第9話 誰がヒーロだ
シーンA
○フェルラーラの街・闘技場舞台(アレーナ)
フィオは対戦相手に剣を振り下ろす。
対戦相手の眼前で止まる切っ先。
立ちすくむ相手は参加登録の際に言い争った大男である。
大男 「そ、そんな…この俺が…」
審判 「勝者・フィオ!」
フィオ 「やりぃ!」

○同街・闘技場観客席
一斉に沸く観客の歓声。
シャイン 「すごいですねぇ…フィオさん!」
グレイ 「次は決勝か…、このままだと本当に優勝できちゃうかもね!」
ルーン 「あいつだったら、いけるんじゃないのか?」
ピノ 「なによう、ルーンが出れば確実だったのに」
小さく溜め息をつくルーン。
ピノ 「それを見せびらかしたくないんでしょ?」
ピノはその視線を腰の神具に移す。
ルーン 「それもあるが、あの野郎…」
ルーンは貴賓席に座る貴族の男をみつめる。
ルーン 「あれが、ただ単に闘技を楽しんでるツラか?」
ピノ 「……」
他一行は同様に貴賓席を見つめる。
バルナギーゼ、その表情。



グレイ 「違うよね…なんていうか…」
シャイン 「見定めている」
ルーン 「だな。前年までの優勝者はどうしてるか聞いたか?」
ピノ 「さ、さあ…去年はルビーの杯を持って帰ったって話だけど」
ルーン 「そおじゃねえだろ。4年前に優勝したリュート=クライシス。そいつの時、主催はウォレット家じゃなかった。翌年からウォレット家。以来、優勝者は皆あいつの部下だ」
ピノ 「はぁ?」
グレイ 「まさか、八百長ってこと?」
ルーン 「いや、ウォレット家と関係ねえ奴もいたらしいが、結局そいつも奴の家に入った。つまりだ…」
シャイン 「バルナギーゼ卿は腕の立つ者を集めている…という事ですね」
ルーン 「ご名答。だいたいな、大金が動く話には裏があるんだ、それ位調べておけっての」
ピノ 「でもさ、そんなのフィオが『家来になりません』って断ればいいだけの話じゃない」
グレイ 「確かにね、ただ断るだけで済めばいいけど」
肩を竦めるルーン。
ルーン 「お前らは、すっかりあいつが優勝する気分で居やがるんだな」
ピノ 「そういうルーンだって、そう思ったからあんたにしては珍しく色々と調べたんでしょ」
ルーン 「んだと! 俺はたまたま…偶然噂話を耳にしただけだッ!」
シャイン 「あの〜」
シャインは首をかしげる。
彼女に振り返る他3人。
シャイン 「でしたら、なぜ。バルナギーゼ卿は強い人間を探すのでしょう?」
ピノ 「はぁ?」
ルーン 「そんなの、知ったこっちゃねえ」
グレイ 「とにかく、ルーンは出なくて正解だったかもね。ルーンの神具を見たら、きっと欲しがるに違いないし、それに魔族だって分かったら…」
ルーン 「ッ!」
グレイ 「ご、ごめん」
苦笑するルーン。
ルーン 「それはお前にも言えることだろうが。聖獣で、妖精のおまけ付きと知られたらな」
ピノ 「ちょ、ちょっとお! 『おまけ』って何よう!」
シャイン 「……」
シャインは準決勝に備え、軽く剣を振るうアレーナのフィオを見つめる。
シャイン(M) 「フィオさん…」
そしてゆっくりと、遠方の貴賓席に座るバルナギーゼへと視線を移す。
シャイン(M) 「あれは…深き悪夢に苛まれるものの瞳…」

○同街・闘技場舞台(アレーナ)
剣を持ち立つフィオ。
対戦相手として現れるのはジャキィスである。
フィオ 「やっぱし、あんただったんだ」
笑うフィオは、楽しそうに剣を構える。
審判 「決勝戦。フィオ対ジャキィス!」
ジャキィス 「手加減はせんぞ、じょーちゃん」
フィオ 「されたら怒る」
ジャキィスも剣を抜く。
審判 「はじめ!」
フィオ 「ッ!」
ジャキィス 「!」
互いの剣がぶつかり合い鍔迫り合い。
小声のフィオ。
フィオ 「オレの正体。秘密で頼む」
ジャキィス 「ふむ」
剣を強く打ち、間合いを空けるジャキィス。
ジャキィス 「その方がいい。名は伏せておけ。実の所、ライアスに戻った方が身のためだぞ」
フィオ 「今もどる訳には行かないんだ、ルーン…ルーンの世界を変える為に、世界一の剣士になるんだから!」
ジャキィス 「ほほう、そのルーンってのは?」
フィオ 「ああ。オレの仲間だ!」
ジャキィス 「ならば、この武術大会で勝つ必要はないな」
再び剣を振るう2人。
ジャキィス 「俺はあそこで偉そうに座ってるヒゲに用がある。だからな、ここで勝たなきゃならんのさ」
フィオ 「あんたもヒゲ親父じゃん」
ジャキィス 「じょーちゃんに親父と呼ばれるのは嬉しいねぇ」
フィオ 「茶化すなよ。あんた何者だ!」
ジャキィス 「はぁん?」
フィオ 「どっかであった事あるような気がする。だから思わず、本当の事を言ったんだ。それに、半端じゃなく強い」
ジャキィス 「そりゃ奇遇だな。俺もじょーちゃんによく似た人間を知ってる」
フィオ 「何だって?」
一度離れる2人。
剣を止める。
ジャキィス 「フィラデルフィア=ルナル。お前のおふくろさんだ」
フィオ 「え…」
フィオが気をとられるその隙に、ジャキィスはフィオの剣を強く打つ。
弾かれるフィオのファルシオン。
フィオ 「あ…」
ジャキィス 「闘いに余所見は禁物だぞぉ」
フィオ 「う…ずりぃ〜!」
審判 「勝者…ジャキ…」
ジャキィスに飛びかかるフィオ。
ジャキィスは驚きよろけ、帽子が落ちる。



ジャキィス 「んお…」
フィオ 「あ…」
審判 「ま…魔族だ…」
日に照らされたジャキィスの浅黒い肌と尖った耳。
審判は畏怖の声を上げる。
審判 「魔族だ〜!」
慄く審判。
そしてざわつく観客席。
ジャキィス 「しまったな、ばれたか」
フィオ 「ジャキィス、あんた…」

○同街・闘技場観客席
ルーンは驚いてアレーナを見る。
ルーン 「ま、魔族だと…」
ピノ 「ちょ、ちょっと。まずいんじゃない、これ…」
グレイ 「あ、いけない!」
グレイは石を投げようとする観客を見つける。

○同街・闘技場舞台(アレーナ)
観客席から投げられる石。
観客 「魔族め、出て行け〜ッ!」
観客 「汚らわしい、魔族め〜ッ!」
次々に投げられる石、ゴミ。
フィオは信じられずに、投げられた石を見つめる。
フィオ 「なんで…あんたら…ジャキィスは優勝したんだ、なんで石なんか投げるんだよ!」
ジャキィス 「バカ、危ない!」
フィオ 「!」
フィオを庇うジャキィス。
ジャキィスのこめかみに、石が当たる。
フィオ 「ジャキィス!」
ジャキィス 「やれやれ、俺の作戦が台無しだ」
フィオ 「ジャキィス…ごめん、ジャキィス…」
ジャキィス 「ずらかるぞ、フィオ」
フィオ 「え…」
フィオを庇いながら、立ち上がるジャキィス。
と、そこで闘技場に響くバルナギーゼの声。
バルナギーゼ 「静まれッ!」
フィオ 「!」
その迫力のある声にシンとなる闘技場。
声の主、バルナギーゼへと観衆の視線が集まる。
貴賓席より立つバルナギーゼ。
バルナギーゼ 「此度の武術大会決勝。勝利したジャキィスは規定外とみなし、優勝者はそこの少年剣士『フィオ』とする」
フィオ 「え…どうして!」
ワアアアァァァァッッッッ〜〜〜〜と沸く歓声。
フィオ 「そんなの嘘だ!」
フィオの文句は歓声にかき消される。
そんなフィオをなだめるジャキィス。
ジャキィス 「なあ、じょーちゃん。あのヒゲ。お前のこと、少年剣士とかぬかしやがったなぁ〜」
笑うジャキィス。
冗談を言うジャキィスにフィオは怒る。
フィオ 「そんなの、どうだっていいだろ。ジャキィスは、優勝したくてこの武術大会に出たのに…」
ジャキィス 「剣の強さは力技とは限らんさぁ、フィオ。お前は十分に強い」
フィオ 「え…」

フラッシュバック・アレス王
アレス 「フィオ、剣で強くある事の真を教えよう」

フィオ(M) 「アレス王と同じことを…」
ジャキィス 「ふむ、じょーちゃんは気が強い」
フィオ 「ジャキィス、冗談言ってる場合じゃないだろ!」
ジャキィス 「んなあ、フィオ。この俺がち〜っとでも哀れだと思うんなら、頼みがあるんだが…」
フィオ 「?」

○同街・ウォレット家館
館の来賓室に招待される5人。
フィオはブスっとした顔で、バルナギーゼを見上げる。
豪奢な椅子に座るバルナギーゼは、フィオを一瞥する。
バルナギーゼ 「若いのに、たいしたものだな。フィオといったか」
フィオ 「別に、ジャキィス以外の相手が弱いだけじゃん」
バルナギーゼ 「優勝者の栄誉をたたえ、我が蔵にある宝から望むものを1つ、持っていくが良い」
はしゃぐピノ。
ピノ 「これよ、これを待ってたんだわ。とっととお宝頂いてこんな街、おさらばしましょ」
バルナギーゼ 「可憐な妖精とは程遠い言葉だな。簡単に持ち去られては困るのだよ」
強い口調でピノを睨むバルナギーゼ。
ピノ 「!」
ピノは一瞬竦んだ後、グレイの頭に隠れてギロリと睨む。
ルーン 「おい、フィオ…」
フィオ 「分かってる。でもさ、ルーン。これだけは頂いていかなきゃならないんだ。後でゆっくり選ばせてもらうよ、バルナギーゼ卿」
バルナギーゼ 「時に、フィオ。わしに仕える気はないか?」
他4人 「!」





フィオ 「オレは魔族だからって差別するようなあんたには、仕えるつもりはない」
バルナギーゼ 「何だと!」
ルーン 「お、お前…」

インサート・フィオの回想
夕暮れ。
稽古の後、フィオに向くアレス。
アレス 「フィオ…、剣の強きは技でなく…己が心にある」
寂しく微笑むアレス。
アレス 「いつかお前にも、わかる時がくるだろう…」

フラッシュバック・フィオの回想
幼いフィオを助けるルーン。
フィオ 「オレは…」

フィオ 「オレはオレが尊敬する奴と一緒に居たい!」
はっきりと言い放つフィオ。
バルナギーゼ 「わしの誘いを断るとは…」
フィオ 「今…オレの尊敬するヤツは、すぐ近くにいるから」
笑うフィオ。
グレイ、ピノ、シャインはルーンの顔を見上げる。
ルーン 「…バカが」
顔を赤らめるルーン。
対する、怒りの表所を露にするバルナギーゼ。
バルナギーゼ 「よかろう。宝を選んだ後は、早々に出て行け。その顔、二度と見せるなよ!」

○同街・ウォレット家蔵
宝物庫、フィオは帽子を深く被ったジャキィスを手招きする。
ジャキィスに続いて、グレイとピノ、シャインが入ってくる。
フィオ 「ほら、ジャキィス。こっちこっち」
ピノ 「ちょっと〜、フィオ。本気なの?」
グレイ 「フィオらしいっていえば、そうだよね」
シャイン 「他のクエストでも探しましょう。アルティマは広いですよ」
ピノ 「あ〜あ〜、勿体無い!」
ジャキィス 「悪りいな、おチビちゃん達」
ピノ 「ほら、とっとと探しなさいよ!」
ジャキィス 「ほいほい〜」
鼻歌交じりに宝を物色するジャキィス。
ピノ 「優勝者の権利…譲渡しちゃうなんてね〜」
フィオ 「でも、ジャキィスは一体何を探してるんだ?」
物色していたジャキィスはその手が止まる。
ジャキィス 「あったぞ、じょーちゃん!」
フィオ 「!」
ピノ 「何かしら何かしら、きっととんでもない宝物なんだわ!」
4人の元に戻ってくるジャキィス。
その手には小さなペンダント。
ピノ 「何よこれ、豪華な宝石一つもついてないじゃない」
グレイ 「ただのペンダントだよね?」
フィオ 「これは…」
心当たりのあるフィオは、ジャキィスを見上げる。
シャイン 「何かご存知なのですか、フィオさん」
ジャキィス 「楔の紋章だろう…」
フィオ 「親父の…何でこれがこんな所にあるんだ?」
ジャキィス 「ルナル家の方…フィアのもんだ」
フィオ 「だって、おふくろは死んだんだ。もうずっと前に…」
遠くから駆け足。
慌てた様子のルーンが宝物庫に入ってくる。
ルーン 「おい、お前ら。そろそろ奴らが戻ってくるぞ。そいつを連れて…ん?」
ジャキィス 「お前は…」
驚いて目を見開くジャキィス。
フィオ 「こいつがルーンだよ、ルーン=アクス。ほら話しただろ、オレの仲間だ」
ルーン 「なんだ、おっさん。人の顔ジロジロ見やがって」
ジャキィス 「その頬の傷はどうした?」
ルーン 「はぁ、またかよ。赤ん坊の頃に引っ掻かれたらしいぜ。覚えちゃいないけどな」
ジャキィス 「そうか…」
ルーン 「なんだよ、おっさん。俺はお尋ね者のガイアスじゃねえぞ」
ジャキィス 「ふむ、じょーちゃん」
おどけて笑うジャキィスは、手にあるペンダントをフィオの首にかける。
ジャキィス 「これは、お前が持っているといい」
フィオ 「え、だって。これはジャキィスが…」
ジャキィス 「ここにあった、という事実が知りたかっただけだ。ほいじゃあ、達者でなぁ。じょーちゃん」
スタスタと扉へと歩いていくジャキィス。
フィオは呆然としてその後ろ姿を見つめる。
ルーンとすれ違うジャキィス。
小さく呟く。
ジャキィス 「アクス、命を懸けてフィオを守れ」
ルーン 「!」
驚き振り返るルーン。
しかし、いつの間にかジャキィスの姿はない。

○同街・ウォレット家館
真夜中の地下室。
書斎らしい部屋を物色するジャキィス。
ジャキィス 「クソ…」
引き出しを片っ端から開け、本棚を漁る。
ジャキィス 「ったく、他に痕跡の一つでも残ってりゃあと思ったが。ぐッ!」
背中から刺されるジャキィス。
振り返るその先に、剣を抜く男・ガイアス。
地下室に入ってくるのは、バルナギーゼ。



バルナギーゼ 「何事だ、ガイアス?」
ガイアス 「ネズミが一匹、忍び込んだようです」
ジャキィス 「くそう…」
バルナギーゼ 「フッ…貴様、昼間の魔族か…」
膝を突くジャキィス。
息は荒い。
ジャキィス 「くッ」
ガイアス 「いかがなさいます、閣下」
バルナギーゼ 「殺すな。ルナルの姫を調べていたのなら…楔の対に関して何か知っているやもしれん」
ニヤリと笑うジャキィス。
ジャキィス 「ばらすかよぉ〜」
突如立ち上がるジャキィスは、煙幕玉を投げる。
ガイアス 「何!」
煙に巻かれる地下室。
ジャキィス 「俺はトレジャーハンターだからな。宝のない館には用はない、あばよッ!」
響く、ジャキィスの声。
煙の晴れた地下室には、ジャキィスの姿はない。
床に流れたジャキィスの血。
ガイアス 「!」
バルナギーゼ 「逃がしたか…。此度の宴…一つとして力を手にする事は出来なかったな…」
ガイアス 「ソレントに手のものを向けてあります」
バルナギーゼ 「ソレントだと?」
ガイアス 「レインを望む者達に…希望を…」
バルナギーゼ 「フッ…」
笑うバルナギーゼ。
バルナギーゼ 「わしが欲しいのは力だ。レインに勝る力…」

フラッシュバック・バルナギーゼの回想
ライム城でのアレス王との謁見。
玉座に座るアレスの前に膝を着くバルナギーゼ。
その彼に、アレスは静かに言う。
アレス 「すまないが、レインを決めるのは俺ではない」

バルナギーゼ 「フン…若造が…」
憎しみを込めて呟くバルナギーゼ。

○同街・宿
夕食の団欒。
グレイは地図を広げ、一行に進路を見せる。
ピノ 「んもう、食事中にマナー違反よお〜」
グレイ 「アルティマにはレインが居ないからなあ。そのくせに大陸は広いし、聖戦にゆかりのある人も少ないし、早く突っ切ってサンタマリアに入りたいんだよね」
シャイン 「ところで、フィオさんとルーンさん。さっきから黙ったままなんですが…」
グレイ&ピノ 「う〜ん」
フィオ(M) 「ジャキィス…」
ルーン(M) 「命を懸けて守れだと…こいつを?」
フィオとルーンの目が合う。
フィオ 「あ〜!」
ルーン 「んあ?」
フィオ 「分かった、ジャキィス。ルーンに似てるんだ」
ルーン 「な、何だと。いきなり何言いやがるんだ?」
シャイン 「え、髪の色も性格も…とても似ているとは思えませんが…」
フィオ 「あれ〜、気のせいかなぁ」
首を捻るフィオ。

フィオ(M) 「それは、オレ達の未来と…そしてライムランドに関わる大きな出来事の…始まりに過ぎなかった」

インサート
横腹の傷を自ら手当てするジャキィス。
木陰に座り、包帯を巻く。
ジャキィス 「フィア…」
空を見上げるジャキィス。

ジャキィスからもらったペンダントを目の前で揺らすフィオ。
フィオ 「へへ〜」



嬉しそうに笑う、フィオ。
ルーン 「気持ち悪く笑うな」
フィオ 「真ん中で祈ってる、女の人2人って…まるでラシューヌ神様みたいだよね」
紋章の女性2人にアップ。
フィオ(M) 「この時、オレはただ…全然覚えていないおふくろの…形見を偶然手に入れて喜んでただけなんだ」

To be continued…
LEGEND =Questers=