第11話 己が信仰を貫け
シーンA
○ソレントの街・教会
祈るシスター。
女神の像。
礼拝堂の中にはもう一人の老婆が居り、彼女もまた静かに祈りを捧げる。
そこに聞こえる男の声。
「我らの故郷、アルティマには統治者・レインは居られない。新たなレインを求めよ、皆の者…レインを迎え我らの地に真の平和を!」
ガヤ 「おおぉぉ〜」
その騒々しい声に、レニーは瞳を開く。
老婆 「情けない、日の曜日は礼拝日だろうに…」
振り返るレニー。
広い礼拝堂にただ一人座る老婆。
レニー 「聖戦が終わりもう7年…未だに消えぬ魔将に、人々は不安を感じているのかもしれません」
老婆 「ライムのアレス国王に、直訴した者も何人か居るようじゃが…」
レニー 「噂には聞いていましたが、自ら願い出るなんて…」
遠くから聞こえる男の声。
「イデア様を信じよ。そして教えに従い、新たなレインを求めよ。さすればアルティマは救われる!」
ガヤ 「おおぉぉ〜〜」
騒ぐ声。
レニー 「……」
レニーは眉をひそめる。
レニー 「あれでは、まるで宗教ですね…」
老婆 「シスター・レニー。なぜ、アルティマにはレイン様が居られぬ?」
問いづらそうに、老婆は呟く。
再び、女神像へと体を向けるレニー。
レニー 「ラシューヌ神ルラマーハ。そして統治者レイン。世界の理…」
レニー(M) 「真実は未だに隠されているのね…兄さん」
女神像へとズームアップ。

○【サブタイトル】




○同・表通り
ソレントの街中を歩く一行。
フィオ(M) 「オレ達は今、ソレントという街に来ている。この街で、エイセルさんの妹、レニーさんがシスターをしているっていうんだ。カタリム学長から渡された親書を持って、オレ達はサンタマリアへ行かなくてはならないし、ちょうどその道の途中だから、ついでに寄ってみようって話になった。
どの位、レインの話を聞けるかなんてはあんまりあてにしていないけど…」
広場の中央、壇上に立つ一人の礼服を着た中年の女・イデア。
その女の演説を聴きに集まる群集。
イデア 「神話に語られる事のない新大陸・アルティマ。我らの母なる地には統治者・レインは居られない。聖戦が終わり早7年。何ゆえに世界各地に魔将が徘徊する。
答えは唯一つ。それは我らのレインが居られないからだ。皆の者よ、神に祈り問え。そして新たなレインを向かえよ」
ガヤ 「おおぉぉ〜〜」
イデア 「我はこれより神の声を聞く。我が教えに従う者は、ヴォルヴァの祭院に集え。さすれば汝らは救われる!」
拍手と歓声。
飽きれたルーンはぼやく。
ルーン 「なんだありゃ、まさかあの女がレニーだっていうんじゃないだろうな?」
ピノ 「あんな胡散臭いおばさんはレニーさんじゃないってば。第一エイセルさんの妹さんでしょ。年が合わないじゃないの!」
グレイ 「教祖に信徒かぁ。あれじゃ新興宗教だよ。レニーさん…まさかあんな人達と一緒に居たりしないよね?」
フィオ 「アハハ、あるわけないじゃん。第一、神様の声を聞けるのはサンタマリアの巫女王・ヨシュリア様ただ一人。
しかも4年に一度の降神祭の時だけだったよな?」
フィオは後ろを歩くシャインに尋ねる。
返事のないシャイン。
シャイン 「……」
フィオ(M) 「あの幻影を見てからだ…」

フラッシュバック・第10話




フィオ(M) 「シャインの様子がおかしくなった。ずっと考え込んでいる。シャインはシスターだから、ラシューヌ神・ルラマーハ様を見て感激した…」
シャイン 「ふぅ…」
溜め息をつくシャイン。
その暗い表情に、グレイとピノも振り返る。
フィオ(M) 「感激…って雰囲気じゃないんだよね。なんか、逆にふさぎ込んじゃっている」
グレイ 「シャインがフレディンさんだとしたら、天人なんだとしたら…オーフェ様と関係があるんじゃないかな?」
小さくグレイはフィオに呟く。
ピノ 「そういえば、カタリムさんも『オーフェ様が待っている』とか言ってたわ」
フィオ 「うん…」
シャインの横に立つルーン。
ルーン 「『人には誰にも知られたくない秘密がある…』。これはお前の言葉だ」
顔を上げるシャイン。
シャイン 「はい」
ルーン 「お前の『心の内に秘めたもの』。これから行く教会で、懺悔でもしてみたらどうだ?」
ルーンは前方、教会の鐘が鳴る塔を見上げる。
ルーン 「俺達じゃあ、相談もできねえだろ? お前らが信じるラシューヌ神様とやらに、すがってみるといいさ」
苦笑するルーン。
シャイン 「神…ですか」
教会の鐘へズームアップ。
前方から歩いてくるシスター服のレニー。
シャインとすれ違う。
シャインの搾り出すような小声。
シャイン 「神はもう…あの方しか居ない。オーフェ様しか…」
レニー 「!」
その言葉にシャインへと振り返るレニー。
驚きの表情。
シャイン 「……」
涙を流すシャイン。
それに気付くフィオ達。
フィオ 「シャ、シャイン!」
膝を落とすシャインを支えるレニー。
ルーン 「あんたは?」
レニー 「…お話はまた後ほど」
微笑むレニー。
レニー 「宜しかったら、私の教会で少し休みませんか? 教会でシスターをしているレニー=クローガーといいます」
フィオ 「!」

○同・教会
礼拝堂で座るシャインに、ミルクを勧めるレニー。
レニー 「温かいミルクです。少しは落ち着くと思いますよ」
一行もまた、礼拝堂の椅子にそれぞれ腰掛ける。
シャインはミルクを受け取り、祭壇に飾られている女神像を食い入るように見つめる。



シャイン 「ラシューヌ神…」
レニーはその言葉に、シャインと同様に女神像を見上げる。
レニー 「この教会で誇れる唯一つの物なんです。美しい像でしょう」
フィオ 「エイセルさんの妹さん…ですよね?」
フィオへ振り返るレニー。
レニー 「はい。もうしばらく兄には会っていませんが…」
レニーもまた椅子に腰掛ける。
レニー 「兄さんとアリスタさん、3人で旅をしたのも…もう遠い昔になります」
フィオ 「聖戦の真っ只中だろ、何の目的で旅に出たんだ?」
レニー 「元は兄さんの呪いを解くためでした」
ルーン 「呪い?」
レニー 「はい」
レニーは己の額を指差す。
レニー 「魔法詠唱時に、脳に激痛が走るのです。複雑な呪いで、ベルナの高位魔術師の皆が匙を投げました。
妹の私が言うのもはばかれるのですが、兄は優れた魔術師です。生身であの時空魔法『テレポート』を使いこなす事の出来る唯一の魔術師でしたから。ゆえに誰もがそれを惜しみました」
ルーン 「呪いは解けたんだな?」
ピノ 「そうね。テーベの古代遺跡で会った時には、そんな素振りは見せなかったし」
レニー 「はい、私達はマホメト師に会ったんです」
グレイ 「マホメト様だって!」
フィオ 「誰だ、それ?」
他一行 「!」
信じられないという顔で、フィオへ振り返る他全員。
ピノ 「マホメトといえば、魔術の父よ。魔法と呼ばれていたものを古代魔法、神聖魔法とかに分けて基本を作った…」
フィオ 「だってオレ、魔法の事なんか興味ないし」
ピノ 「これは一般常識よ!」
ルーン 「大ほら吹きなんだよ、マホメトはな」
フィオ 「え?」
ルーン 「マホメトはな、当初インディゴストーンのレインとして、アレス達に加わっていた。だがな、レインは6人。
つまり、インディゴストーンもアルティマのレインも存在しない」
グレイ 「マホメト様はレインとルラを導く為に旅に加わったんだ。その旅の内で亡くなってしまったんだけど」
フィオ 「よく分からないよ、なんでマホメト様は『自分がインディゴストーンのレインだ』って嘘をついてまで、アレス王の仲間になりたかったんだ? いくら魔術の父だって、普通の人間だろ?」
ルーン 「だ〜から、今。厄介な事になってるんじゃねえか?」
フィオ 「え?」
ちょうどその時、民衆が礼拝堂へなだれ込んでくる。
乱暴に開けられる扉。
ガヤ 「シスター・レニー!」
椅子から立つ一行。
その喧騒に驚く。
レニー 「何事ですか。ここは祈りを捧げる神聖な礼拝堂なのですよ!」
民衆の前に出てくるイデア。
イデア 「これはこれは、失礼しました。シスター・レニー」
笑って会釈をするイデア。
舌打ちをするルーンは独り言。
ルーン 「やれやれ、噂をすれば何とやらだ」
イデア 「今日は日の曜日。日を改めてお伺いしようと思ったのですが、教徒達が私の制止を聞かぬものですから」
レニー 「何のご用件です?」
イデアは手に持つ巻かれた書状を広げる。
イデア 「この直訴状に、あなたの血判を頂きたいのです」
レニー 「直訴状?」
イデア 「ええ。我らのレインを迎えるために、神への直訴状です」
レニー 「愚かな。神に訴状とは…」
イデア 「レイン・アレスは我らを見捨てた!」
フィオ 「!」
「アレス」という言葉に、反応するフィオ。
フィオ 「何言ってんだよ。アレス王が…アレス王がライムランドの人々を見捨てたりなんかするもんか!」
フィオを睨むイデア。
イデア 「無知な子供は黙りなさい。我らの再三の申し出にも関わらず、アレスはそれを無視されたのだから」
フィオ 「なっ!」
子供と言われ言葉をなくすフィオ。
息をつくレニー。
レニー 「『我こそはレイン』と? それこそ傲慢です」
イデア 「シスター・レニー。あなたの血判があれば、神も…流石のレインも動かずには行かぬでしょう。あなたはレインと通じている」
レニー 「な、何を言って…ッ!」
民衆に凝視されるレニー。
その疑いのまなざしに言葉は詰まる。
背を見せるイデア。
イデア 「今は客人が居られるようですので、退きましょう。ヴォルヴァの祭院でお待ちしております…」
去ろうとするイデアに、フィオは叫ぶ。
フィオ 「アレス王の事も信じちゃ居ないのに、レイン、レインって何なんだよ。じゃあ、あんた達が相応しいって思ってるアルティマのレインって、一体誰なんだ!」
その問いかけに立ち止まるイデア。
背は向けたまま、表情は見えない。
イデア 「分かりきった事。このアルティマで最も力のあるお方…バルナギーゼ=ウォレット閣下…」
フィオ 「!」

フラッシュバック・9話




ルーン 「バルナギーゼだと…」
去って行くイデアと民衆。
重く扉が閉まる音。
レニー 「まったく…」
椅子にかけるレニー。
大きな溜め息をつく。
レニー 「一体どこからレインに通じているなんて話が…」
シャイン 「レインを命ずるのは導きの星・ルラ」
呟くシャイン。
シャイン 「すなわち、ラシューヌ神ルラマーハ様です。それはレインではありません。だから、アレス様は訴状を断られたのだと思います」
ルーン 「それでやっかいな事になっちまったんだろうが」
ピノ 「だったら、ルラマーハ様に直接聞いちゃえばいいのよ。この間、カタリムさんが出した幻影の感じじゃ、結構気軽に聞けそうなお方だったし」
グレイ 「あれじゃ脅迫だよ。レニーさんとレインに後ろめたい事があるみたいな言い方じゃない?」
シャイン 「問う事なんて出来ません。マーハ様は…」
レニー 「……」
何かを言いかけるシャイン。
そしてフィオを見つめ、笑う。
シャイン 「フィオさんもおっしゃったではありませんか。降神祭でしか、天界に居られる神の声は聞けないと…」
フィオ 「ああ。やっぱりおかしいよ、あの人…」
扉に向かい歩き出すフィオ。
ルーン 「おい、お前。どこへ行くつもりなんだ?」
フィオ 「ちょっとオレ。あいつの話を聞いてくる。アレス王がライムランドの人々を見捨てたりするわけない!」
駆け出すフィオ。
思わず追いかけるピノ。
ピノ 「ちょっとフィオ。待ちなさ〜〜〜〜いッ!」
ルーン 「おい、お前ら!」
グレイ 「僕も…」
ルーン 「お前は待て、グレイ!」
遅れて走り出そうとするグレイの耳を掴むルーン。
グレイ 「イタッ、乱暴だよ、ルーン!」
ルーン 「お前まであいつのペースに巻き込まれてどうするんだ」
グレイ 「うッ」
止まるグレイに、ルーンはその手を離す。
グレイ 「興味あったのになぁ〜」
ルーン 「蛇の道は蛇だろ。お前とシャインはギルドで情報を仕入れて来い」
グレイ 「は〜い」
ルーン 「そのあいつみてえな、間延びした返事はよせ」
ルーンはシャインに視線を送る。
ルーン 「お前ならあいつの身の上も少しは分かるだろ」
グレイ 「え?」
ルーン 「話でもしてやれよ」
グレイ 「い…意外…」
目をまん丸と見開くグレイに対し、ルーンは再びグレイの耳を引っ張る。
ルーン 「一言多いんだ、お前は」
グレイ 「イタッ、痛いよルーンッ!」
シャイン 「あの〜、ルーンさんは?」
その声に、グレイの耳を離すルーン。
レニーへと振り返る。
ルーン 「俺は話がある」
レニー 「……」
目があうルーンとレニー。