第12話 知らない母さん
シーンA
○サンタマリア海上
船の上から、サンタマリアの聖都ヤンシャオを望む一行。
グレイ 「見えて来たよ、みんなッ!」
ピノ 「聖都ヤンシャオかぁ。懐かしいわね〜」
グレイ 「え、ピノは前に来たことがあるの?」
ピノ 「あたしの生まれ故郷はサンタマリアなのよ。当然じゃない?」
グレイ 「へぇ〜」
ピノ 「あたしとルーンが会ったのも、ヤンシャオからちょっと離れた森の中だったのよ…ってフィオ?」
ルーンの話をフィオに振るピノ。
しかし、顔色がすぐれないフィオに気付く。
ピノ 「なぁに、フィオ。また船酔い?」
フィオ 「い、いや…そうじゃなくて、なッ、ジニアス?」
フィオは隣に立つジニアスへと顔を向けると、彼もまたフィオよりも青ざめている。
ジニアス 「恐ろしいことです」
ピノ 「はぁ?」
フィオ 「オレ達、今回ばかりは遠慮しよっかなぁ〜、な〜んて…」
グレイ 「何言ってるのさ、いまさら。ヨシュリア様に会うっていうのにフィオが居てくれないと、ルーンがなにしだすか…」
ルーン 「誰が何だって、あぁ?」
フィオの背後から現れるのはルーン。
グレイ 「うわ、怒ってる?」
ルーン 「大体、俺はレインの奴らに会いたいなんざ一言も言った覚えはねえからな。お前らが勝手に拝んでくりゃあいいだけの話だろうが」
慌ててルーンの方へと振り返るフィオ。
フィオ 「ずるいよ、ルーン。ずっと前にシーザーが話してたじゃんか。ルーンはレインに言ってやりたい事があるんじゃないかって!」
グレイ 「だから、フィオ。それが罵倒だったりしたら大変なんだよ〜」
困惑した表情のグレイ。
一方のルーンはフィオへと切り返す。
ルーン 「じゃあ、何だ。アレスに懐いてるお前が、なんで同じレインのヨシュリアには会いたがらねえんだ?」
フィオ 「そ、それは…」
ピノ 「ふふ〜ん。ルーンはレインに妬いてるのよねぇ〜」
ルーン 「…!」
ピノ 「きゃッ!」
ギロリと睨むルーンにおびえてピノはフィオのマントの中に隠れる。
フィオ 「それはさ…」
ジニアス 「ヨシュリア様は、私の魔術の師匠なのです」
グレイ&ピノ 「えっ!」
驚く二人。
ピノ 「さすがライム王家の側近だわッッッ。実は優秀な魔術師だったのね!」
ジニアス 「いや、それほどでも〜」
照れるジニアスに小さい声でポソっとピノ。
ピノ 「金づるだわ」
聞こえていない他一行。
フィオ 「ちなみにオレの剣の師匠はアレス王なんだ」
グレイ 「すっごいや〜、二人とも!」
ルーン 「んな話は聞いちゃいねえ!」
興奮する二人を、ピシャリとはねつけるルーン。
ルーン 「だったらな、フィオ。ヨシュリアとお前は関係ねえだろ?」
ジニアス 「大ありですよ…姫様は…修行を抜け出したんです!」
グレイ&ピノ 「ええ〜?」
ルーン 「はあ?」
ジニアスの一言に苦笑のフィオ。
フィオ 「あれからずっと会ってないんだったよな、ジニアス?」
ジニアス 「師匠は大変厳しいお方です。私も修行中何度焼かれたか…」
ルーン 「や、焼かれたってお前…」
ジニアス 「ええ、吸う息で喉も焼けるとはまさにあの状況を指すのです。たまに焦げました」
グレイ 「焦げた?」
ジニアス 「はい、こんがりと」
フィオ 「オレも焦げるかな? ハハハ…」
力無く笑うフィオ。
沈黙が流れる。
フィオ(M) 「その時のオレ達は、ヨシュリア様のことで頭が一杯ですっかり忘れてたんだ。ここ、ヤンシャオの近くにはおふくろの墓があることを…」

○【サブタイトル】




○ヤンシャオの街・表通り
ピノ 「そもそもどうして修行から抜け出したりなんかしたのよ。相手は世界最高位の魔術師、レッドストーンのレインじゃないのよ。ありがたいと思いなさい」
フィオ 「オレさあ、魔法って性に合わないんだよね。遠くからポンポン火の玉飛ばすのって卑怯じゃん?」
ジニアス 「そのための魔法じゃないですか」
フィオ 「分厚い魔道書とか開くと2ページで眠たくなるし」
グレイ 「ライム魔術師団長のご令嬢のお言葉と思えないな、ハハ」
フィオ 「戦うなら剣と剣でぶつかり合えって思うんだよな!」
ルーン 「いや魔術師団長の娘以前に、お前は本当に貴族の姫様か?」
一行の先頭で飛んでいたピノはある店の前で立ち止まり、一行に振り返る。
ピノ 「ここにしましょ」
ピノに言われて同じように店の前に立つ一行。
女性向けの衣料品・雑貨が売られているおしゃれな店が眼前にある。
ピノ 「ふふふ、このあたしに任せなさい、ジニアス! ヨシュリア様にばれないように、コーディネートしてあ・げ・るッ」
ジニアス 「ええええ〜〜〜〜!」
フィオ 「オレはいいからな。もう変装してるわけだし」
ルーン 「そうだな、どっからどう見ても姫さんには見えねえ」
ジニアス 「そ、そんなぁ。とてつもなく嫌な予感がするのですが…」
フィオ 「あ、そだ」
店頭に並べられていたメガネを手に取るフィオ。
フィオ 「これでもかけとこっかな」
ジニアス 「ッ!」
メガネをかけたフィオにハッとなるジニアスは思わず呟く。
ジニアス 「フィア様…」
フィオ 「え?」
ピノ 「さあさ、グレイ、手伝って! ジニアスを引っ張ってきてちょうだい!」
グレイ 「ごめん、ジニアス。勘弁してね」
ジニアス 「え、ええええ〜〜〜〜。ひ、姫様〜〜〜〜!」
グレイに背中を押されるジニアス。
3人は店の中に入って行き、取り残されるフィオとルーン。
ルーン 「なんだ、あいつ。変なこと言ってやがったな」
フィオ 「うん。すっかり忘れてた」
俯くフィオはメガネを外す。
手の平にある大きなレンズのメガネを見つめるフィオ。
フィオ 「フィア。フィラデルフィア=ルナル。前に話した…死んじゃったオレのおふくろの事だよ」
ルーン 「そ、そうか…」
気まずそうに声が小さくなるルーン。
フィオはルーンを見上げる。
フィオ 「なあ、ルーン。ヨシュリア様との謁見が終わったらさ。ちょっと付き合って欲しい場所があるんだ。いいかな?」
ルーン 「ん…ああ」

○同街・ロンシャン城
玉座のある謁見の広間へと通される一行。
クスクスと笑いが止まらないフィオ。
ジニアスは女装している。
フィオ 「ククク、ジニアス。すっげ〜カッコ」
ジニアス 「笑い過ぎです、姫様〜」
ジニアスは玉座の脇に立つ騎士、サンユンを見る。
サンユン 「!」
目をそらすサンユン。
目を閉じて、何か笑いに耐えているように見える。
ジニアス(M) 「気づかれてる!」
青ざめるジニアス。
小声でフィオはジニアスに問う。
フィオ 「なあ、ジニアス。知り合い?」
ジニアス 「表に立つ唯一の『クロスナイツ』。熨(ひのし)のサンユン様です」
フィオ 「クロスナイツ?」
ジニアス 「お忘れですか、姫様。巫女王に仕える最強の四騎士。サンタマリア王家直属親衛隊、通称『クロスナイツ』。姫様もベルナでお会いしたでしょう。カタリム様もそのお一人です」
フィオ 「ふ〜ん」
ジニアス 「なんだかご質問しておいて興味ないご様子ですね…」
フィオ 「だってさ、位がどうこう言われたってさ、分かんないし…」
サンユン 「静粛に!」
ジニアス 「は、はいッッッ!」
その声に、ジニアスは慌ててその場に屈み膝を立て顔を伏せる。
ピノ 「まあ、あたしのコーディネイトは完璧だから心配しない〜。ばれやしないわよ」
ジニアス 「そ、そうでしょうか…?」
フィオ 「そうだ。メガネ、メガネ」
ジニアスに習い、屈むフィオはメガネを懐から取り出しかける。







グレイ 「ほら、ルーン。膝を突いて、頭を下げて!」
ルーン 「な〜んで俺がそんなまね…」
と言いかけたところでファンファーレ。
玉座に姿を現すヨシュリア巫女王。
荘厳たる雰囲気。
ヨシュリア 「……」
無言でフィオとジニアスを見つめるヨシュリア。
フィオ 「やばッ!」
ジニアス 「ひいッ!」
視線に射抜かれ怯える二人。
そんな二人を見上げるピノ。
ピノ 「だ、大丈夫? フィオ、ジニアス?」
ヨシュリア 「フッ、あなたがたがクエスターズですか…」
含み笑いをもらすヨシュリア。
フィオ&ジニアス(M) 「どう考えても、ばれてる!」
ヨシュリア 「カタリムからの訴状は預かりました。御苦労。さて、タケルから話は聞いていますよ」
フィオ 「タケル?」
ヨシュリア 「アレス=フォン=ラントライが聖戦時代に呼ばれていた名です。知らないのですか?」
フィオ 「う」
ヨシュリア 「あなたがたは私達の事を調べて世界を廻っているとか? それにしては無知なもの…」
フィオ 「うぅ」
グレイ 「ぼ、僕は知っていました!」
顔を上げて、思わず立ち上がるグレイ。
グレイ 「ずっと、ずっとあこがれてたんです。聖戦で僕は死にかけた。そんな僕を助けてくれたのはレインなんだ。世界を救ったのはレインなんだ。吟遊詩人の僕は、本当のレインの英雄譚が歌いたいんです!」
ヨシュリア 「つまり興味本位ですね」
グレイ 「そ、それは…」
ヨシュリア 「今ある史実に満足していれば良い。何の不満があるというのですか? 私達の真実とこの世界の理は対を成している。それを得る事で、あなた方は己の等価たる物を失うでしょう。考えたことはありますか、この世界の成り立ちを?」
グレイ 「世界の…成り立ち?」
我慢できなくなったのか、身を乗り出すルーン。
ルーン 「さっきから黙って聞いてりゃあ、偉そうな御託並べやがって。お前達こそ、お前らの犠牲になった奴らについて考えたことはあるのか!」
フィオ 「ル、ルーン!」
ルーン 「さぞかしそのご大層な玉座は座り心地がいいんだろう? お前らは何人殺してそこに座ってんのか、知りもしねえんだ」
身を乗り出すルーンの体を抑えるジニアス。
ジニアス 「いい加減にしなさい、ルーンッ!」
サンユン 「この無礼者めッ!」
槍を構えるサンユン。
ルーンとサンユンが一触即発の状態で睨み合う。
ヨシュリア 「お止めなさい、二人とも」
ボッという音とともに、ヨシュリアの掌にこぶし大の炎がともる。
ルーン 「ちっ!」
ジニアス 「ひっ!」
サンユン 「申し訳ございません」
再び元の位置に立つサンユンと、力を緩めるルーン。
ヨシュリア 「全てを知りたいのであれば、『夢の小箱』と『夢の鍵』を持ってデストニアに行きなさい。パープルストーンのレイン、ガルシアンがあなた方に真実を見せるでしょう」
グレイ 「『夢の小箱』と『夢の鍵』?」
ヨシュリア 「昔…、タケルから預かったものです。相応しい人間が現れた時に、それを手渡せと」
ピノ 「直接アレス王が渡してくれれば、話が早いのに…」
ヨシュリア 「彼が持ち続ける事は出来なかった。夢を映す箱…ですからね」
フィオ 「夢を映す?」
ルーン 「けっ、ワケがわからねえな。で、その箱と鍵はくれるんだろ〜な?」
微笑むヨシュリア。
ヨシュリア 「まさか。残念ながらここにはありませんよ。箱は賢者の塔、鍵はクテシフォンにあります」
グレイ 「賢者の塔?」
ピノ 「クテシフォン?」
その地名にルーンの顔は歪む。
ルーン 「クテシフォンだと…。て、てめえ。そこまで手を回しやがって…用意周到だなッ!」
ヨシュリア 「フフフ。あなた方がそれを手にしようがしまいが構わない。タケルはあなた方を選んだようですが、私はそれを認めたわけではないのですからね」
ルーン 「クソッ!」
怒りに手が震えるルーン。
ヨシュリアへと背を向け、一人その場から立ち去ろうとする。
フィオ 「ちょ、待てよルーン!」
ピノ 「クテシフォンはルーンの故郷なのよ」
呟くピノ。
フィオ 「え?」
ピノ 「前に少しだけ聞いた事があるわ。ルーンは孤児で、その村の人に育てられたって…」
フィオ 「ッ!」
ルーンを追いかけていくフィオ。
同じようにフィオの後を追いかけ飛ぶピノ。
グレイ 「フィオ、ピノッ! まだ話は途中なのに…」
ヨシュリア 「いえ、用件はこれで全てです」
少し悲しそうな顔をするグレイは言いづらそうにヨシュリアに尋ねる。
グレイ 「どうしてですか。どうして僕達がアレス王に選ばれるんですか?」
ヨシュリア 「さあ。私も彼の意図するところはわかりません」
グレイ 「でも…ひどいと思います。ルーンは…自分のことをあまり話したりしないんです。それってたぶん、話したくないからですよね。触れられたくないんだからだと思うんです。なのに、調べたんですね。彼のこと…」
ヨシュリア 「幻滅しましたか?」
小さく笑うヨシュリア。
グレイ 「い、いえ…そんな…」
ヨシュリア 「レインを敬うあなた方、そしてレインを憎む彼に…タケルは裁きを求めているのだと思うのです」
グレイ 「『裁き』ですか?」
ヨシュリア 「行きなさい、グレイ。私が述べた以上のことはあなたの目で直に確かめるとよいでしょう」
グレイは何か言いたい様子でヨシュリアの顔を伺う。
グレイ 「『興味本位』とは違うんです。僕は…ただ…」
ヨシュリア 「あなたは、これから気の遠くなるような時間の中でゆっくりと見据える事が出来るのですから、急く必要はないのです。聖獣アール=グレイ」
グレイ 「ッ!」
ヨシュリア 「『聖戦の真実』そして『世界の成り立ち』。全てを知り得る事に、果たして意味はあるのでしょうかね?」
グレイ 「それでも…」
俯くグレイは拳を握る。
グレイ 「僕は知りたいと思います。僕は吟遊詩人です。僕だけの、たった一つの歌を創りたいんです!」
ヨシュリア 「そして、歌い続けるのですか? 永遠の時を…」
グレイ 「ッ!」
ハッとなって顔をグレイ。
ヨシュリア 「私もまた竜人。おそらく唯一の生き残りでしょうが、私もいつか死を迎える。しかし、この世界に残されたたった二人の聖なる獣である聖獣。あなたとミッフィーの命には終わりはない」
グレイ 「僕は…」
ジニアス 「グレイ…」
うなだれるグレイに対し、心配そうに声をかけるジニアス。
ヨシュリア 「下がりなさい、グレイ。クテシフォンへの道はルーンが知っているでしょうから、賢者の塔への道標を…」
ヨシュリアはジニアスへ微笑む。
ヨシュリア 「そこの可愛らしいお嬢さんにお話しましょうか?」
ジニアス 「いいっ!」
グレイ 「…わかりました。失礼します」
寂しそうな表情を見せるグレイは、トボトボと広間を去っていく。
その後姿を見送るジニアスとヨシュリア、そしてサンユン。
ジニアスは重い口を開く。
ジニアス 「カタリム様も仰っていました。私達に裁きを求めていると。アレス国王陛下が箱を開けるに相応しいと認めた人間が、私達なのですか? 師匠…」
ジニアスの視線は玉座ではなくテラスへと向けられる。
テラス奥から姿を現す、ヨシュリア。



ヨシュリア 「よくぞ見破りました、ジニアス。ずいぶん面白い格好をされてますね?」
笑うヨシュリア。
ジニアス 「あの時、師匠なら確実にルーンもサンユン殿も、私も焼いてます」
サンユン 「そうですね、こんがりと…」
同じくサンユンは笑う。
玉座に座るヨシュリアの姿をした女性は、これまでの荘厳な雰囲気をガラリと変え陽気に笑う。
シュリ 「アハハハ。んもう〜、ルーンって子。ずいぶんと血の気の多い坊やだこと」
ジニアス 「お久しぶりです、炯(けい)のシュリ殿」
シュリ 「ジニアスも変わらないわねぇ。相変わらず愛しの姫様に尻しかれちゃってるわけ?」
ジニアス 「ええ…まあ」
シュリ 「しかも、また面白そうなお仲間だわよね。聖獣に妖精、それに神具の操者。タケル様んとこのお姫様かぁ」
サンユン 「そして巫女王陛下の愛弟子であるジニアス殿ですか…本当によくできている」
ジニアス 「はあ…」
シュリ 「なによ、選ばれた事に不満でもあるの?」
ジニアス 「いえ、そんな…滅相もありません!」
慌てて首を振るジニアス。
ヨシュリア 「さて、賢者の塔ですが…」
ジニアス 「場所は存じ上げています」
ヨシュリア 「私も同行しましょう。あの塔の扉に封印を施していますからね」
ジニアス 「え、えぇ? 師匠も?」
シュリ 「あら。じゃあ、あたしはまたお留守番か」
ヨシュリア 「誤解しないで下さい、ジニアス。私は封印を解くだけですからね。あとはせいぜい頑張って下さい」
その言葉に、素っ頓狂な声を上げるジニアス。
ジニアス 「へ?」
ヨシュリア 「同じ言葉をはるか昔、タケル達に伝えましたらね。グリンとミッフィーは怒っていました」
シュリ 「あら、じゃあ。レインも登ったのね、賢者の塔に!」
ヨシュリア 「あの塔には師が残したやっかいな仕掛けがありましてね…フフフ、面白そうな事になりそうです」
ジニアス 「は…ハハハ…そ、そうですか」
不敵な笑いをたたえるヨシュリアに、ただうろたえるジニアス。
ジニアス(M) 「今すぐにでも、姫様を連れライムに戻りたいというのに…」
ヨシュリア 「それと、ジニアス。ルーンについて調べていた時に気になる事がわかりました」
ジニアス 「え…」
ヨシュリア 「ルーンの本当の名。あなたはご存知ですか?」
ジニアス 「ッ!」
驚くジニアスは声を失う。