第13話 憧れだったのに
シーンA
○賢者の塔・入口
蔦に覆われた大きな鉄扉。
その前に立つ一行とヨシュリア。
ヨシュリア 「『Unlock』」
扉が鈍く光ると、奥へと開かれる。
グレイ 「うわ、勝手に開いた!」
ヨシュリア 「この塔の最上階に、師匠が使っていた部屋があります。そこに小さな箱が置いてあるはずです。また、書物が山ほどあるでしょうから、好きに読んで構いません」
グレイ 「はい」
フィオ 「そんな山ほどの本なんて、いつになったら読み終わるか分からないじゃんか」
ヨシュリア 「ほとんどがあなたの興味のない魔道書ですよ、ファルシーオ」
フィオ 「う」
おびえて小さくなるフィオ。
ヨシュリア 「その中に、師匠が残した歴史書があります」
ジニアス 「マホメト師が記した歴史書ですか」
ヨシュリア 「はい。不死なる賢者・マホメト。彼の1000年にわたる生涯が、分かるはずです」
グレイ 「1000年って…」
ヨシュリア 「ええ。今から1000年前。レジェンドと呼ばれた伝説の時代の話ですよ」
グレイ 「レジェンドといえば、ヴァティスが初めて地上に姿を現した時の話ですか? じゃあ、当時のレイン。伝説の勇者アクスタインに関しても、その歴史書には書かれているんですね!」
ヨシュリア 「…ええ」
ヨシュリアは塔の頂上を見上げる。
ヨシュリア 「まずあなた方が知るべきは、聖戦よりもさらに昔。伝説の真実でしょう」
ピノ 「うぅ〜、そういう重い話はあとでいいのよ〜」
フィオ 「どうしたんだ、ピノ?」
ピノ 「いや〜な予感がするのよね」
ヨシュリア 「フフフ。フェアリーは我々よりも小さくか弱い種族ゆえに、第六感に優れているといいます。気配や予兆、そういった言葉で説明できない事象を敏感に察知する」
ピノ 「なんか居るわよ。この塔に…」
ルーンを除く一行 「!」
ドキリとする一行。
ジニアス 「ところで、師匠。城で仰られていましたが…」
ヨシュリア 「私の道案内はここまでです。あとはせいぜい頑張って下さい」
グレイ 「ええ〜!」
ヨシュリア 「アレス王もまた、修行を兼ねてこの塔を登りました。グリンとミッフィー、オーフェも共に」
アレスという名に反応したフィオは、俄然やる気となりルーンの腕を引っ張る。
フィオ 「よし、行くぞルーン」
ルーン 「……」
無言のルーンは聞いてはいないようで、微動だにしない。
フィオ 「なあ、ルーンったら」
ルーンは腕にしがみつくフィオと目が合う。
視線をそらすルーン。
ルーン 「わかったから離れろ!」
怒ったルーンはフィオを振り放す。
先に塔の中へと入っていくルーン。
ピノ 「あ、ちょっと。待ちなさいったら〜!」
ルーンを追いかけていくピノ。
残されたフィオ、グレイ、ジニアス。
フィオ 「ったく、何だよ、ルーンの奴。変なの」
ヨシュリア 「……」
ヨシュリアは背を向け、来た道へと歩き出す。
ジニアス 「師匠、戻られるのですか?」
背を向けたまま答えるヨシュリア。
ヨシュリア 「私の役目は終わりました。後はガルスに、任せますよ」
ジニアス 「あの…ガルシアン様に伝えることがあれば…」
言いにくそうに。
ヨシュリアは足を止める。
ヨシュリア 「……」
重い口を開くヨシュリア。
ヨシュリア 「…ガルスには…」
そこへピノの悲鳴とルーンの叫びが聞こえる。
ピノ 「きゃあぁぁぁぁ!」
ルーン 「なんだこりゃ!」
フィオ 「ル、ルーン!」
グレイ 「ピノ!」
慌てて追いかけるフィオとグレイ。
ジニアス 「姫様!」
走り去ったフィオへと向いたのち、ヨシュリアへと振り返ると彼女の姿はない。
ジニアス 「…師匠…」

○【サブタイトル】




○同・塔内
目の前で宙に浮かぶ無数の光の玉。
合流するフィオ、グレイ、ジニアス。



フィオ 「どうしたんだ!」
ルーン 「斬りつけたら、分裂しやがった。何なんだ、こりゃ!」
フィオ 「うあ!」
フィオに向かい襲いかかる光の玉。
ジニアス 「主ラシューヌ神イリス、正しき者に神のご加護を…『プロテクティブ・サークル』!」
フィオを守る光の壁が光の玉を弾き返す。
ピノ 「フィオ!」
グレイ 「離れて! 出でよサラマンダー!」
サラマンダー 「光の精霊が、無粋な真似を!」
グレイの第三の瞳から現れた火トカゲが、光の玉を飲み込む。
ルーン 「俺の神具でも止めは刺せねぇ。一体何なんだ、こいつは!」
グレイ 「光の精霊『ウィル・オーウィスプ』だよ。まさか人を襲ってくるなんて」
ジニアス 「物理攻撃無効。まさかこれが、師匠が仰っていた、修行ですか…」
冷や汗が滲むジニアス。
ピノ 「安心してる場合じゃないわよ! また何か来る!」
構える一行。
そこへ大きな足音が近づいてくる。
石の巨人・ゴーレム。
グレイ 「行け、サラマンダー」
サラマンダー 「お任せを!」
ゴーレムは炎に包まれるが、ひるむ様子はない。
ジニアス 「あれはゴーレムです。しかも魔法障壁(マジックシールド)を施してあるようですね。こちらは逆に魔法攻撃が効きづらい」
ルーン 「だったら…」
神具を構えるルーン。
同じくフィオもまたファルシオンを構える。
フィオ 「オレ達の出番だ!」
駆け出す二人。
フィオ&ルーン 「ハアアアァァァァ!」
その二人の様子を満足げに見守るピノ。
ピノ 「流石だわ、二人とも。息もぴったりじゃない」
ジニアス 「……」
複雑な表情を浮かべるジニアスに気づき、ピノは顔を見上げる。
ピノ 「何よ、不満でもあるの? はは〜ん、さては私のお姫様に近づく不届き者とでも思ってるんでしょ!」
ジニアス 「…滅相もございま…いえ、まったくもってその通りで…」
ピノ 「わけわかんないわ」
ジニアス 「え〜、その…」
グレイ 「ジニアス!」
グレイの悲鳴のような呼ぶ声。
ジニアスとピノが振り返るとそこには今度は黒い玉がグレイに襲いかかる。
グレイ 「闇の精霊『シェイド』だ!」
ジニアス 「六元の紅…熱く燃ゆる炎よ。我が意思により、灼熱の業火となれ。『エクスプロード』!」
炎にかき消されるシェイド。
ピノ 「ちょっと、こんなのきりがないわよ!」
ゴーレムを倒したフィオとルーンは、武器をしまう。
フィオ 「そうだな、とっとと上へ昇ろう!」

○同・バルコニー
月夜。
月明かりが暗い塔の中に差し込む。
スヤスヤと寝息を立てているグレイ、ピノ、ジニアス。
ルーンは壁にある魔方陣を指でなぞる。
ルーン 「魔物除けの魔法陣か」
フィオ 「きっとさ、マホメトが修行の途中に安心して休める場所を作ってくれたんだな」
現れたフィオに驚くルーン。
ルーン 「なんだ、お前か」
フィオ 「『お前』はないだろ」
頬を膨らませるフィオはルーンの隣に立つ。
ルーンはフィオの顔を見ようともしない。
ルーン 「休めるうちに休んでおけ。まだ見張りの交代の時間じゃないだろ」
フィオ 「なんかさ、ルーン。おかしいよ」
ルーン 「!」
フィオ 「入口でも素っ気なかったしさ。オレ、なんかやっちゃったかな」
すまなそうな顔を見せる。
ルーン 「別に」
フィオから離れようとするルーン。
フィオ 「待てよ」
フィオはルーンのコートを握る。
フィオ 「こっち向けったら」



ルーン 「世界一の剣士になるのが、お前の夢なら…ジニアスの言うとおりライアスに戻って、アレス王に稽古をつけてもらえばいい」
フィオ 「!」
ルーンのコートを離すフィオ。
フィオ 「そんなに、アレス王のことが嫌いなんだ」
ルーン 「それとは関係ねえ。俺とお前は…」
フィオ 「ずっと昔、オレが小さい頃…サンタマリアの森の中で魔将に襲われた」
ルーン 「?」
フィオ 「その時、助けてくれた男の子がいた。オレよりちょっと年上の男の子。自分の上半身くらいあるバトルアックスを軽々と振って魔将をやっつけた。すごい、強かった。オレはただ、怖くて泣くことしかできなくて。そんなオレを、そいつは元気づけてくれて…近くの街まで送ってくれたんだ」
ルーン 「お前…」
ルーンは目を見開く。

フラッシュバック・第2話




ルーンは聞こえない位の小さな声で呟く。
ルーン 「お前、あの時の…」
フィオ 「そいつに憧れて、オレは強くなろうと思った。そうして、ライム城でオレはアレス王に会ったんだ」
照れて笑うフィオ。
フィオ 「オレさ、アレス王の事、王様だって分からなくて勝負をしたんだよ」
ルーン 「無茶しやがる」
ようやく、ルーンは微笑み返す。
フィオ 「うん、左手一本で軽くあしらわれてさ。オレ、思ったんだ。この人みたいに強くなれば…今度あいつに会う時に、オレは恥ずかしくないんじゃないかって」
ルーン 「……」
ルーンを見上げるフィオ。
真摯なフィオの表情に、ルーンは顔を赤らめ視線をそらす。
フィオ 「アレス王は強さに驕らない。完璧な剣士だと思った。でも、気づいたんだ…」

○フィオの回想





ライム城内廊下を歩くアレスとジニアス。
アレスの後ろを早足でついて行くジニアスは言いづらそうに口を開く。
ジニアス 「陛下、せめてお一方でもお逢い頂けませんか?」
アレス 「だから何度言ったら分かるんだ」
やや苛立った様なアレス。
そこへ能天気なフィオの声が聞こえる。
フィオ 「お、アレス王。モテモテじゃん。お見合いぐらいすりゃあいいのに」
ジニアス 「ひ、姫様!」
アレス 「相手が不幸になる」
その言葉に驚くフィオ。
フィオ 「え?」
アレス 「もう俺は、誰も傷つけたくはないんだ」
アレスがみせる寂しげな表情に気付くフィオ。
フィオ 「アレス王…」

○賢者の塔・バルコニー
満月を見上げるフィオ。
フィオ 「今夜はまあるいお月さまだよな。でもさ、あの人は違う。欠けてるんだ、何かが…。よく分からないけど。オレは欠けている物が何なのか。それを知りたい」
苦笑するルーンは小さく呟く。
ルーン 「お前には…敵わないな」
フィオ 「え?」
ルーン 「約束は守る。俺はお前達と一緒に、夢の小箱と鍵を手に入れて、聖戦の真実とやらを見てやるさ。だから…」
ルーンはポンポンとフィオの頭をなでる。
ルーン 「今はとっとと休めよ、フィオ」
優しく微笑むルーン。
フィオ 「……」
笑うルーンの顔を茫然と見上げたフィオは、次第に満面の笑みを浮かべ…
フィオ 「うん!」
嬉しそうに頷く。
その様子を壁際で、隠れて聞いているジニアス。
ジニアス 「姫様…」
心配そうに息をもらす。