第11話 己が信仰を貫け
シーンB
○ソレントの街・ヴォルヴァの祭院
祭院に入っていく民衆。
フィオ 「イデア=ヴォルヴァか…。アレス王がライムランドの人々を見捨てるなんて事あるわけないじゃんか!」
ピノ 「ちょっと、ちょっとフィオ。本気で乗り込むつもり?」
フィオ 「彼女の教えとかいうのを聞いてみる」
ピノ 「あ〜ん、説教なんて聞きたくないわよ」
頬を膨らますフィオ。
フィオ 「ピノはみんなの所に帰ってもいいよ、オレ一人で行くから」
民衆の中に入って、院へと入っていくフィオ。
ピノ 「んもう。レインが絡むと頑固になる所はルーンとおんなじよね」
やれやれと肩を竦めるピノは、フィオのマントの肩に乗る。
付いて来たピノにフィオは囁く。
フィオ 「目立つからポケットの中にでも隠れてた方がいいかも…」
ピノ 「わ、分かったわ」
マントの中に入りズボンのポケットへと忍び込むピノ。
ホールへと入っていく2人。
壇上に立つイデア、その脇に立つ、聖歌隊。
祭壇に掲げられたタペストリーには六芒星。
フィオ(M) 「レインの六芒星…?」
中心に描かれた記号に、フィオは目を見張る。



フィオ(M) 「あの記号…何なんだ?」
並ぶ民衆達。
そのなかにフィオの姿も混じる。
静寂に包まれるホール。
イデア 「信じるもの達よ。我の教えに従う者よ。そなた達は必ずや、このアルティマで救われよう…」
両手を掲げるイデア。
両脇に立つ聖歌隊が賛美歌を歌う。
聖歌隊 ranyai rashitosoumidonanin
 yadaunayuriri yadaroechishishiyuranasuren
 yakeromoha rashitogaizeyosyataki
 motoseichiminadai misozenotake
…」
ピノ(M) 「え!」
ズボンのポケットから顔を出し眉をひそめるピノ。
ピノ(M) 「これ、古代神聖語…しかも呪歌だわッ!」
ピノは青ざめてフィオの上着の裾を引っ張る。
小声。
ピノ 「フィオ、フィオッ!」
フィオ 「……」
ただ壇上を空ろな表情で眺めるフィオ。
ピノ 「ッ!」
ピノは顔をしかめて両耳を塞ぐ。
その正面をスモークのようなもやが走る。
ピノ(M) 「な、何なのよ!」
鼻を鳴らすピノ。
ピノ(M) 「薬じゃないの、これッ!」
ポケットから這い出すピノ。
ヨロヨロと床に落ちる。
ピノ(M) 「このガス、上にたまるみたいね。助かった…」
両耳を塞ぎながら空ろな表情のフィオを見上げるピノ。
ピノ(M) 「まずい事になったわ、とにかくあたしだけでも逃げなきゃ!」

○同・クエスターギルド
冒険者の店。
酒場のカウンターに立つグレイとシャイン。
グレイ 「ねえ、シャイン」
言い出しそうにシャインを見上げるグレイ。
シャイン 「どうしましたか、グレイさん?」
グレイ 「これからの話はね。シャインがフレディンでレオハルトのクルーだったって事を抜きだからね」
シャイン 「はい?」
グレイ 「僕もさ、聖戦の時の記憶があいまいだったんだ」
シャイン 「……」
微笑むグレイ。
グレイ 「原因は簡単。嫌な事思い出さないようにしてたんだよね。それからさ、色々考えてみたんだけど。人の記憶には、その人の心を守るために防衛本能が働くと思うんだよ」
シャイン 「はい」
グレイ 「僕は聖戦の時に、故郷の人を見殺しにしてしまったんだ。臆病だったから聖獣の力も使わないで、逃げ回ってた。その時が怖くて、恥ずかしくて忘れてた…」
シャイン 「……」
グレイ 「まだ、詳しくは思い出せてない。あの時のことをもっと思い出そうとすると、尻尾の先まで震えちゃう。だからね、思い出さないよ」
シャイン 「え?」
グレイ 「だって、いつまでも昔のことをくよくよしてても仕方ないかなって思うんだよね。これからの事を考えると、わくわくして仕方ないんだ」
シャイン 「これからの事?」
グレイ 「うん」
ニッコリと笑うグレイ。
グレイ 「ルーンや他の人達がなんて言おうと、僕はレインが英雄だって信じてる。レインから英雄譚を、直に聞ける時が来るかもしれない。いや、カタリムさんから親書だって貰ってるんだ。僕達はサンタマリアのヤンシャオに行けば、レインに謁見できるんだよ!」
シャインはつられて笑う。
シャイン 「信じる者は救われるのですね」
グレイ 「へ?」
シャイン 「だってそうでしょう。グレイさんはレインを信じています。私は…」
グレイ 「シャインは信じてないの、神様の事?」
シャイン 「え…」
驚くシャイン。
グレイはシャインの手を握る。
グレイ 「『神様を信じるのと同じ様に自分の力を信じてごらん、そうすればきっと魔法は使える』」
シャイン 「……」
グレイ 「これはね、ルラマーハ様がオーフェ様にかけたお言葉なんだって。信じてごらんよ、自分の事もオーフェ様の事も」
シャイン 「グレイさん…」
グレイ 「信じる事って難しいよね。でも、それを簡単にやってみせちゃう仲間が近くに居ない?」
シャイン 「……」

フラッシュバック・教会
フィオ 「ちょっとオレ。あいつの話を聞いてくる。アレス王がライムランドの人々を見捨てたりするわけない!」
教会から駆け出していくフィオ。

グレイ 「僕もルーンもピノも、彼女に会って変わってきたんだ。ルーンなんて、昔だったらすぐに『めんどくせえ』とか言って…それっきりだったもんな。シャインもきっと変われるよ」
シャイン 「グレイさん…」
その2人の元へ戻ってくるマスター。
マスター 「待たせたな、2人とも」
マスターは2人の前に書類を出す。
グレイ 「マスター、これ?」
マスター 「悪いな、この街にはイデア信徒がそこらじゅうにいる。俺も大声で奴の噂をするわけにはいかないんだ。ギルドで調べた事はそこに全て書いてある」
グレイ 「……」
グレイとシャインは顔を見合わせ書類を手に取る。

○同・教会
礼拝堂の長いすに、足を組んで座るルーン。
ルーン 「あいつらはまだガキだ。考えもしないで突っ走りやがる」
レニー 「そうですか、ルーンさんもまだまだ十分にお若いですよ」
向かい合い椅子に座るレニーは余裕の笑み。
レニー 「それで、お話とは何ですか?」
ルーン 「俺はレインやらアルティマやらには詳しくねえ…」

フラッシュバック・ジャキィス




フラッシュバック・ガイアス




ルーン 「ここ最近アルティマの様子がおかしい事は、うすうす感づいていた。だが、他にも妙な奴がうろちょろと俺達の前に現れやがる。さっきあの女が言っていた、バルナギーゼ卿ってのは何者なんだ?」
レニー 「バルナギーゼ=ウォレット卿。アルティマで最有力の貴族です。元はブリストルの宝石商だったとの話ですが、魔晶石の独自ルート売買から、一方では地方の魔術師ギルドと精通し原央石の違法生成、裏取引を行なっているとの噂もあります」
ルーン 「んだと?」
レニー 「昨年はコンピニア時代の遺跡を買ったとの事です」
ルーン 「シャヌーンの遺跡を丸ごとか? 金持ちの考える事はわからねえな」
レニー 「そんな彼は、5年前。ライム国王陛下に直接会い、己こそアルティマのレインに相応しいと直訴したと聞きます」
ルーン 「聖戦が終わってまだ2年か。準備がいいこった」
レニー 「そうです。聖戦が終わって間もない、戦後の復興間もない頃に、彼は己の財力を国王に示しました」
ルーン 「おおよそ、山ほどの手土産を献上したんだな」
レニー 「ライム城の謁見室床一面に、彼の献上した宝物が並べられたとの事ですが…」
ルーン 「アレスに一蹴されたか?」
レニー 「はい…」
ルーン 「ちったあ見直したな。レインもまともな人間だったって事だ」
レニー 「レインも普通の人間ですよ…そう、一人の人間なんです」
ルーン 「はあ?」
レニーは瞳を閉じる。
レニー 「『レインを決めるのは俺ではない』。という国王のお言葉でした」
ルーン 「ったく…レインを決めるのはアレスでないなら…天界にでも…パウルにでも行ってルラマーハに聞けばいい」
足を組みなおすルーンは、祭壇にある女神像を見上げる。
ルーン 「アルティマのレインだと思われていたマホメトは偽者だった。そもそも、アルティマにレインが居ねえのは、どうしてなんだ?」
レニー 「神話の時代、アルティマはライムランドに存在しなかった。ゆえに神が創りたもうたレインボーストーンはサンタマリアの赤、ファンジームの橙、天界パウルの黄、シャヌーンの緑、ライムの青、デストニアの紫の6つ。
昔、兄と話をした事があります」
ルーン 「エイセルと?」
レニー 「はい」

○レニーの回想
旅道具を担ぐエイセル。
レニー 「本当に出て行くの、お兄ちゃん。せめてアリスタさんにもあいさつをしていったら?」
エイセル 「あいつの事だからまた、ついていくって言いかねないだろ。今度ばかりはいつ終わる旅になるか分からないからな?」
レニー 「不安なのよ。アルティマはレインも居ないから」
エイセル 「お前までレインにすがろうって言うのか?」
レニー 「そういうわけじゃないの。最近、アルティマの人々の様子がおかしいから…」
エイセル 「…だな」
小さく溜め息をついたエイセルは、レニーの頭を撫でる。
エイセル 「あの事件があっただろ。コンピニア文明に関して調べてみた。するとな、アルティマに繋がるんだ」
レニー 「え?」

○同・教会
驚くルーンはレニーを凝視する。
ルーン 「アルティマとコンピニアが?」
レニー 「はい…」
礼拝堂に入ってくるグレイとシャイン。
グレイ&シャイン 「……」
互いに顔を見合わせる2人。
書類を握り締め、間に入りづらい雰囲気で話しているルーンとレニーに静かに近付いていく。

○レニーの回想
エイセルとレニーの対峙。
エイセル 「コンピニア文明が滅びた年に、突如としてこの大陸が現れた。発見されたのは数年後だがな。もしかしたら、コンピニアの魔道科学文明が滅んだ事に関係があるんじゃないのか?」
レニー 「え?」
エイセル 「500年の歴史を持つ、国と文明を滅ぼすだけの力…それと関係のある何かがこのアルティマの地ににあるとしたら?」
レニー 「それじゃあ、アルティマのレインになれば、その力を手にする事が出来るって事?」
エイセル 「いや、それは違うな。レインを選ぶのはルラマーハ…神だ。つまり、アルティマで動いている人間は、単に『レインになりたい』という目的で動いているとは限らないって事さ」
レニー 「お兄ちゃん、それって…」
エイセル 「匿名で盗賊ギルドに報告してる。グリンの耳にも届くだろ」

○同・教会
重い口を開くグレイ。
グレイ 「アルティマとコンピニアが…」
その場に居たグレイとシャインに驚くルーン。
ルーン 「お前ら、いつの間に戻ってきたんだ」
グレイ 「コンピニア文明は最後、その力の暴走で滅びたって話だよ。そんな恐ろしい力がここアルティマに眠ってるかもしれないって事?」
青ざめるグレイ。
ルーン 「そんなの知るか。俺達はいずれ、サンタマリアに向かうんだ。関わる事じゃないだろうが?
それよりも、あの胡散臭い宗教について何か分かったんだろうな?」
シャイン 「資金集めをしているようですよ?」
ルーン 「資金集め?」
シャイン 「はい、高額の『お布施』を信者に要求して、それは全て教祖イデアから、その上に流れていると」
ルーン 「その『上』っていうのはまさか…」
シャイン 「はい、バルナギーゼ=ウォレット卿です」
ルーン 「ったく、とんだ金の亡者だ」
とそこに、血相を変えて飛び込んでくるピノ。
ピノ 「みんな、大変よぉぉぉぉ〜〜〜〜!」
涙目のピノ。
ピノ 「フィオが、フィオを助けて!」

○同・ヴォルヴァの祭院
イデアの前に一列に並ぶ信者。
皆一様に空ろな表情をし、祭壇に於かれた箱に金貨、銀貨を投げる。
イデア 「さあ、金目のものを全て我の前に差し出しなさい。これを閣下に捧げ、さらなる力の源にッ!」
フィオが先頭に並ぶ。
それに気付くイデア。
イデア 「おや、お前は昼間の子供…」
フィオの前に立つイデアはその顔を覗き込む。
空ろな表情。
イデア 「よく術が効いていること。こうなってしまっては昼間の威勢もかた無しだ。しかし、子供が金を持ち合わせているのか?」
フィオ 「……」
フィオは無言で上着の中にしまいこんでいる形見のペンダントを外す。
それをイデアに差し出すフィオ。
イデア 「こ、これは…楔の紋章ッ。なぜお前が!」
フィオを凝視するイデア。
ペンダントを取り上げ、フィオのターバンを剥ぎ取る。
フィオ 「……」
零れ肩に流れるフィオの黒髪。
イデア 「お前、女か! もしや…ッ!」
ルーン 「フィオ!」
祭院に駆け込んでくるルーン達。
イデア 「チッ、邪魔が入ったか。来い、娘!」
フィオの手首を強引に引っ張るイデア。
しかし、フィオは動かない。
フィオ 「ルーン…」
空ろな表情で振り返るフィオ。



イデア 「チッ!」
諦めて手を離すイデアは、祭壇の裏手へと走る。
信者達はぼんやりと立ち尽くしたまま。
フィオの元へと駆け寄る一行。
ルーン 「くそ、何なんだ。この匂いは?」
レニーは、次々とホールの窓を開けていく。
レニー 「これは媚薬の入った香を焚いたのでしょう。すぐに解毒を!」
シャイン 「はい!」
レニーの言葉にシャインは頷く。
立ち尽くすフィオを囲む一行。
シャイン 「主ラシューヌ神、この身を侵す毒を清めん。『リメディ』!」
グレイ 「フィオ、しっかりして。フィオ!」
ピノ 「フィオッ!」
フィオ 「あ…」
瞳に光が戻るフィオ。
目を瞬かせる。
フィオ 「み、みんな?」
ルーン 「このバカが!」
フィオ 「ッ!」
ルーンの怒声に脅えるフィオ。
グレイ 「ルーン、怒りすぎ!」
ピノ 「そうよ、第一止めもしなかったじゃないの!!」
ルーン 「ちょっと待て、なんで俺が怒られなきゃならねえんだ」
フィオ 「あッ、ペンダント!」
フィオは手元に形見のペンダントが無い事に気付く。
フィオ 「そうだ、オレ。イデアに!」
イデアを追いかけ、祭壇裏手へと走り出すフィオ。
ルーン 「おい、待て!」

フラッシュバック・第9話
ルーンに囁くジャキィス。
ジャキィス 「アクス、命を懸けてフィオを守れ」

ルーン 「ったく、なんでこんな時にあの野郎の顔が!」
フィオを追いかけ走り出すルーン。
ピノ 「ちょっと、ここの呆けてる人間達はどうするつもりよ!」
レニー 「ここは私に任せてください、皆さんは早くイデアを!」
ピノ 「ッ!」
信者に解毒の魔法を施すレニー。
その様子にグレイ、ピノ、シャインは顔を見合わせ頷き、ルーンを追いかける。

○同・祭院裏手の庭
逃げ出すイデアに、追いかけるフィオ。
追いかけてきたフィオに対し振り返る。
イデア 「おや、追って来たとは都合がいい」
余裕の笑みでフィオに対峙する。
フィオ 「オレのペンダントだ、返せ!」
イデアの手にあるペンダントを見つけるフィオ。
イデア 「娘よ。この楔の紋章をどこで手に入れた、何を知っている?」
フィオ 「言えば返してくれるっていうわけじゃないだろ!」
ルーン 「フィオ!」
フィオを追いかけてきたルーン、同じくイデアに対峙する。
イデア 「まだ邪魔をする気か。我はお前には用は無い」
ルーン 「てめえに用がなくても、俺にはあるんだよ。さてと、ギルドに一緒に来てもらおうか!」
神具を構えるルーン。
同じくフィオも剣を抜く。
イデア 「確かめねばなるまいな。出でよ、『テンギュウ』〜〜〜〜ッッッッ!」



背後から出てくる巨大なカミリキムシの兵器。
フィオ 「な、コンピニアのマシン兵器!」
ルーン 「バグズか!」
イデア 「その娘は殺すな、生かして捕らえよ!」
走り去っていくイデア。
フィオ 「あっ、待て!」
バグズの腕が伸び、フィオに襲い掛かる。
ルーン 「バカ!」
フィオ 「うあ!」
フィオを庇い、倒れこむルーン。
バグズの一撃を避ける。
地面に開く大穴。
ルーン 「ぼさっとするな!」
フィオ 「でも…」
ルーン 「チッ…」
ルーンはバグズを見上げる。
バグズ 「ピピピ…ミッション・ターゲット補足」
瞳がフィオに向けられる。
バグズ 「ノンターゲット、排除開始」
瞳はルーンに向けられる。
ルーン 「来るか…」
フィオを庇い立つルーンは、神具を構える。
羽を広げるバグズ。
空へと飛び上がる。
ルーン 「な、何だと!」
両腕から放たれるカマイタチが襲い掛かる。
ルーン 「うお!」
フィオ 「ルーン!」
次々に上空から落とされる真空波。
シャイン 「『プロテクティブ・サークル』!」
ルーンを守るようにして張られる、魔法の防御障壁。
裏口からルーンを追いかけて出てきたシャインとグレイ、ピノ。
ルーン 「お前ら…」
安堵した表情のルーン。
ピノ 「気を抜いちゃダメよ、また来る!」
グレイ 「うわッ!」
フィオ 「みんな!」
シャイン 「いけない!」
再びシャインは防御障壁を張る。
外れた真空波は、大地、祭院の壁、庭の木々、を根こそぎ切り裂く。
ルーン 「クソッ、目立ちたかねえがッ。お前らはフィオを頼む。奴ら、なんだか知らねえがこいつを狙ってる!」
コートを脱ぎ捨てるルーン、背に生える魔族の翼。
ルーンは飛び立つ。
フィオ 「ルーン!」
グレイ 「相手がコンピニアのマシン兵器だったら、弱点はあの時と同じ…」
ピノ 「回路に当ててショートさせる? 無茶よ、あの時と違って今回は空なのよ!」
フィオ 「ルーンは…翼を人に見せたくはないんだ。ずっと隠してきた。だからきっと、空中戦に慣れてないッ!」
シャイン 「私も行きます」
3人 「え?」
ふわりとシャインの背から生える、天人の白い翼。
グレイ 「シャ…シャイン!」
シャイン 「自分の力を信じます。あの方を信じます。あの方にもう一度会って…確かめたい!」
上空へ飛び立つシャイン。
フィオ 「シャイン!」
ピノ 「『ライトニング』だわ。直接電撃、食らわしちゃえ〜ッ!」
グレイ 「そうだ!」
グレイは背にあるマンドリンを紐解く。
フィオ 「グレイ?」
グレイ 「シャインは飛び立っていくんだ、祝福しなきゃ」
フィオ 「魔力増幅の呪歌か!」
ピノ 「そうよ、グレイ。本場吟遊詩人の歌う呪歌って奴を聴かせてやりなさい!」

上空。
バグズの真空波を避けながら飛ぶルーンの背後に浮くシャイン。



ルーン 「シャイン、お前…」
シャイン 「護りはできません。耐えて頂けますか?」
ルーン 「奴の気を引く。詠唱直後に離れるぞ!」
シャイン 「分かりました」
バグズ 「ノンターゲット、排除開始」
瞳はシャインへと向けられる。
ルーン 「させるかよ!」
バグズへと突進していくルーン、振り下ろされる鎌を素早く横に避ける。

地上。
グレイ osohishikuhinoto hakurema ushitotashi nararuadakine
 nanatahakuwasaso momokeki ramorerusotakichimiratawa
 ushiwasatohananechi rinru asanuxhibi haminaniyanaku
…」
グレイの歌声が街に響く。
空中戦の様子を見守る信者と街の民衆。
その中に、魔術師・ジニアスとアリスタの姿。
ジニアス 「魔族と…天人…」
アリスタ 「随分と派手にやっているな、姫君の連れは…」
ジニアス 「え、ま…まさか?」
面白そうに笑うアリスタ。
アリスタ 「その『まさか』だ」

地上。
走っているイデア。
イデア 「閣下に…バルナギーゼ閣下にご報告差し上げなければ!」
と、彼女の前に立ちふさがる影。



イデア 「な、何奴!」
エイセル 「フィオから取り上げたペンダント。返してやったらどうだ?」
イデア 「き、貴様!」
腰から短刀を抜くイデアは、エイセルに斬りかかるが。
軽く避けるエイセルは、素早く短刀を持つ手首を握る。
イデア 「何!」
エイセル 「さてと、一緒にギルドに来てもらおうか。色々と、聞きたいことがあるらしい。レインがな…」
イデア 「誰が、レインなんぞと!」
余裕の笑みを浮かべるエイセル。
エイセル 「逃げる暇すらないんだよ。『テレポート』!」
イデア 「なっ!」
姿を消す2人。

空中。
シャインは詠唱を始める。
シャイン 「主ラシューヌ神。その御力をもって悪を塵に還せ…」
シャイン(M) 「あのお方の御心に、まだあのマーハ様があるのなら…私は身を引きましょう。けれど、私はまだ…その答えをあのお方から聞いていない!」
シャイン 「『ライトニング』!」
シャインの手から放たれる稲妻は上位魔法の如く、バグズへ降り注ぐ。
バグズから離れるルーン。
バグズ 「ガガガガガガ…制御不能!」
地上へと落ちていくバグズ。
派手な音を立てて粉々になる。

地上。
フィオ達の前に落ちてくるバグズの残骸。
フィオ 「やった!」
演奏の手を止めるグレイは、笑いながらシャインへと大きく手を振る。
グレイ 「シャイン〜〜〜〜ッ!」
ピノ 「シャイン〜〜〜〜ッ!」
ピノはシャインに向かって飛んで行き、頬に抱きつく。
ピノ 「出来たじゃないの、飛べたじゃないの! やっぱりフレディンさんだったのねッ!」
静かに地上へ降り立ってくるルーンとシャイン。
シャインは微笑み、他一行を見回す。
シャイン 「ありがとうございます、皆さん」
フィオ 「シャイン…」
シャイン 「私、行かなければ…天界・パウルに。あのお方と…オーフェ様とお会いし確かめなければならないのです」
フィオ 「確かめる?」
シャイン 「はい、私は…」
意を決したように胸に手を当てるシャイン。
天を見上げる。
シャイン 「オーフェ様をお慕い申し上げています」

○同・教会
レニーとシャインに対峙する、フィオ、ルーン、グレイとピノ。
グレイはレニーの横に立つシャインを見上げる。
グレイ 「フレディンはパウルに行くんだね」
シャイン(フレディン) 「はい、ここで皆さんとお別れです」
ピノ 「せっかくの神聖魔法の術者を手放すのは惜しいけど…」
ルーン 「そういう問題じゃねえだろうが」
ピノ 「冗談に決まってるでしょ。あ〜あ、行き先が全く逆なんだもの…」
グレイ 「仕方ないよ。出会いもあればまた別れもあるって…旅にはよくある話だもんね」
フレディン 「グレイさん。ありがとうございました」
お辞儀をするフレディンに、グレイは慌てる。
グレイ 「そんなお礼なんてしないでよ。ぼ、僕は…」
フィオ 「グレイのお陰なんだな。よかった!」
笑うフィオに、グレイは苦笑する。
グレイ 「本当の立役者は誰なんだろうね?」
フィオ 「え?」
グレイ 「ほら、僕達ってもう旅に出て1年経とうとしてるんだよ…」
ピノ 「そうね、…あっという間だったわ」
フィオ 「1年か…」
グレイ 「その1年って凄かったと思わない。最初の頃のルーンなんて酷かったもんね」
ルーン 「おい、その言い草は何だ。このチビだって最初は、やれ金だ、魔晶石だって…今も変わらねえか」
ピノ 「変わったわよ。あんた以外の人間を信用する事なんて、なかったもの」
グレイ 「僕もそう。戦わなきゃいけない状況になって、聖戦の怖い過去を思い出した。その勇気を出せたのは…」
グレイはフィオを見上げる。
フィオ 「ん、な。何だよ…」
ピノ 「無理よ、グレイ。フィオなんて自分の事に関しては、ほ〜んと無頓着なんだから」
グレイとピノは顔を見合わせ無邪気に笑う。
ルーン 「ま。それに関しては俺も同感だな」
フィオ 「ちょ、ちょっと。ルーンまで!」
顔を赤くしてすねた様なフィオ。
フィオ 「オレだって変わったんだからな。ルーンと修行して、剣も強くなったと思うし。それに仲間が出来た」
フィオは一行を見回す。
フィオ 「ただ一緒に旅するパーティーじゃなくて、仲間。きっと、アレス王も…レインとルラもこんな風に仲間と一緒に旅をしたんだ!」
ルーン 「ふぅ…」
呆れて溜め息をつくルーン。
ルーン 「聖戦の真っ只中で、俺達みたいな悠長な旅ができるもんか」
苦笑するルーン。
ルーン 「さてと、行くとするか?」
レニー 「あ、待って下さい」
レニーからペンダントを渡されるフィオ。
フィオ 「こ、これ?」
ピノ 「取り戻してくれたの?」
ピノは吃驚してレニーを見上げる。
レニー 「はい、こちらに届けてくれた方がいらっしゃいまして。その方も、皆さんにお会いしたかったようですけど。どうしてもギルドに用があるとの事で、先程…」
フィオ 「そうか…」
フィオの眼前に揺れるペンダント。
ニッコリ笑ったフィオは、それを首にかける。
フィオ 「よし、じゃあ。行こう、みんな!」

教会の外。
ルーンはフィオの胸にあるペンダントに見入り声をかける。
ルーン 「おい、フィオ」
フィオ 「なに、ルーン?」
ルーン 「イデアはお前を狙っていたが、お前のそのペンダント…」
フィオ 「あ、これか…。お袋の…ルナル家の紋章なんだ」
ルーン 「ルナル家?」
フィオ 「うん、オレが生まれた時に死んじゃったから、お袋の事は全然覚えてない。だから、ジャキィスがこれを見つけてくれて、たまたまコイツが手に入って嬉しかったんだ」
ルーン 「ジャキィス、あの魔族の男が?」
フィオ 「お袋の事知ってたみたい。どうしてか知らないけど」
グレイ 「ちょっと待って。紋章がある家系って…もしかして、お家柄いいんじゃないの?」
フィオ 「へ…」
ギクリとなるフィオ。
思い出したかのように、小さな手をポンと鳴らすピノ。
ピノ 「そういえば、すっごく昔の話に戻るけど、アレス王にライム城へ置いていかれた時!」
グレイ 「そうそう、お城の中なのに詳しかったんだよね」
ピノ 「アレス王の事も、なんだかよく庇うし」
グレイ 「一番最初に、僕とピノに紹介されたクエスト…覚えてる?」
ピノ 「え〜っとぉ〜、確か…」
フィオを睨むルーン。
ルーン 「お〜ま〜え〜」
フィオ 「おいおい〜。変な事思い出すなよぉ、みんな!」
遠方から誰かを呼ぶ声。
ジニアス 「姫様〜〜〜〜!」





その声の主に驚くフィオ。
フィオ 「げ、ジニアス…」
フィオの顔を認め、ぱああぁぁっと明るくなるジニアス。
嬉し涙で駆け寄ってくる。
ジニアス 「お探ししました〜、どうか城にお戻りくだ…ぐはっ!」
フィオに殴られるジニアス。
ジニアス 「ひっ、ひめ…さ…ま…」
起き上がれずピクピクしている。
フィオ 「最近変なヤツ、多いよな〜。アハハハ〜」
フィオ以外、ルーン&グレイ&ピノは一瞬あっけにとられるが。
ルーン&グレイ&ピノ 「ひ? ひめさまぁ〜〜〜〜!?」」

○同・ヴォルヴァの祭院
バグズの残骸を調べるギルド員。

祭院の中。
誰も居ないそこで、祭壇のタペストリーを見上げるエイセル。
そこへ入ってくるレニーとアリスタ。
レニー 「兄さん」
声に振り返るエイセル。
アリスタの姿にエイセルは驚く。



エイセル 「レニー。それにアリスタ、どうしてここに!」
アリスタ 「それはこっちの台詞だ。まさかまた例の彼らに関わるなど、よほど興味があると見える。このタイミングで戻ってくるとは…」
エイセル 「虫の知らせだ…」
エイセルは苦笑しながら、窓の外に見えるバグズの残骸に目を送る。
エイセル 「お前は変わらないな、アリスタ」
アリスタ 「本当の所は、学長に早い長期休暇を貰ったのでね。レニーに会って来いと言われたのさ」
レニー 「カタリム学長も粋な事をするわよね」
微笑むレニー。
アリスタ 「それで、お前はこんな所で一体何をしているんだ?」
エイセルは再びタペストリーに向き合う。
エイセル 「ウォレット家の家紋だ。ついさっき、これにそっくりな形を見た」
レニー 「フィオの持っていたペンダント…」

インサート
フィオのペンダント。




エイセルは人差し指を立ててくるりと回す。
エイセル 「ちょうど点対照だ。何を考えてるんだかな、ウォレット卿は…」
アリスタ 「その言いようだと、何か気付いているんじゃないのか?」
小さく笑うアリスタに対し、エイセルは両手を挙げる。
エイセル 「コンピニアとアルティマの関係について、レニーから聞いてるだろ?」
アリスタ 「それに関してだ…気になる男に会った」
エイセル 「気になる男?」
アリスタ 「ああ、『ジニアス=ジスタッフ』という。ベルナからともにここへ来た。彼の言葉がひっかかる」
エイセル 「一体何を?」
アリスタ 「『アルティマは大陸ではない。災いの眠る臥床』と…」
レニー 「災いの眠る…臥床」
アリスタ 「私の知る事は話した。で、お前は何に気付いたんだ?」
エイセル 「……」
口元に手を当て考えているようなエイセル。
しばし黙ると、旅荷物の中から紙の束を取り出し、アリスタへ差し出す。
アリスタ 「何だ、これは?」
エイセル 「アルティマに所縁のある貴族のリストだ…」
アリスタ 「フィラデルフィア=ルナル。あの家紋、ルナル家のものだったのか。彼女は病死とあるが…」
エイセル 「フィラデルフィアはライムの貴族と結婚した。相手はあのライムの双璧・ルルカ家。その一人娘が、1年程前行方知らずになって、ルルカ家の人間は必死になって捜索している」
レニー 「え、じゃあ。フィオは?」
アリスタ 「ファルシーオ=ルルカ。ルナル家、ルルカ家のご令嬢。由緒正しき貴族のお姫様だ」
面白そうに笑うアリスタ。

○同・教会前の広場
気まずそうに笑う、フィオ。
フィオ 「あはは、オレのフルネームはファルシーオ=ルルカってんだけど…」
ルーン 「ルルカ家ってあの、ライムの魔術師団長の…」
フィオ 「オ、オレちょっと宿に忘れ物を…」
と、駆け出そうとするフィオ。
が、素早くマントの端を握るジニアス。
ジニアス 「逃がしはしません!」
フィオ 「ぎゃ!」
前にこけるフィオ。
フィオ 「いてて…」
おでこを抑えるフィオ。
呆れた顔をするルーンは、ジニアスを睨む。
ルーン 「お前の素性なんて知ったこっちゃないが、何なんだ。こいつは…」
ジニアス 「な、何なんだとは失礼な。私の名前はジニアス=ジスタッフ。姫様の教育係です。姫様に近付く不届き者は何者であろうと許しません!」
フィオは立ち上がり、ルーンとジニアスの間に立つ。
フィオ 「ルーンは不届き者なんかじゃない!」
ジニアス 「ルーン?」
ルーン 「ルーン=アクスだ」
ジニアス 「アクス…」
一瞬、目を開くジニアスだが、すぐに不敵に笑う。
ジニアス 「フフフ、あの伝説の勇者アクスタインの名を頂くとは無礼千万!」
ルーン 「だから嫌なんだよ、俺の名前は。『アクス』で呼ぶな!」
ジニアス 「あ、もしや幼い頃に『名前負けしてる』とか、『名前が気に入らない』とか言って親を泣かせた口ですか?」
ルーン 「親の顔なんざ知らねえッ。何なんだ〜こいつは〜ッ!」
嘲笑するジニアス。
口論を始めるジニアスとルーン。
フィオ 「……」
ゆっくりとその場を忍び足で離れるフィオ。
駆け出しダッシュ。
フィオ 「ルーン、後は任せた!」
グレイ 「あ、フィオ」
ピノ 「逃げたわ」
それに気付くジニアス。
追いかけていく。
ジニアス 「ひ、姫様〜〜〜〜ッ!」
ルーン 「おい、お前らッ!」
必死の形相で追いかけるジニアス。

○同・ヴォルヴァの祭院
書類をエイセルに返すアリスタ。
エイセル 「知ってたのか?」
アリスタ 「彼女の素性だけはな、ジニアスから聞いている。彼女を探す彼の様子は尋常ではなかったな。単に彼の性格のせいかもしれないが」
エイセル 「ルルカもルナルも、元はアルティマの開拓に携わっているんだ」
アリスタ 「え?」
エイセル 「アルティマが生まれた時代から、縁のある二家だった。異常なほどにこの二家は、繋がりが深い」
レニー 「異常って?」
エイセル 「二家の血族が交わる代がある。それも頻回にだ」
レニー 「結婚してるって事でしょう。別に珍しい事じゃないと思うけど」
エイセル 「ルルカとルナルがそこまで繋がりを持たなければならない理由は何だと思う?」
レニー 「仲が良いから…っていう簡単な理由ではすまないって事ね」
エイセル 「まあ、ここまでが俺が調べた所だ。後は、俺の憶測になる」
アリスタ 「今や、ルルカはライム王家の重臣。ルナルはサンタマリアの一貴族に過ぎない。憶測が過ぎるんじゃないのか?」
エイセル 「さあな、サンタマリアにルナル代々の墓があるが…何かあるかもしれないぞ?」
エイセルはタペストリーを見上げる。

○同・教会前の広場
フィオを追いかけるジニアス。
そのジニアスを追うルーン。
3人を眺めるグレイとピノ。
ピノ 「今度は、騒々しい人が仲間になりそうねぇ」
グレイ 「サンタマリアかぁ…」
グレイは思いを馳せる。
グレイ 「僕達はついに、レインと正式に謁見するんだよ!」
フィオはクルリと向きを変え、ルーンの背中に隠れる。
ルーンの背後に居るフィオを追い掛け回すジニアス。
ルーン 「お前ら〜、いい加減にしろ〜〜〜〜ッッッッ!」

To be continued…
LEGEND =Questers=