第15話「魔王はいない」
シーンA
○テーベの街・グリーンウッド本部
グリーンウッド本部の一室・グリンの部屋。
薄暗い部屋にはグリンとエイセルが二人きりで立つ。
グリン 「アルティマで一体何が起こってやがる。バルナギーゼ卿の尻尾は掴めねえか?」
エイセル 「フェルラーラからきれいさっぱり引き払っちまったな。何にも残っちゃいない」
グリン 「実はよう。イデアに逃げられた」
エイセル 「おいおい、天下のグリーンウッドが何やってるんだ?」
グリン 「この俺様がほんの少し眼を放した隙だ。ペンソが一撃でダウンだぜ。あいつだってそれなりに修羅場を潜り抜けてきた奴なんだがよ」
エイセル 「生きてるのか?」
グリン 「ああ、その場でぶっ倒れただけだ。運がいい」
エイセル 「なるほど、俺をわざわざ呼び出したのはそういう理由か?」
グリン 「勘がいいな」
エイセル 「ターゲットの名前は?」
グリン 「『ガイアス』。頬に傷のある仮面の男。世界各地でタブーウェッジを集めてる」
エイセル 「タブーウェッジ…禁呪の封印石か?」
グリン 「お前が興味を持っている『コンピニア』と『アルティマ』に直接関係はないが…バルナギーゼ卿と通じている事だけは確かだ」
エイセル 「どこからその情報を?」
グリン 「イデアを掻っ攫いやがったのはアイツだからさ」
エイセル 「証拠はあるのか?」
グリン 「……」
グリンは手にある一枚の木の葉を見せる。
葉に映し出されたイデアとガイアスの姿。
エイセル 「さすがレイン。器用な事が出来るな」
グリン 「お前が言うと嫌味にしか聞こえねえ」
エイセルはグリンから木の葉を受け取る。
笑うエイセル。
グリン 「奴は魔将を使う」
エイセル 「俺の腕を買ってこのクエストだろ。この礼は高くつくぞ。『テレポート』」
瞬時に消えるエイセル。
近くにある椅子にかけるグリンは大きくため息をつく。
グリン 「ったく…。頬に傷のある男か、まさかな…」

○【サブタイトル】




○デストニア近海・船上
寒々とした海。
甲板からデストニアの大陸を眺めるルーン。
ルーン 「……」
ルーンはそっと、グレイと話すフィオの姿を見つめる。
フィオ 「北の大地デストニアかぁ。よくそんな格好で寒くないよな、グレイ」
グレイ 「う、うん。そうだね。僕もフィオみたいにマントでも羽織ろうかなぁ、ハハ…」
気を使うように笑うグレイ。
フィオ 「ガルシアン様はどこにいるんだろ」
ジニアス 「我々がデストニアに向かう事を、ガルシアン様もご存知のはずですし、大陸の港は唯一…ヤスリブの街にしかありませんからね、迎えの人間も来ているのではないでしょうか?」
フィオ 「ふぅ〜ん」
冷たく相槌を打つフィオにジニアスはビクリとなる。

○フィオの回想・船上
夜の甲板にフィオとジニアスの2人。
フィオはジニアスに背を向ける。
フィオ 「別に黙ってた事、これ以上何も言わないからな」
ジニアス 「でしたらこちらを向いて下さい。私は…」
フィオ 「こうなったらお袋を探し出して徹底的に問いただしてやる!」
ジニアス 「駄目です、姫様!」
フィオ 「オレは絶対お袋に会うまで帰らないからな!」
ジニアス 「フィア様はお亡くなりになったのです。どうしてあんな輩の言う事を信じるのですか?」
フィオ 「ジニアスも親父も嘘つきだッ!」
ジニアス 「姫様のためです」
フィオ 「オレはマジで怒ってんだぞ!」
ジニアス 「!」
ジニアスはフィオの両肩を掴み、こちらに向かせる。
鬼気迫る表情。
ジニアス 「姫様をお守りするのが私の使命です。申し訳ありません。多少なりとも無礼を働くやも知れませんが、聖戦の真実を見極めたその後は、我が命に代えてもお父上の元に戻っていただきます」

○デストニア近海・船上
フィオはジニアスから目をそらす。
フィオ(M) 「ルーンとオレが兄妹だって事、あいつは初めから知ってたんだ」
フィオ 「!」
ふと視線に気づき我に返るフィオ。
フィオに気遣うようにグレイとピノの視線がある。
グレイ 「ほ、ほら。フィオさ、船酔いしなくなったんじゃない?」
フィオ 「あ…アハハ。そうだな…うっ…」
顔をしかめるフィオの姿に、ピノはグレイの耳を引っ張る。
ピノ 「ちょっと、話を振るにも言葉を選びなさいよ!」
グレイ 「ご、ごめん!」
フィオ 「あ…」
フィオ(M) 「そうか…気を使ってるんだ」
照れて笑うフィオ。
フィオ 「意識すると気持ち悪くなるんだよ。いっそ魔将でも出てくりゃ、船酔いどころの騒ぎじゃないのに。な、ルーン!」
ルーンの背中をポンと叩くフィオ。
ルーン 「んな」
フィオ 「ほらさ、幽霊船騒ぎの時!」
ルーン 「ん、あ…ああ」
と、ルーンは一瞬フィオを見たあと、目をそらし海上を見る。
その視線の先に見える、街の上空に飛来する無数の黒い大きな影。
ルーン 「あ…ありゃ…」
フィオ 「魔将だッ!」

○デストニア・ヤスリブの街
街の上空に飛来する魔将グリフィン。
逃げ惑う街の魔族達。
その中、魔族と獣人のハーフであるスティックは一人目立つ。
スティックは空を見上げる。
スティック 「てやんでぇ。まぁた、魔将か!」
槍を構えるスティックは魔族の翼を広げ、空へと飛ぶ。
スティック 「てめえの好き勝手にゃ、させねえぇぇぇぇっっっっ〜〜〜〜!」
グリフィンへ向かっていくスティック。




○デストニア近海・船上
上空に増えたもう一つの影を認める一行。
ジニアス 「一人で戦うなど無謀です。助けなくては!」
ルーン 「おい、港に急げ!」
ルーンは船員を急かすが。
船員 「バカいうな。魔将が居ると分かって、みすみす港に近づく船があるか!」
ルーン 「クソッ!」
コートを脱ぎ捨て、翼を広げるルーン。
空へと飛ぶ。
フィオ 「ルーンッッッ!」
ルーンを呼び止めるフィオ。
ルーンは一度フィオの姿を見下ろした後、港へと飛び立つ。
フィオ 「……」
小さくなっていくルーンの影に、フィオはルーンのコートを握り締め呆然と立ち尽くす。
ジニアス 「姫様…」
グレイ 「フィオ…」
ピノ 「ちょっと、何ぼさっとしてるのよ。グレイ、シルフを呼びなさい!」
ピノはただ一人大声を張り上げる。
ピノ 「あいつ一人放って置く気? あたし達も追いかけるのよッ!」
ピノはフィオの肩に降り立つ。
ピノ 「らしくないわよ、フィオ。あんたがそんなんでどうするのよ。ルーンの世界を、変えてやるんじゃなかったの?」
フィオ 「!」
ピノ 「世界一の剣士になってあいつをぶちのめす。その位の心意気じゃなくちゃ、あたしもマネージャーのやる気をなくすわ!」
グレイ 「ピノ…」
ピノ 「あたしは言いたい事は言ったわよ。グレイ、あんたも何か言いなさいッ!」
グレイ 「え、ええ〜。僕?」
戸惑うグレイだが、一息ついて詠唱する。
グレイ 「聖獣アール=グレイの名において命ずる。出でよ、シルフ!」
シルフ 「はい、グレイ様!」
グレイに呼ばれて瞳から現れる鳥の姿の精霊、シルフ。
グレイはシルフの背に乗る。
グレイ 「乗って、フィオ。僕らもルーンを追いかけよう! 今すぐ元通りになる必要ないんだ。また追いかけて、捕まえればいいんだから!」
ジニアス 「姫様…」
フィオ 「ああ!」
力強くうなずくフィオ。

○デストニア・ヤスリブの街
グリフィンと一人戦うスティック。
疲労の色が見える。
スティック 「ハアハアハア。んにゃろう。ちょこまかと逃げ回りやがって!」
ルーン 「ハアアアァァァァ!」
神具を構えグリフィンに斬りかかるルーン。
突如現れた増援に驚くスティック。
スティック 「んな…何だ、お前!」
ルーン 「いいから黙ってろ!」
スティック 「な、何が黙ってろだ〜。いきなりでしゃばりやがって!」
ルーン 「ッ!」
グリフィンの鉤爪が二人に襲い掛かり、ルーンとスティックは二手に避ける。
スティック 「邪魔すんねい、半魔族!」
ルーン 「んだと〜、人が助けに来てやったていうのになんて野郎だ…この犬公!」
スティック 「い、い、い…犬公だとぉぉぉぉっっっ〜〜〜!」
イヴン 「六元の紫…大気揺れる風よ。我が意思により、天裂く嵐となれ、『トルネード』!」



言い合う二人の間を裂くように竜巻が立ち上り魔将を襲う。
消滅する魔将。
フィオ 「ルーン!」
港へ降り立つフィオ達一行。
消滅したグリフィン達を認め、驚く。
ピノ 「一撃〜〜〜〜ッ?」
ジニアス 「これは古代語魔法『トルネード』。風系最上位魔法です。一体誰が…」
イヴン 「いつまでくだらない喧嘩をしてるつもりだい、スティック!」
フィオ 「!」
威勢のいい魔族の女性の声にフィオ達は振り返る。
スティック 「お、イヴン。さすが元魔王だな!」
地上に降り立つルーンとスティック。
苦笑いするイヴン。
ルーン 「元…魔王だと?」
イヴン 「あんた位だよ、スティック。臆面もなくあたしを『魔王』と呼ぶ魔族はね」
イヴンは、ルーンの翼に目を見張る。
イヴン 「驚いたね。スティック以外に魔族の有翼種が居たなんて」
ルーン 「何だ、デストニアでも有翼種は珍しいのか?」
クンクンと鼻を鳴らすスティック。
スティック 「ケッ。こいつも俺と同じ、半魔族さ。人間の血が混じってやがる」
ルーン 「なんだ、この獣人は」
スティック 「俺もお前と同じ半魔族だ。犬に羽が生えてるわけねえだろが?」
駆けてくるフィオ達。
フィオ 「ルーン、怪我はないか?」
ルーン 「お、おう」
やはり目をそらすルーン。
ピノ 「ッ!」
その素振りに、ピノはルーンの傍に飛び、頬をつねる。
ルーン 「いてえ! 何しやがる、チビ」
ピノ 「あんたはあんたで、男らしくないわよね。いつも通りにふてぶてしくしてなさいよ」
グレイ 「いや、十分ふてぶてしいと思うけど」
ルーン 「いつも通りって何なんだ!」
イヴン 「!」
イヴンは一行の顔を見渡す。
イヴン 「神具の操者に妖精、猫の獣人に空の瞳の剣士…なるほど、あんた達がクエスターズか」
ピノ 「あら、すっかり有名人ね」
ジニアス 「やはり。ガルシアン様からの使者がお迎えに来て下さったでしょう?」
フィオ 「でも、お前だけ抜けてるじゃん」
ジニアス 「な!」
グレイ 「そういえば、『魔術師』が入ってないよね」
ジニアス 「ひ、ひどい」
スティック 「ハッハッハ。甘いな。甘ちゃんだぜ、お前ら! 俺達はお前達を迎えに来たんじゃねえぞ」
フィオ 「え!」
イヴン 「あんた達の噂は、デストニアで動いてる魔術師から聞いた話さ」
ジニアス 「魔術師?」
イヴン 「ああ。サンタマリアのクロスナイツだ」
ジニアス 「サンタマリアの? 師匠はガルシアン様の元にご自分のクロスナイツを送られていたのですか」
フィオ 「なあ、ジニアス。誰なんだ、そいつ?」
ジニアス 「炬のカタリム様、熨のサンユン様、炯のシュリ様…すると残るは焔…」
フィオ 「焔?」
ジニアス 「私もそのコードネームを知るだけで、お名前は存じ上げておりません」
イヴン 「ガルスの居場所は極秘にされているんだ。デストニアではね」
グレイ 「ええ?」
イヴン 「だから、あたし達は道案内も出来ない。ただ、場所だけは伝えるように言われている」
スティック 「まあ、今日はもう遅せえしよ。立ち話はこんくれえにして、俺の家に来いよ!」
イヴン 「お前の家じゃない。あたしの家だ!」
スティックを先頭に歩いていく一行。
取り残されるルーンとジニアス。
ルーン 「お前らは前と変わらないんだな、ジニアス」
ジニアス 「あなたは阿呆ですか」
ルーン 「な」
ジニアス 「我々が前と同じように接するのは姫様のためです。しかし、姫様が以前と同じように振舞うのは、ルーン。あなたのためです」
ルーン 「……」
ジニアス 「ジャキィスの言葉を信じてはなりません。あなたの母、フィラデルフィア=ルナル様はお亡くなりになったのです」
ルーン 「……」
無言で歩き出す二人。