を選ぶ。神具そのものに意思があるからだ。しかし、あれに意思は感じられん。レプリカだな」
フィオ 「どうして神具をルーンが…」
シーザー 「わからんよ。ただ言えるのは、魔族であるあの男がそれを手にしている事実だ。そこに強くあらねばならん理由が、関わっているんじゃないか?」
フィオ 「強くなくちゃいけないワケか…」
シーザー 「終わったみたいだな」
ルーン 「な〜にくっちゃべってるんだ」
全ての魔将を倒したルーン。
刃が消えたロッドを持て余し、トントンと肩を叩いている。
話を逸らすように、フィオは口を開く。
フィオ 「そうだ、早く手がかりを見つけなきゃ!」
シーザー 「手がかりがなけりゃ、あとはこの海亀を倒す方法を考えるだけだ」
フィオは今にも崩れそうな本棚や机を調べ始める。
ルーン 「ごまかしやがって…」
呆れてぼやくルーン。
その視線の先に、日々の入った水槽を見つける。
ルーン 「…船に水槽…? この船でなんか飼ってたのか?」
フィオ 「2人とも見ろ!」
フィオが広げる湿った本。
所々インクがにじんで見えないが、そこにある文章を見つける。
ルーン 「『1651年、6の月12日。最後の大陸であるシャヌーンの港に停泊。ライムへ戻れば私はついに、世界一周の船旅を終えた最初の冒険家となるのだ』…これ航海日誌か?」
シーザー 「1651年…今からもう300年以上も昔の話だな」
フィオ 「『相棒のテトの食料を調達する。この船旅、こいつが居なくては私は寂しさに心が病んでいただろう。たとえ私がこの広大な海を愛していようと、海は私に応えてはくれない。時に嵐から高波となって、私と私の船を襲う。私はこの海の上で思いを共に分かつ相手が欲しかった。旅の途中に甲板に打ち上げられたテトが、私の心の支えとなってくれた。あれほどに小さい、か弱い生き物である彼は私の問いかけを解してくれているのか。食料を与える私の人差し指に頭を乗せる…』」



ルーン 「…!」
水槽に視線を戻すルーン。
顔色を変え、ルーンは水槽に近付く。
フィオ 「『ライムに戻ったその時は、このちいさな海亀を故郷へ戻そう…』…!」
シーザー 「まさか…」
ルーン 「テトだ…」
水槽に手を掛けるルーン。
その手のすぐ下に、消えかかっている共通語『テト』の文字。

とその時、轟音が響き船が揺れる。
フィオ 「うわ!」
シーザー 「始まったか!」
船を飛び出すシーザーと後に続くフィオとルーン。

○幽霊船上
揺れる大亀と幽霊船。
3人は立つのもままならず、伏せる。
フィオ 「テト…」
見上げるフィオの先には首を上げるテトの姿。
虚ろな瞳。
フィオ 「どうしてこんな事に…」
ルーン 「やばい、しっかり捕まれ!」
砲弾がテトの首に当たり、耳を突く爆音。
フィオ 「つッ!」
シーザーが海上を見ると、商船の他に、もう1艘の船が見える。
砲弾はそちらの船から撃たれたらしい。
シーザー 「ようやく登場か、ジェナード…」
フィオ 「シーザー、どうしてテトを攻撃するんだ!」
シーザー 「おいおい。今更何を言って…」
フィオ 「助けられないのか!」
シーザー 「この船は沈んだ。あの冒険家は死んだ。この亀は、それがわからず主と共に旅をしている。…つもりだったんだろう」
ルーン 「それだけだったら、何も問題ねえ」
シーザー 「だがここ最近、コイツは変わった。理由は『囚獄陣』の禁呪だ…、見ろ!」
シーザーはテトの後頭部を指差す。
見入るフィオとルーン。





シーザー 「魔晶石だ。間違いねえ」
フィオ 「テト…」
立ち上がるフィオ。
ルーン 「バカ、よせ! こいつは魔将なんだぞ、人を襲ってる!」
フィオは意を決して、亀に呼びかける。
フィオ 「テトッ! お前の…っ、お前のが好きだったこの海を、荒らすのかぁっ!!」
その呼びかけに、動きが止まるテト。
ルーン 「まさか…そんな」
フィオ 「ルーン、力を貸してくれ!」
ルーン 「……」
左手を差し出すフィオ。
そのフィオの手を無言で取るルーン。フィオの肩を抱え飛び立つ。
シーザー 「あいつら…」
テトの頭へと飛び立っていく2人を呆然と見送るシーザー。

○上空
フィオ 「テト!」
微動だにしないテト。
すぐ目の前に居る、ルーンが抱えたフィオを見据える。
ルーン 「……」
フィオ 「テト…」



フィオは右腕を伸ばし人差し指を差し出す。
しばしの沈黙。
ピシリというヒビの入る音が響く。
シーザー 「魔晶石が…」
後頭部の魔晶石にヒビが入り、砕ける。
同時に、首をもたげるテト。
フィオ 「……」
微笑むフィオ。
フィオの指先に手との頭が触れるか触れないかというところで…そのまま海へと沈んでいく。
フィオ 「え…」
テトの巨体が海に沈んでいく。

○幽霊船上
シーザー 「うお!」
よろけるシーザー。
そのまま海へ落ちる。
シーザー 「ぷっは!」
テトの沈んでいった波間から、顔を出すシーザー。
上空に飛ぶフィオとルーンを見つめる。
シーザー 「なんてやつらだ、あの2人は…」

○上空
フィオ 「テト…」
心配そうにテトの沈んでいった海を見るフィオに対し。
ルーン 「帰ったんだろうよ、あの冒険家も『故郷へ戻す』って言ってたし。手間が省けたな」
と、言い終えたと同時に。
ルーンはフィオを離す。
フィオ 「うわあ〜!」
ボチャンと落ちるフィオの体。
浮きあがり、顔を出して上空に飛ぶルーンを睨む。
フィオ 「いきなり何すんだよ、ルーン!」
ルーン 「……」
ルーンは海面すれすれまで降りてきた後に、その翼をしまう。
海に浸かるルーンの体。
ルーン 「あの格好は目立つだろうが、ったく。これでカジノの借りは返したからな」
フィオ 「もしかして銀貨10枚分? アハハハ」
笑うフィオ。

○海上
その様子を少し離れた所から見ていたシーザーは、思いついたように笑う。
シーザー 「フ…ハハハ…ハッハッハッハ〜、そういうことか。そういうことなんだな、タケル!」

フラッシュバック・LEGEND第5話
キラー・フィッシュを倒した後の海に浮かぶタケル、マーハ、シーザー。
笑顔。




シーザー(M) 「だが、その後お前自身はどうするつもりなんだ…」
一瞬見せるシーザーの苦しげな表情。
自由海軍の男 「シーザー、無事か!」
3人が声のするほうを見上げると、そこには軍船の上から手を振る男の姿。
すぐに、おおらかに声を返すシーザー。
シーザー 「おう、ジェナード久しぶりだな!」

○自由海軍・船上
夕焼け、ファンジームの大陸がうっすらと映る。
シーザーと対峙する、4人。
シーザー 「悪いが、レインの真実は第三者の俺が口にする事じゃない」
ピノ 「何よ、ちょっとは教えてくれたっていいじゃない。ケチ!」
グレイ 「そうですか…」
シーザー 「彼らに直接聞き、己で事実に向き合い、確かめるがいい。時は必ずくるだろう」
ルーン 「だから、言っただろ。結局俺達は、レインが敷いたレールの上に乗ってるんだよ。うまい様に旅をさせられてんだ」
フィオ 「アレス王には何か考えがあって、俺達にクエストをくれたんだよ」
ルーン 「最初っからそうだが、お前。随分アレスを庇うんだな」
フィオ 「それは…」
シーザー 「レールから降りるかどうかはお前の自由だ、ルーン」
ルーン 「!」
シーザー 「だが、お前はレインに言ってやりたい事があるんじゃないのか?」
ルーン 「!」
図星なのか目を見開くルーン。
シーザー 「レインもそうだが、ラシューヌ神についても知る必要があるだろう。これは俺が与えられるヒントだ」
ピノ 「ラ…ラシューヌ神…?」
グレイ 「ルラマーハ様?」
シーザー 「じゃあな」
小さく手を振るシーザー。
ジェナードの方へと歩いていく。
待っていた様なジェナードはシーザーに声掛ける。
ジェナード 「話は終わったか?」
シーザー 「ああ」
ジェナード 「随分久しぶりだが、元気にしていたか?」
シーザー 「そういうお前こそ。あの入れ込んでたお嬢ちゃんはどうした?」
ジェナード 「聞いているのはこっちだ。全く連絡もせずに…」
シーザー 「今はサンドラとアルティマでのんびりやっている。おお、そうだ…」
満面の笑みのシーザー。
シーザー 「実はな、今度ガキが生まれるんだ。落ち着いたら会わせてやろう」
ジェナード 「ふ…親ばかめ」
ニヤリと笑うジェナード。

去っていくシーザーを見送る一行。
グレイ 「なんだかうまくごまかされちゃった気がするなあ」
ルーン 「だから言っただろうが、レインもレインに関わるあ〜いう野郎共もタヌキだって事だ」
グレイ 「フィオ。ルーンは本当にあの幽霊船でシーザーさんに失礼な事しなかった?」
フィオに尋ねるグレイだが、フィオは去っていくシーザーの背中を見つめる。
聞いていない様子。

フィオの回想
フィオの頭をポンポンと撫でるシーザー。
シーザー 「お前は本当に似ているな、あのガキに。おっと、今はガキじゃねえか…」
笑うシーザー。
シーザー 「お前は守るものに全てを賭ける。だがな、フィオ。お前自身を壊すなよ…」
どこか寂しげに微笑む、その表情。

フィオ(M) 「シーザー…」
グレイ 「フィオ、フィオってば?」
フィオ 「ん、あっ。ああゴメン。聞いてなかった」
ルーン 「な〜にボッとしてるんだ」
グレイ 「まだ船酔い?」
フィオ 「あ、そういえば…う!」
口を塞ぐフィオ。
ピノ 「思い出させるもんじゃないわよ、グレイ!」
グレイ 「気が紛れてた方が良かったかぁ…ハハハ」
フィオ 「何でだろ、さっきまですっかり忘れてたのに…うぇ…」
ブツブツと呟きながら座り込んでしまうフィオ。
ピノ 「ほら、立ちなさいってばフィオ。もうすぐファンジームに着くわよ。ミッフィー様に会える事を期待しましょ!」
ルーン 「お前ら本当にこりねえな…」
グレイは言いづらそうに小さく呟く。
グレイ 「そのミッフィー様なんだけど…もうずっと、行方不明って話なんだよね…」
他3人 「えぇ?」

To be continued…
LEGEND =Questers=