第7話 だって好きだし
シーンA
○ファンジームの街道
道を歩く一行。
グレイの横にぴったりと並ぶリリファン。
楽しそうに話しながら、時折グレイの腕に抱きつく。
その様子をフィオの肩から、ふ〜んと眺めるピノ。
ピノ 「リリファンはグレイにつきっきりよね〜。なんかイイ感じ」
グレイ 「からわかないでよ、ピノ」
リリファン 「それはウチがグレイはんに一目ぼれしたんです」
一同 「ええっ!」
一行は立ち止まり、フィオとピノは吃驚して目を丸くする。
ルーン 「お、グレイ。おめでてえこったな」
棒読みのルーン。
からかうようにニヤリと笑う。
グレイ 「ちょ、ちょ、ルーンまで!」
顔が真っ赤になるグレイ。
その場を逃げ出すように、先へと走り出す。
リリファン 「ああ、待とうてな、グレイは〜ん!」
追いかけるリリファン。
歩き出すルーン。
まだ、目を丸くしたままのフィオ。
フィオ 「そうか、リリファンはグレイが好きなんだ…」
しみじみと呟くフィオ。
ピノはその様子に呆れる。
ピノ 「『好きなんだ』って…フィオはどうなのよ?」
フィオ 「え、オレ?」
ピノ 「ふう」
溜め息をつくピノ。
やれやれと首を振り肩を竦める。
ピノ 「フィオには嫌いなヤツなんていないのよね」
ルーン 「お〜い、お前ら。何ぼっとしてるんだ」
先を歩いているルーンがフィオ達に振り返る。
ピノ 「ちょっと、待ちなさい〜!」
フィオ 「……」
フィオは考え込みながらも、トボトボと歩き出す。
フィオ(M) 「別に親父とアイツは嫌いじゃないし。だから、好きなんだよな。『好き』って…何なんだろ?」

○【サブタイトル】




○マラカンド・宿
冒険者の店、宿でくつろぐ一行に、興奮するグレイが部屋に入ってくる。
グレイ 「大変だよ、みんな。『獅子の翼』がこの街に公演に来てるって!」
フィオ 「獅子の翼?」
グレイ 「そうだよ、あの有名な旅芸人一座『獅子の翼』さ!」
ピノ 「『獅子の翼』って言ったら…超一流の芸人団って話よね」
リリファン 「麗しの舞姫、サンドラが座長をしてはるって聞いてます」
ルーン 「座長が踊り子かよ。ようするに何でも有りなんだな」
グレイ 「サンドラさんはもう引退しちゃったそうだけど、今はその弟子のシルクレストさんが座長を務めてるらしいんだ。僕達芸人の憧れなんだよ、『獅子の翼』は!」
ピノ 「つまり、観にいきたいのね…グレイは」
グレイ 「もちろん!」
ピノ 「無理よ、もうお金が残り少ないんだから」
グレイ 「え…」
きっちりと言い放つピノに、ガックリと項垂れるグレイ。
その様子を見かねたリリファンが笑う。
リリファン 「なら、ウチが出します」
グレイ 「え?」
リリファン 「ウチは、村から預かってるお金が残うとりますので。使こうて下さい」
ルーン 「おい、それって村の金なら横領だろうが」
ルーンは呆れて小声で呟く。
グレイ 「ダメだよ、リリファン。そんなお金ならきちんと持ってなきゃ」
グレイは背中にマンドリンを担ぐ。
グレイ 「大丈夫だよ、ちょっと稼いでくるから。ごめん、みんな。クエスト探しは任せたよ」
部屋を出て行くグレイ。
リリファン 「ああ、待とうてな、グレイは〜ん!」
やっぱりグレイの後をついて行くリリファン。
ルーンはまた呆れたように呟く。
ルーン 「おいおい、これからその超一流とかやらの旅芸人が来るのに稼げるのか?」
フィオ 「…なあ、ピノ?」
フィオは何かを言いたい様に、ピノを見る。
ピノ 「う、何よう。パーティーの財布を握らせたのは、みんななんだからね!」
ルーン 「アイツ一人分くらいはどうにかなるんじゃねえの?」
フィオ 「ルーンもたまには優しいこと言うじゃん」
ルーン 「待て、何だその言い草は」
ピノ 「あ〜ん、分かったわよ。あたし一人悪者にしないでちょうだい。チッ、当分最低ランクの宿だわ。みんな今日中に、とっととクエスト探すのよ!」
とブツブツ呟いていた所に、部屋の扉を叩くノック音。
フィオ 「あ、どうぞ」
入ってきたのは虎の獣人・セイクレッド。
たどたどしい言葉を話す。
セイクレッド 「すまない。クエスト、探してる冒険者だと聞いた」
フィオ 「あ、ああ」
ピノ 「なになに、もしかしてクエスト〜?」
セイクレッドに飛びつくピノ。
セイクレッドは小さく驚く。
セイクレッド 「妖精、久しぶりに見た」
ピノ 「あら、その反応も久しぶりよ! って『久しぶり』? じゃあ見た事あるわけねッ!」
さらに嬉しそうなピノ。
セイクレッド 「フォウリー。死んでしまった」
ピノ 「そ、そう…」
顔を伏せるセイクレッドに、しょんぼりとするピノ。
フィオ 「あの、ピノに何か用なのか?」
セイクレッド 「違う。クエスト、頼みに来た」
ピノ 「クエストですって!」
『クエスト』という言葉にピノは一転、喜び飛び回る。
ルーン 「で、何のクエストなんだ?」
セイクレッド 「座長と踊り子の仲を取り持って欲しい。報酬は…」
と、言いながらセイクレッドは胸元から紙切れを出す。
セイクレッド 「うちの公演チケット」
チケットの表書きには『獅子の翼』とある。
ピノ 「『獅子の翼』って、ちょっとお。ラッキーじゃないの!」
フィオ 「待てよピノ。仲を取り持つって…」
セイクレッド 「2人ケンカしてる。仲直りさせて欲しい」
ルーン 「おい、どう考えても俺達がやるようなクエストじゃねえだろうが。興味ねえぞ、んなの」
ピノ 「!」
ピノはルーンをギロリと睨む。
ピノ 「贅沢言ってるんじゃないわよ、滅茶苦茶ラッキーじゃないの。ただ、座長と踊り子をくっつければいいだけの事でしょ!」
フィオ 「そんな、簡単にいくのかなぁ」
セイクレッド 「簡単にいかないから、俺が来た」
フィオ 「だよな」
ピノ 「と・に・か・く。獅子の翼へ行くわよ、2人とも。話を聞かなきゃ始まらないわ!」
フィオ 「う、うん…」

○同・広場
座りながらチューニングをするグレイ。
懸命なその姿を、膝を抱えてまじまじと見つめるリリファン。
リリファン 「グレイはんは本当に一生懸命ですなあ」
グレイ 「どうしても見たいんだよ。あの『獅子の翼』だからね」
リリファン 「ほんまは、それだけとちゃいますやろ?」
グレイの手が止まる。
グレイ 「リ、リリファン?」
リリファン 「『獅子の翼』の団長・シルクレスト。それに看板ダンサー・クルエ。あとはセイクレッドやったけな、あのレオハルトのクルーですやん」
グレイ 「うわぁ、リリファンはするどいな」
苦笑するグレイ。
リリファン 「伊達に巫女はやっとりません」
グレイ 「その第六感とはちょっと違うと思うけど」
リリファン 「グレイはんはこの間の事、何も覚えてらんのですか?」
グレイ 「この間?」

フラッシュバック・第6話
グレイの前に現れる3匹の精霊。




グレイは頭痛に眉をひそめる。
グレイ 「うん、リリファンは僕が聖獣だって言ったよね」
リリファン 「はい、みなはんには内緒ですよ」
グレイ 「内緒って、そんな大嘘つけないよ」
リリファン 「嘘なんかじゃありません」
グレイ 「とにかく…」
グレイはチューニングを終えて、立ち上がる。
グレイ 「一人でも多くの人に聞いてもらって、お金を貰わなきゃ!」
リリファン 「ウチも手伝いますよ」
リリファンは背中から1本の縦笛を取り出す。






グレイ 「それ…?」
リリファン 「……」
リリファンは笛を演奏する。
その音色に聴き入るグレイ。
リリファン 「ケーナっていいます。うちも一緒に演奏したかてええですか?」
微笑むリリファン。
一瞬魅入るグレイ、そして微笑み返す。
グレイ 「もちろん!」
と、近付いてくる1人のエルフの男。
エルフの男 「な、お前ら」
グレイ&リリファン 「?」
演奏を止めて、2人はエルフの男を見上げる。
エルフの男(シルクレスト) 「俺、シルクレストってんだけど。よかったらウチの一座に来てみないか?」
グレイ&リリファン 「……」
2人は顔を見合わせる。
グレイ&リリファン 「ええ〜!」
素っ頓狂な驚きの声を上げる2人。

○獅子の翼・テントの中
金髪のエルフ・クルエの前に立つ、フィオとルーン、フィオの肩のピノ。
クルエ 「で、あんた達はセイクレッドに頼まれて、あたしとシルクレストを仲直りさせようってワケ?」
ピノ 「そ、そうよ!」
クルエ 「飽きれた…」
ピノ 「飽きれた…って」
大きく溜め息をつくクルエは、ピノのおでこを人差し指でつつく。
クルエ 「同じ妖精でもフォウリーとは大違いね。他人にどうこう言われる筋合いは無いわ。シルクレストとは…あのおバカとは子供の頃からの付き合いなんだから」
フィオ 「そんな昔から一緒に居るのに、なんで今更ケンカなんかするんだよ」
クルエ 「幼馴染なんてそんなもん。恋愛対象になんてみられやしない」
ピノ 「れ、恋愛って?」
クルエ 「全部、惚れたはれたの色恋沙汰よ。もういい加減、あたし疲れたの。大体あのおバカの方から、あたしはクビだっていうんだから」
目が潤むクルエ。
クルエ 「あのおバカ、分かってないのよ。あたしがどうして踊り子になろうと思ったのか、サンドラを追って村を出た時になんであたしまで旅芸人になったのか、命かけてまでオペレーターやった理由なんて分かっちゃいないのよ!」
バンと机を叩くクルエ。
そして、涙目を擦る。
クルエ 「あたしも清々するわ。あいつの言うとおり、この街の貴族と結婚して幸せになってやるんだから!」
フィオ 「ちょ、ちょっと待てよ。貴族と結婚って…」
クルエ 「ここのね、ボロニアっておっさんからプロポーズされてるのよ。どういうつもりかしらないけど、そいつと結婚した方が幸せになれるからいつまでも踊ってる必要ないってね」
フィオ 「そんなの、シルクレストの本心なワケないじゃんか!」
クルエ 「あんた達、いい加減にしないと一座総出で追い出すわよ!」
フンと、そっぽを向くクルエ。
フィオは苦々しくピノの顔を見る。
ピノ 「仕方ないわ、出直しましょ」
ルーン 「行くぞ、フィオ」
フィオ 「でも…」
ルーン 「今何を話しても聞き入れやしねえよ、その女は」
クルエ 「フン、余計なお世話だって言ってるじゃない! …ッ」
と言いながら、顔を俯くクルエ。
瞳の端が光る。
フィオ(M) 「涙…?」
申し訳なさそうに、テントを出て行くフィオ。

○同・宿
宿に戻る一行。
リリファン 「ということで、ウチとグレイはんは『獅子の翼』にスカウトされてまいました」
ピノ 「はあ?」
グレイ 「もちろん、丁重にお断りするつもりだけど。チケットは貰っちゃった!」
と、5枚のチケットを皆に見せるグレイ。
フィオ 「な、なんで新しい人を雇おうなんてしてるんだ!」
ルーン 「そりゃ、クルエが抜けた分の穴埋めだろ?」
フィオ 「何考えてるんだよ、シルクレストは! 幼馴染って…幼馴染ってそんなに冷たいもんなのか!!」
リリファン 「ちゃうで、フィオはん」
フィオ 「?」
訝しげにリリファンを見るフィオに対し彼女はニッコリと笑う。
リリファン 「シルクレストはんは好きな人に幸せになって欲しいんと思うとるねん」
フィオ 「好きな人に?」
グレイ 「一座の花形スターが、既婚となれば人気は落ちる。これは僕達の世界じゃどうしようもない現実なんだ。多分シルクレストさんは、芸人の自分と結婚するぐらいならって身を引いたんじゃないかな?」
ピノ 「シルクレストがクルエに気があるとは限らないわよ」
リリファン 「嫌いな人と、村出てずっと旅芸人して暮らしますやろか? まして2人は命張ってレオハルトにも乗ったお方ねんで。聖戦が終わった後も、やっぱり2人でサンドラの後継いで旅芸人しとる。答えは出とりますがな」
ルーン 「惚れた人間と…」
ルーンが重く口を開く。
ルーン 「惚れた人間と一緒になって…家族を持つ…それが幸せなんだろうがな…そうはいかねえ時もあるってことだ」
グレイ 「ル、ルーン?」
ピノ 「何よ、急にらしくないわね」
ルーン 「……」
黙るルーン。
フィオは何かを決意し立つ。
フィオ 「グレイ!」
グレイ 「う、あ、ハイ!」
いきなり呼ばれて吃驚するグレイ。
フィオ 「シルクレストの居場所知ってるんだよな!」
グレイ 「うん、これから返事をしなきゃいけないし…」
フィオ 「行くぞ!」
グレイ 「え、ああ〜!」
腕を引っ張られるグレイ。
引きずられるようにして部屋を出て行く。
ピノ 「あ、ちょっと。待ちなさい〜!」
追いかけ飛んでいくピノ。
部屋に取り残されるのは、ルーンとリリファン。
ルーン 「ったく、あいつは思いついたらすぐに突っ走りやがる。
そういやリリファン。お前はいつもみたいに、グレイに引っ付いていかないのか?」
リリファン 「惚れた相手と家族を持つ。幸せやと思いますけど、なかなか実際の結婚生活はそういかへんで〜」
うっ、と引き気味ルーン。
ルーン 「やけに現実を言うな、お前」
リリファンはニッコリと笑う。
そして背中から藍色の水晶球を取り出す。
リリファン 「今日はな、ルーンはんのお告げを聞こうと思うてるねん」
ルーン 「よ、よせ。お前の占いはろくな当り方しねえじゃねえか!」
リリファン 「ほないきまっせ〜」
ルーン 「待て、お前。何も言うな!」
リリファンはじっと水晶球を見つめる。
リリファン 「女難の相が出とりますがな〜」
ルーン 「女難ならもうお前らで十分だ!」
リリファン 「恋愛に転帰ありでっせ。ずうっとずうっと昔に別れた運命の人と再会できます…」
ルーン 「……」
黙るルーン。
笑うリリファン。
ルーン 「ケッ、バカバカしい!」
近くの椅子に座るルーンは足を組む。
呟き。
ルーン 「そんな占い。当りやしねえよ」