第19話 殴りこみ上等
シーンB
○ライアスの街・蒼鷹亭
夕焼けに染まる空。
蒼鷹亭の前にて、感慨深く立つルーンとピノ。
ピノ 「まさかこうやって、二人でもう一度ここに来ることになるとは思わなかったわね」
ルーン 「確かにな。もう、随分昔の話じゃねえか?」
ピノ 「1年半ってとこかしら」
ルーン 「マスターに一言文句言ってもいいんじゃねえか? あいつを使ってルルカ家へ直接出向けりゃいいだろ」
ピノ 「あんたまさか、グリーンウッドのマスターをゆすろうっていうんじゃないでしょうね!」
ピノの言葉を無視して、蒼鷹亭の中へと入っていくルーン。
頭を抱えるピノ。
ピノ 「ああ〜もう、パーティーの良心が居なくなった途端にこれ??」
半泣きで後に続く。

蒼鷹亭内。
カウンターに立つサルサに向かい話をするエルフの女性・ルクレチア。
焦ったような口調でサルサに頼む。
ルクレチア 「悪いわね、すぐに薬師か神官を手配してちょうだい。
それと、水とありったけの傷薬。清潔なタオルもッ」
サルサ 「畏まりました、すぐに!」
パタパタと奥へ走っていくサルサ。
ルーン 「お、お前。ルクレチア!」
ルクレチア 「ッ!」
ルーンの姿に驚くルクレチア。
ルクレチア 「ル、ルーンッ。それにピノじゃない。あなた達、どうしてここに!」
ピノ 「それはこっちのセリフよ。ルクレチアこそ、この騒ぎは一体何なのよ?」
ルクレチア 「フィオは…フィオはルルカ家のお姫様だったのね?」
声を低くして問うルクレチア。
その表情は今までになく重い。
ルーン 「あ、ああ」
ルクレチア 「あたしの死んだ恋人、ガードナー=シールド。彼はルナル家に仕える人間だった。
フィオの母親はフィラデルフィア=ルナル。ルナル家の人間でしょう?
ルルカ家とルナル家の関係を知って、今日ライム入りしたわ。
そうしたら、ガードナーにそっくりな人間が、裏通りで傷だらけになって倒れていたのよ」
ルーン 「なんだって?」
ルクレチア 「ジニアス=ジスタッフ。ガードナーの実の弟だったわ」
ルーン 「な!」
ピノ 「ジニアスッ!」
蒼鷹亭二階へ走り出すルーンと彼を追うピノ。

○同・二階客室
ベッドで傷だらけになって眠るジニアス。
ピノ 「ジ、ジニアス!」
ルーン 「ジニアス、しっかりしろ!」
ルーンはジニアスの体を揺する。
ルクレチア 「ちょっと、まだ傷の手当てが済んでないのよ!」
ジニアス 「ル、ルーン…」
うっすらと目を開けるジニアス。
苦しげに声を漏らす。
ジニアス 「罠だったのです、ルーン。…オルトロス様と…ひ…姫様が…ッ」
ルーン 「フィオは? フィオはどうしたッ!」
ジニアス 「姫様はまだお屋敷に。どうか、姫様を…フィオを助けて下さいッ!」
力強くルーンの腕を握るジニアス。
ルーン 「一体何があった、誰の仕業だ? こんな…」
ジニアス 「ッ…」
ピノ 「ジニアス!」
気を失うジニアス。
ルクレチア 「まったく、無茶よ!」
ルクレチアはジニアスの背中を支えた後、優しく横たえる。
ルーン 「ルクレチア、お前はなにか聞いてないのか?」
ルクレチア 「言ったでしょう、ルナル家とルルカ家は通じているって。ガードナーを殺したのは頬に傷のある男…」
ルーン 「ガイアスかッッッ!」
神具を握りしめるルーン。
立ち上がり、扉に向かって歩き出す。
ピノ 「ちょっと、ルーン!」
ルーン 「行ってくる。ルクレチア、ジニアスはお前に任せたぞ」
ルクレチア 「分かったわ」
ピノ 「む、無茶よ。一人でどうしようっていうの!」
ルーン 「貴族だろうが関係ねえ。妹だろうが関係ねえ。あいつは仲間だ、それだけだ。殴り込み上等、受けた喧嘩は買って出る!」
ピノ 「だから〜、フィオはお姫様なんでしょ。だったら、ライム王宮騎士団に通報して…」
ルーン 「お前は残った方がいい」
ピノ 「!」
ピノを振り返らずに呟くルーン。
ピノ 「ば…バカ言ってるんじゃないわ。あたしはこのパーティーのマネージャーなのよ。そのあたしが、なんで留守番なんかしてなきゃいけないのよッッッ!」
恐怖に震えながらも叫ぶピノ。
笑うルーン。
ルーン 「だったな。じゃあ、行くぞチビ。遅れるなよ!」
ピノ 「チビチビって、バカにするんじゃないわよ!」
駆けだす二人。
残されたルクレチアは、眠るジニアスへ視線を移す。
ルクレチア 「ルルカ家とルナル家。一体何があるっていうの…?」

○同・ルルカ家屋敷廊下
うつろな目をした兵達に指示をするイデア。
イデア 「ライムの士官は帰ったか?」
「は」
イデア 「もうすぐだ…閣下の大願が成就する。決して邪魔者を入れるな!」
「グハッ!」
イデア 「ッ!」
イデアは振り返ると同時に、ルーンに鳩尾を突かれる。
そのまま、ガクリと倒れるイデア。
ルーン 「悪いな。その邪魔者のお出ましだ」
ピノ 「ちょっと、ルーン。この女って…」
ルーン 「…こいつは…」

フラッシュバック・第11話
テンギュウを呼ぶイデア。




ルーン 「あの時フィオを狙った、あいつか?」
ピノ 「そうよ、イデア=ヴォルヴァ。確かアルティマの貴族・バルナギーゼ卿の手下だったわよね」
ルーン 「ガイアスはバルナギーゼと通じてるって事かッ!」
再び駆け出すルーンと飛び立つピノ。



ピノ 「でも、それがどうしてフィオを狙う事になるのよッ! 単なる身代金目的だとしても、手が込みすぎてない?」
ルーン 「ジャキィスは知ってやがった。だから俺に『あいつを守れ』って言ったのか。それにジニアスも…」
ピノ 「何よ、さっぱり分からないわ!」
ルーン 「お袋の失踪と、今回フィオが狙われた事と。ただの事情じゃねえ。バルナギーゼとガイアス。何を考えてやがる!」

○同・ルルカ家屋敷広間
階段裏、オブジェの陰に潜むフィオ。
不安な表情、息は荒い。
フィオ 「ち、畜生…親父ッ、ジニアスッ!」
館に響くガイアスの声。
ガイアス 「いつまで鬼ごっこを続けるつもりだ、ファルシーオ姫」
階段をゆっくりと降りてくるガイアス。
余裕の声。
ガイアス 「お前は小箱を開け、聖戦の真実を見てきた。もう充分だろう、悔いはないはずだ。
ならば大人しく、父親の元へ来い」
フィオ 「ッ!」
階段の裏から駆けだすフィオ。
パタパタと響く足音。
ガイアス 「……」
その足音に気づくガイアス。
ガイアス 「屋敷の庭には我らの兵が控えている。逃げても無駄だ、フィオ!」
「遊びはそこまでだ。ファルシーオ=ルルカ、ガイアス」
聞き覚えのある低い声が、ガイアスを戒める。
フィオ 「!」
立ち止まるフィオ。
ガイアス 「閣下…」
階段踊り場に現れる、バルナギーゼ卿。
脇に立つ魔将の刃は、腕を後ろ手に縛られたオルトロスの首筋を捉える。
オルトロス 「くッ!」
フィオ 「この声…」
バルナギーゼ 「遊びが過ぎれば、お前の父・オルトロス=ルルカをここで失う事になるが、それでも構わないか?」
オルトロス 「いかん、フィオ。来てはならんッ!」
フィオ 「父さん!」
振り返り階段へ戻り、駆け出すフィオ。
階段の下、ガイアスの前に立つ。
フィオ 「父さんを離せ!」
オルトロス 「フィオッ!」
バルナギーゼ 「クックック、驚いたものよ。あの時あったクエスターの小僧が、よもやルルカ家の女とは」
フィオ 「バルナギーゼッ!」
バルナギーゼ 「これでルルカ家とルナル家の女が揃う。ガイアス!」
ガイアス 「……」
フィオ 「!」
フィオに歩み寄るガイアス。
ルーン 「てめえの好き勝手にはさせねえ、ガイアス!」
フィオ 「!」
勢いよく表の扉を開ける音。
息を切らしたルーンと、光る神具。
フィオに飛びついてくるピノ。
ピノ 「フィオ〜〜〜〜ッッッ!」
フィオ 「ルーン、ピノッ!」
ガイアス 「…神具の操者。我が兵を掻い潜ってきたか」
ルーン 「迎えに来たぞ、フィオ。とっとと片づけて、お前の親父にお袋の事を聞かねえとな」
その言葉に、フィオは満面の笑みを返す。
フィオ 「うん!」
一方魔将に捕えられたオルトロスは、驚き呟く。
オルトロス 「まさか、お前がアクス=ルナル…」
バルナギーゼ 「なるほど、これは面白い。楔の家訓を破った末に生まれた息子と娘か」
オルトロス 「き、貴様。一体何を言って…」
バルナギーゼ 「六元の黄…煌めき輝く光よ、我が意思により黒き闇を照らせ…『ライト』」
フィオ&ルーン 「!」
暗い屋敷の広間が、光に照らし出される。
壁に掛けられた、ルルカ家の肖像。
描かれているのは、オルトロス、フィラデルフィア、シーナ、ガードナー、ジニアス、そしてフィオ。
ピノはその肖像にあるフィラデルフィアの姿に目を見張る。
ピノ 「あの女の人…」

フラッシュバック・第16話
ガイアスの傍に立つヴェールの女。




ピノ 「あの時の…」
肖像画を見上げるバルナギーゼ。
バルナギーゼ 「ルナル家の女は我が手中にある。残すはお前だけだルルカ家の娘よ」
フィオ 「母さんだと…、母さんはお前が攫ったのか!」
オルトロス 「違う、フィアは死んだのだ! 楔の双家に女はフィオ一人ッ!」
必死に否定するオルトロスに対し、嘲笑うバルナギーゼ。
一行を見下すように、再び向かい立つ。
バルナギーゼ 「クックック、ハッハッハッハッハッハ〜。とんだ茶番だ、オルトロス=ルルカよ」
オルトロス 「ッッッ!」
バルナギーゼ 「『母親』とは? 娘にも偽ったか、愚かな」
オルトロス 「頼む、アクス。フィオを連れ逃げてくれ!」
バルナギーゼ 「ならんな!」
オルトロス 「クハッ!」
フィオ 「父さん!」
魔将から背を斬られるオルトロス。
その場に倒れる。
ルーン 「て、てめえ!」
神具を構え、走りだすルーン。
ガイアス 「ッ!」
ルーンの神具を受けるガイアス。
ルーン 「ガイアス、邪魔だ。どきやがれ!」
ガイアス 「それはお前だ、神具の操者!」
互いの武器を打ち、間合いを取る二人。
ルーン 「この神具に耐える剣だと…」
ガイアス 「我が剣にも呪を施してある。甘く見るなよ」
ルーン 「チッ!」
ルーンは再びガイアスへと斬りかかる。
それを受けるガイアス。
ガイアス 「フン!」
ルーン 「ハアアアッッッ!」
ガイアスとルーンの殺陣。
一方、ピノは思いついたように声を張り上げる。
ピノ 「フィオ、ルーン。あんた達の母親は間違いない、バルナギーゼの所に居るわ!」
フィオ 「な!」
ピノ 「あたし見たもの、リヤードの教会の地下で、ガイアスと一緒に居た!」
ピクリとまゆを動かすバルナギーゼ。
バルナギーゼ 「それは違う、妖精。この二人の母親ではないな。姫よ、お前は何も知らぬ」
フィオ 「何が、…何が知らないって言うんだよ!」
バルナギーゼ 「お前の母はフィラデルフィア=ルナルではない。ルルカ家の当主・オルトロス、そしてルナル家の当主・フィラデルフィアは500年続く楔の家訓を破り、封印を解いたのだ」
フィオ 「お、オレの母さんは…フィラデルフィアじゃない??」
倒れたオルトロスは、苦しげに顔を上げる。
その間にもルーンとガイアスは武器を交える。
ルーン 「嘘も大概にしろッ!」
ガイアス 「フ、閣下が語るものこそが、お前達の真実だ」
オルトロス 「フィオ、早く。早く逃げろ〜〜〜〜ッ!」
バルナギーゼ 「ルナル家の女は行きずりの魔族との間に子をもうけた。そしてそこの男、オルトロスは大方…」
視線を肖像画に移すバルナギーゼ。
視線の先にある、シーナ=ジスタッフ。
バルナギーゼ 「あれにある女とでも、結ばれた。違うか?」
オルトロス 「ッ!」
図星なのか、反論もできないオルトロス。
その言葉に、ルーンは気を奪われる。



フィオ 「そんな、シーナが…オレの母さん?」
ルーン 「フィオの母親が…フィアじゃ、ない?」
ガイアス 「もらった!」
ルーン 「!」



フィオ 「ルーーーーーンッッッ!」
ルーンの体をガイアスの剣が貫く。
ガイアスが剣を抜くと同時、後ろへ崩れるように倒れるルーン。
フィオ 「!」
ルーンの体を支えるフィオ。
その光景に構わず、バルナギーゼは語り続ける。
バルナギーゼ 「そうして楔の封印は解かれ、双家に女が二人生き長らえたのだ」
オルトロス 「フィオ…いかん、フィオ…」
弱弱しくフィオを呼ぶオルトロス。
ぐったりとしたルーンを支えるフィオは涙声で呟く。
フィオ 「な…何だよ、一体何なんだよ。楔の双家とか、封印とか…オレにはさっぱり分かんないよ」
ピノ 「ルーン、嘘でしょ。ルーンッッッ!」
ルーンに飛びつくピノは、嫌々と顔を振る。
ガイアスは剣を構え、ゆっくりとフィオに近づいてくる。
ガイアス 「知る必要もない。お前は我々と共にアルティマへ行くのだ」
ピノ 「大丈夫、大丈夫よフィオ。ちょっと気絶しちゃっただけだってば…」
フィオ 「ルーン、しっかりしろ。ルーン!」
ルーン 「……」
死人のように眼を閉じるルーンに反応はない。





フィオ 「ルーンッッッ!」
重い口を開くガイアス。
ガイアス 「これは禁呪。その男の心は失われた。二度と目覚める事はない」
バルナギーゼ 「娘を捕らえよ、ガイアス」
フィオへと近づくガイアス。
フィオ 「!」
アレス 「そうはさせない!」
フィオの前へ飛び込んでくる白い影。
フィオ 「アレス王!」
ガイアス 「ッ!」
アレス 「ハアアアァァァァッッッッ!」
ガイアスへ斬りかかるアレス。
一瞬見せるガイアスの躊躇。
仮面の割れる乾いた音が響く。
ガイアス 「タケル!」



光に照らし出されるシーザーの素顔。
アレス 「目を覚ませシーザー!」
ガイアス 「…クッ」
バルナギーゼ 「邪魔が入ったな…」
その声に、アレスはバルナギーゼを見上げる。
アレス 「バルナギーゼ=ウォレット。お前はそうまでして、アルティマのレインを望むのか!」
バルナギーゼ 「フン、若造が。わしが望むのはアルティマという一つの大陸ではない…」
アレス 「何だと」
バルナギーゼ 「このライムランドのすべてだ。ラシューヌ=マーハ=ルライリスの居ない、この夢界。
ルラマーハに代わり、わしがこの世界の神になる!」
アレス 「神になるだと? そんな事が、俺達人間に出来るはずがない!」
バルナギーゼ 「統べる者は力ある者だ、レイン・アレスよ。ガイアスッ!」
ガイアス 「ハッ!」
ガイアスはバルナギーゼに駆け寄る。
アレス 「シーザーッ!」
ガイアス 「……」
一瞬立ち止まるガイアス。
しかし、バルナギーゼを守るように立ち、印を組む。
ガイアス 「『テレポート』!」
消えるバルナギーゼとガイアス。
残された魔将は、鎖の解かれた猛獣のようにアレスに襲いかかる。
アレス 「クッ!」
魔晶石を一斬するアレス。
魔将は、灰となり姿を消す。
剣を鞘にしまうアレスは、二人が消えた踊り場を見上げる。
アレス 「シーザー、お前は…」
ピノ 「ルーンッッッ、ルーンったら〜〜〜〜!」
泣きながらルーンの頬を小さな手でたたくピノ。
フィオはルーンを抱えたまま茫然と動かない。
ホウンテイン 「陛下ッ!」
駆けてくるホウンテインと王宮騎士団。
我に帰ったアレスは、ホウンテインに指示する。
アレス 「オルトロスを運び出すんだ。すぐに救護室へ。看護隊を直ちに回せ!」
ホウンテイン 「ははッ!」
アレス 「……」
アレスはフィオの傍に屈む。
アレス 「フィオ、すまない。もっと早く来ていれば…」
茫然としたフィオの瞳から、ポロポロと涙が零れる。
フィオ 「何があったの? 何話してたんだよ、あいつら…。さっぱり分かんないよ。オレがどうとか、母さんがどうとか…」
ガクガクと震えるフィオは、抱きかかえるルーンを見つめる。
力ないルーンの体。
フィオ 「アレス…おう…」
涙声のフィオ。
傍に屈むアレスに訴える。
フィオ 「ルーンを…ルーンを…たすけてッッッ」

To be continued…
LEGEND =Questers=