第14話 オレとアイツ
シーンA
○クテシフォンの村・麦畑
夜。
肩を震わして泣くフィオ。
フィオ(M) 「泣くのは今日で終わりにしようと思う」



フィオ 「ひっく…」
ポロポロと涙を流す。
フィオ(M) 「ジニアスは心配するだろうな。グレイは一緒に泣いちゃうかもしれない」
心配そうにフィオの顔を見上げるピノ。
ピノ 「フィオ…」
フィオ(M) 「アイツは、きっと困った顔をするんだ。だけど、この間みたいにちょっとだけ優しくしてくれる」
ピノ 「今日はね、泣いていいんだよ。いっぱい泣いていいんだからね」
フィオ 「えっ、えっく…」
フィオ(M) 「人を好きになることって、どうしてこんなに苦しいんだろう」

○【サブタイトル】




○サンタマリア・クテシフォン近辺の森
獣道のような険しい山道。
ルーンを先頭に茂みをかき分けるように登っていく。
ピノ 「本当にこんな山の中に村なんてあるの?」
ルーン 「ほとんど自給自足で生活をしているからな。あそこは神具の民が隠れ住んでいた村だ」
フィオ 「神具?」
グレイ 「ルーンの武器。あれのオリジナルだよ。神がレインに創りたもうた武器さ」
グレイは腰に下げたロッドを指さす。
ルーン 「……」
フィオ 「えっと、ルーン?」
ルーン 「なんだ?」
静かに答えるルーンに表情はない。
フィオ 「前に触ろうとしたら怒った。大切なものなんだよな?」
ルーン 「ああ…。これは形見だ…」
フィオ 「?」
岸壁に開いた洞窟。
ルーン 「この洞窟の先に、クテシフォンの隠れ里がある」

○同・クテシフォンの村入口
大木の梢に下がる鐘がカラカラと音を立てる。
その鐘を見上げるユルヨル。
ユルヨル 「おお、鳴った。ついに、あいつの帰郷か」

洞窟の出口。
出口の前に立つのは一人の女性。
ヌーンライナー 「お帰りなさい、ルーン」
洞窟から出てくる一行。
待っていたヌーンライナーの姿に、ルーンは驚く。
ルーン 「リナ」
ヌーンライナー 「そうやって呼ぶのは、もうルーンだけになってしまったわ」
微笑むヌーンライナー。
フィオは興味津々にルーンへ尋ねる。
フィオ 「きれいな人だな、ルーンの幼馴染とか?」
そんなフィオの言葉にも、ルーンは無表情に答える。
ルーン 「ああ、そんなところだな」
ヌーンライナー 「クテシフォンへようこそ、皆さん。私の名前はヌーンライナー=サバと言います」
グレイ 「ここが神具の祀られていた村なんですね」
ヌーンライナー 「祀られていたという言葉には語弊があるんじゃないかしら、ルーン?」
悪戯っぽく微笑むヌーンライナーに、ルーンは仕方なしに答える。
ルーン 「こいつらにはまだ神具について何も話しちゃいない」
ピノ 「それにつけても、これじゃあ、完全に外の世界からシャットアウトよね」
ジニアス 「神具を守るためですよ」
ヌーンライナー 「この人達はみんなルーンの仲間なの?」
ルーン 「まあな。ここで鍵を預かってないか?」
ヌーンライナー 「ふうん」
ヌーンライナーは面白そうに、ルーンの隣に立つフィオの顔をじっと見つめる。
フィオ 「なに? オレの顔に何かついてる?」
ヌーンライナー 「黒い髪でちょっと気の強そうなところ、似てるわよね」
ルーン 「関係ない!」
強い言葉で返すルーン。
ヌーンライナー 「そうやって、少しからかっただけなのにむきになるんだもの。吹っ切れてないのよね」
ルーン 「ッ!」
フィオ 「ルーン?」
ヌーンライナーとルーンの間に緊張が走る。
それを断つように、響くユルヨルの声。
ユルヨル 「夢の鍵はヨシュリア様から預かってるよ、ルーン」
声のする方に顔をあげると、木の陰からユルヨルが現れる。
ユルヨルの陰に隠れるようにして数人の幼い子供達。
ルーン 「ユルヨル」
ユルヨル 「でも、鍵だけ受け取って、また山を下るつもりか? もう日が暮れるんだし、一晩泊っていけばいいじゃないか?」
ルーン 「そのつもりだ。俺も調べたいことがあるんでな」
子供A 「ねえ、ユルヨル。あれだあれ?」
ユルヨル 「ああ。お前達の兄ちゃんだよ。里帰りしてきたんだ」
子供B 「兄ちゃん!」
子供C 「にいに〜!」
楽しそうにはしゃぐ子供達。
フィオ 「子供がいっぱいいるんだな」
ヌーンライナー 「ここでね、聖戦で親を亡くした子供達を集めて育ててきたの。私もユルヨルも…ルーンもそう」
フィオ 「ルーン…」
ジニアス 「…孤児達の村ですか」
グレイ 「するとルーンやみなさんを育ててくれた方はどちらにいらっしゃるんですか?」
黙る、ルーンとヌーンライナー、ユルヨル。
ユルヨル 「プラチナ達は…」
ルーン 「プラチナは死んだんだ」
フィオ 「え…」
ルーンは腰にある神具に手を添える。
ルーン 「レインがこの村に訪れたせいでな。だからこれは彼らの形見だ」

○同・ユルヨルの部屋
夜。
壁に掛けられた、幼いころのルーン、ユルヨル、ヌーンライナーとプラチナ、アウロ、エージェン、キュプルの絵。
それを見つめるルーン。



ユルヨル 「よく描けてるだろ、それ…」
絵を見つめるルーンに、得意げに話すユルヨル。
ユルヨル 「ヌーンライナーが描いたんだ。俺とお前、よく喧嘩したもんな」
ルーン 「ああ、魔族、魔族って馬鹿にしやがって」
ユルヨル 「悪かったって思ってるよ」
ルーン 「別に、もう気にしちゃいねえ」

○ルーンの回想・クテシフォンの村小屋
取っ組み合いの喧嘩をしている幼いルーンとユルヨル。
ユルヨル 「俺のカップ隠したの、お前だろ!」
ルーン 「俺は知らない!」
ユルヨル 「お前は魔族だから、泥棒だ、人殺しだ! お前らがいなきゃ、俺の父さんと母さんだって!」
ルーン 「俺だって、好きで魔族に生まれたんじゃない!」
プラチナ 「止めなさい、ルーン、ユルヨル!」
プラチナの諌める声に、ルーンとユルヨルの動きは止まる。
その横で泣いている幼いヌーンライナー。
ヌーンライナー 「ごめんなさい、ごめんなさい。コップ、割っちゃったの。隠したの、あたしなの!」
プラチナ 「ユルヨル、生まれた種族で差別をしてはいけない。あなた達はみな、生きている事に変わりはないのだから」
ユルヨル 「……」
プラチナ 「それに、ルーン。あなたは、人と人が愛し合った証しなの。今、ここに生きている事を否定してはいけない」
幼いルーンは、気まずそうに顔を伏せる。
ルーン(M) 「俺に生きることの意味、人の愛情を教えてくれたのは、プラチナだった。彼女は俺達クテシフォンの孤児にとって、母親の様な存在だった。
けれど、俺達が成長しても、彼女の姿は変わらない。俺は彼女の背を抜いて、戦斧を持って魔将から村を、プラチナを守るようになって。俺はいつしか、彼女を母でなく一人の女として見るようになっていた。
そんな時だ、アウロが俺を呼び出したのは…」

○ルーンの回想・クテシフォンの村小屋
部屋にはルーンの他に、アウロ、エージェン、キュプル。
3人の神具の民は険しい表情でルーンを見据える。
ルーン 「村を出て行けってどういう事だよ」
メガネをかけた神具の民の青年・アウロはルーンに言い放つ。
アウロ 「お前はプラチナに特別な想いを抱いている。それはこの村では決して許されない」

フラッシュバック
プラチナに想いを告げるルーン。




ルーン 「プラチナと俺の問題だろ。アウロ達には関係ない!」
エージェン 「大いにあるんだよ。俺達神具の民は一心同体。六の神具を構成するエレメント」
ルーン 「意味わかんねえよ!」
キュプル 「僕らは…ルーンと違う。人間でも、魔族でも、エルフでもない。千年の時間をかけてようやく、人の心を持ち形をとっているだけなんだ」
ルーン 「プラチナと話をさせてくれ。まだ返事を聞いていない!」
アウロ 「我々は命ある者じゃない。だから老いもしない。これを不思議には思わないのか、ルーン?」
ルーン 「!」

○同・ユルヨルの部屋
ユルヨル 「プラチナとアウロ、エージェン、キュプルはレインに殺されたわけじゃない」
ルーン 「……」
言い返さないルーンは、ただ絵を見つめる。

○同・ヌーンライナーの部屋
髪を下ろしたフィオは椅子に座る。
その髪を優しく梳かすヌーンライナー。
鏡の前にはその様子を見守るピノがいる。
ヌーンライナー 「私たち3人を育ててくれた4人は神具の民と呼ばれていた。プラチナ、アウロ、エージェン、キュプル」
フィオ 「プラチナって」
ヌーンライナー 「彼女だけが女性。あとは男の人。いえ…人ではないわ。彼らは神具そのものだった」




○ルーンの回想・クテシフォンの村麦畑





風が吹く麦畑の中、向き合うルーンとプラチナ。
プラチナ 「行きなさい、ルーン。あなたはこの村に居てはいけない」
ルーン 「プ、プラチナ…」
プラチナから発せられた強い別れの言葉にルーンは言葉を失う。
プラチナ 「あなたが不幸になる。もう、気づいているでしょう? 私達は人ではない」
プラチナは手に持つ神具をルーンに託す。
プラチナ 「どうか、悲しまないで、憎まないで。強く生きるの、ルーン」
微笑むプラチナ。
プラチナ 「あなたには人を幸せにする力があるのだから…」

○同・ユルヨルの部屋
うつむくルーンに対し、ユルヨルは優しく声をかける。
ユルヨル 「プラチナ達は、決してお前を追い出そうとこの村から発たせたわけじゃない」
ルーン 「……」
ユルヨル 「お前が村を出て、まもなくだったよ。レインがここを訪れた。彼らは本来の姿、神具に戻った。そして、レインは彼らとともにこの世界を救ったんだ。彼らは決して死んだんじゃない、ましてレインに殺されたわけじゃない。それこそ、お前の行き場のない憤りをレインにぶつけてるだけじゃんか」
ルーン 「分かってる!」
バンッと壁を叩くルーン。
ルーン 「分かってるんだ。どうしようもなかったってことぐらいはな!」
ユルヨル 「……」
ルーン 「けど、だったら何で最後までこの村に残してくれなかった。プラチナが人の姿をとれなくなるその時まで、なんだって…」
壁に額をつけ、顔を伏せるルーン。
ユルヨルは重い口を開く。
ユルヨル 「すべてを知ったお前なら…レインが神具を手にする時に、どうしてたと思う?」
ルーン 「!」
ユルヨル 「全力で止めただろうな。この事実は…俺達ですら…、あの時まで知らなかったんだ」
苦笑するユルヨル。
ユルヨル 「先月な、夢の鍵を持ったヨシュリア様がこの村へ訪れた。ご本人がサンタマリアの北端、こんな山の中へだ」
ルーン 「何だって?」

○ユルヨルの回想・クテシフォンの村小屋
ユルヨルの部屋。
ヨシュリアは護衛もつけず、部屋には彼女とユルヨル、ヌーンライナーの3人きり。
ヨシュリアは鍵をユルヨルに渡す。
ユルヨル 「この鍵を預かるだけでいいんですか?」
ヨシュリア 「ええ。ここへはいずれルーンが訪れます。その時にこの鍵を渡して欲しいのです」
ヌーンライナー 「直接お渡しになればいいのに…」
ヨシュリア 「これは彼らに与える試練ですからね。しかし、何よりも私個人がこの村へ来なければならない理由があったのです」
ユルヨル 「え?」
ユルヨルとヌーンライナーに頭を下げるヨシュリア。
ユルヨル 「よ、ヨシュリア様!」
ヨシュリア 「私達レインは、貴方達の親であった神具の民を、奪ってしまった。こうして謝罪した所で彼らが再び元のように戻っては来ない事を重々承知しています。けれど今しばらく、彼らをお返しできません」
ヌーンライナー 「その気持ちだけで十分じゃない。私はまだ、神具に戻った彼らを目の当たりにする覚悟も出来てないし。ここへルーンが帰って来るんだとしたら、それも酷な話でしょ」
ユルヨル 「もうよして下さい、ヨシュリア様。レインは世界を救った。それが神具の民の願いだったんですから」
ヨシュリア 「…お心遣い感謝します」
顔を上げるヨシュリア。

○同・ユルヨルの部屋
ユルヨルの話に、ルーンは顔を伏せる。
ユルヨル 「レインを憎んでも何も変わらないだろ、ルーン」
ルーン 「レインの話も、プラチナの話も…もうよしてくれ」
グレイ 「ルーン!」
そこへ二人を呼びに来るグレイとジニアス。
ルーンは慌てて顔を上げる。
グレイ 「ルーン、ユルヨルさん。ヌーンライナーさんが夕食だから下に降りて来てってさ」
ルーン 「あ、ああ…」
表情を見せずにグレイとジニアスの横を通り過ぎるルーン。
グレイ 「ルーン?」
グレイはルーンを追いかけるように1階へと降りていく。
残されるジニアスとユルヨル。
ジニアス 「ユルヨルさん。実はルーンの身の上に関してお話があるのですが」
ユルヨル 「え?」
ジニアス 「彼がこの村へ預けられた際の詳細をご存じなら、お教え下さいませんか?」